認知症を見逃さないために・リバーミード検査が有効である理由を専門医が解説

認知症を見逃さないために・リバーミード検査が有効である理由を専門医が解説

私の認知症専門外来には、『地域の基幹病院に受診して「異常がない」と言われたが納得がいかない』といって受診される方がいらっしゃいます。私の経験上、「ご家族が何かおかしい」と思った場合は、詳細な検査をすれば、何らかの異常が見つかることが殆どです。

そんな時に、有効な検査が、認知症検査の一つ『リバーミード行動記憶検査(RBMT)』です。この検査をすると、簡易的な検査では正常と診断された患者さんでも、異常を見つけることが可能です。その精度には専門医としても驚くほどです。今回の、記事では、月に1000名の認知症患者さんを診察する長谷川嘉哉が、リバーミード行動記憶検査について解説します。

1.リバーミード行動記憶検査とは?

リバーミード行動記憶検査は日常生活に近い環境で日常記憶を総合的に評価する方法です。人の姓名や顔,約束,用件,道順な ど実際の生活場面に近い課題が含まれています。具体的には、以下のような項目を質問します。質問は多岐に及ぶため、検査時間も30分程度必要となります。

  • 顔写真を2枚見せ、それぞれ姓名を記憶させます。時間を置いてから顔写真のみで姓名を答えてもらいます。
  • 持ち物の記憶:被験者の持ち物を一つ預り、隠します。他の検査終了後に思い出させて返却を要求してもらいます。
  • 約束の記憶:最初に約束事と答えを決める。20分後にアラームが鳴るようにセットし、鳴ったら決められた質問をします。
  • 絵の記憶:絵を見せ、時間を置いてから内容を質問をします。
  • 物語の記憶:短い物語を聞かせ、直後と時間経過後に2回物語の内容を再生をしてもらいます。
  • 顔写真の記憶:顔写真を見せ、あとからどれが正しい顔写真か答えてもらいます。
  • 道順の記憶:部屋の中で施験者が道順をたどって見せ、時間を置いて被験者が正しい道順をたどれるかを見ます。
  • 用件の記憶の途中で、他の用事を直後と時間を置いて2回行ってもらいます。
  • 見当識:現在の日付、場所等を質問します。
High angle view of a senior woman doing Alzheimer's disease cognitive functions self assessment test at home
MMSEよりも複雑で難しいテストを行います

2.リバーミード行動記憶検査を行うべきケースとは

リバーミード検査は以下のような患者さんに有効です。

2-1.MMSEが正常だが、何か変

家族としては、「絶対おかしい!」と思って、病院で行った簡易的なMMSE(Mini Mental State Examination)が正常範囲のため「異常ありません」と診断されることがあります。私の経験では、MMSEが正常でも、家族がおかしいと思った場合は、多くの場合、リバーミード行動記憶検査で異常が見つけられます。

2-2.異常行動があるが、MMSEが軽度低下

周囲が迷惑するような異常行動を認める。しかし、MMSEは軽度の低下のみしか認めない場合、医師としては診断に苦慮します。そんな時に、リバーミード行動記憶検査を行うと、殆どゼロ点に近いことが良くあります。そうすると、認知症として、治療・対応することに迷いがなくなります。

2-3.MMSEが24点以下では、検査自体は無意味

リバーミード行動記憶検査は、我々がやっていても満点がとれるか不安になるほどです。そのため、当院では、MMSEの検査を最初に行い、25/30点以上の患者さんだけにリバーミード行動記憶検査を行います。

MMSEが24点以下の患者さんですと、リバーミード行動記憶検査はゼロ点になる方が多くなるからです。この段階では、診断や経過観察は、MMSEで十分なのです。

3.なぜ大病院では早期認知症が見落とされる?

当院に受診される患者さんの中には、地域の基幹病院で受診してから、再度当院で受診。早期認知症と診断される方がたくさんいらっしゃいます。そもそも、なぜ見落とされるのでしょうか?

