夏になると、「熱中症にならないように」とスポーツドリンクを持ち歩く方が増えます。汗をかいたらスポーツドリンク。暑い日はスポーツドリンク。そんなイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
確かにスポーツドリンクは、運動や屋外作業などで大量の汗をかいたときには、失われた水分や塩分を補うために役立ちます。しかし、だからといって普段の水分補給として何本も飲み続けることはお勧めできません。
問題になるのが、いわゆる「ペットボトル症候群」です。熱中症を防ぐために飲んでいるはずの飲み物が、かえって高血糖や脱水を引き起こすことがあるのです。今回は、夏場に知っておきたい「正しい水分補給」について考えてみます。
目次
第1章 スポーツドリンク500mlには角砂糖7〜10個分
「スポーツ」という名前がついているため、スポーツドリンクには健康的なイメージがあります。しかし、意外に多いのが糖分です。一般的なスポーツドリンク500mlには、25〜35g程度の糖質が含まれているとされます。これは角砂糖に換算すると、およそ7〜10個分です。
運動で大量のエネルギーを消費した後なら、この糖分が役立つこともあります。しかし、エアコンの効いた部屋で普通に生活している人が、熱中症予防のために1日に何本も飲めばどうでしょうか。かなりの量の糖分を摂取することになります。
糖分を大量に摂ると血糖値が上昇します。血糖値が非常に高くなると、体は余分な糖を尿から排出しようとします。その際、水分も一緒に体外へ出てしまいます。
すると、「のどが渇く」
↓
「さらに甘い飲み物を飲む」
↓
「さらに血糖値が上がる」
↓
「尿が増えて脱水が進む」
↓
「もっとのどが渇く」
という悪循環に陥ります。
これが「ペットボトル症候群」、