3-1.早期認知症の診断は時間がかかる

大病院では診察に時間が取れません。そのため、検査にも時間をかけられません。認知症を簡易的に診断する、MMSEでさえ10分はかかります。そのためMMSEで異常が出る患者さんは見落とされません。しかし、それ以上にリバーミード行動記憶検査などの時間が取れません。その結果、MMSEに異常がない初期の患者さんはが、見落とされがちになるのです。

3-2.画像検査に偏り過ぎ

大病院には、CT以外にもMRI、MRA、さらには脳血流シンチなど検査機械が揃っています。その結果、画像所見だけで認知症を診断しようとします。認知症の診断において重要なのは、家族からの情報と、脳の機能です。

特に、皆さんが気にされる脳萎縮の程度は、臨床症状とあまり関係がないのです。はっきり言えば、「萎縮があっても正常な患者さん」もいますし、「萎縮がなくても認知症の症状がある患者さん」もいらっしゃるのです。画像診断だけでは脳の機能低下ははかれないと考えるべきです。

3-3.家族がおかしいと言ったら、何かある

認知症を診断される多くの医師に伝えたいことがあります。それは、「家族がおかしいと言ったら何かある」です。医師は、患者さんを短い時間で診察します。対して、ご家族は、長期間一緒に過ごしているのです。その家族の言葉には、真摯に耳を傾けるべきです。その際に、リバーミード行動記憶検査は極めて有効になります。

4.リバーミード行動記憶検査と自動車免許更新試験の関連

Senior woman driving a car
リバーミード行動記憶検査のスコアが低いと、運転免許更新時の試験でも引っかかります

平成29年3月12日の改正道路交通法では、高齢者による運転事故の防止を目的として制度の見直しが行われました。その結果、3年に1度の免許更新時には、認知機能検査が義務付けられました。実は、その結果とリバーミード行動記憶検査は関連度が高いようです。

認知機能検査の結果は以下に分類されます。

  • 第1分類:48点以下・・記憶力・判断力が低くなっている方(認知症のおそれがある方)、赤い紙で結果報告されます。
  • 第2分類:49〜75点・・記憶力・判断力が少し低くなっている方(認知機能が低下しているおそれがある方)、黄色い紙で結果報告されます。
  • 第3分類:76点以上・・記憶力・判断力に心配ない方(認知機能が低下しているおそれがない方)、青い紙で結果報告されます。

リバーミード検査の点数が低くなると、かなりの頻度で、第一分類の赤紙になります。そのため、75歳より若くて、免許更新時の試験の適応がない患者さんでも、リバーミード行動記憶検査が低下している場合は、運転を止めるように指導しています。運転免許更新時の試験については以下の記事も参考になさってください。

5.リバーミード行動記憶検査が導入されない理由

これだけ有効なリバーミード行動記憶検査ですが、なかなか現場には普及しないようです。

5-1.検査に慣れが必要

検査自体が煩雑であるため検査をする人にも慣れが必要です。当院では、外来の看護婦さんが、それぞれトレーニングを積んで検査を行ってくれています。但し、保険算定をする場合は、「検査は、医師が自ら、又は医師の指示により他の従事者が自施設において検査及び結果処理を行い、かつ、その結果に基づき医師が自ら結果を分析した場合にのみ算定する。」という基準がある点に注意が必要です。

5-2.時間がかかる

リバーミード行動記憶検査は検査自体にも30分以上かかります。その上、データを解析して、患者さんへの説明を加えると1時間を超えてしまいます。まさに、リバーミード行動記憶検査は保険算定上、「検査及び結果処理に概ね1時間以 上を要するもの」の範疇に入るのです。

5-3.保険点数は低い?

認知症の簡易検査であるMMSEは、認知機能検査その他の心理検査(簡易なもの)として80点が算定可能です。労力からすればとても安いのですが、数年前までは算定すらできなかったことを考えると、当院ではとてもありがたいものです。

対して、リバーミード行動記憶検査は認知機能検査その他の心理検査(操作が複雑なもの)として、280点が算定可能です。確かに、労力からすると低いかもしれませんが、患者さんのメリットは大です。多くの医療機関に取り組んでもらいたい検査です。

6.まとめ

  • リバーミード行動記憶検査は早期認知症の診断にとても有用です。
  • MMSEが正常でも、ご家族がおかしいと訴えられた場合は、かなりの頻度で異常を検出します。
  • クリニックにとっては手間もかかり、点数も低いですが、ご家族のメリットは大きいため、多くの医療機関に取り組んでもらいたい検査です。
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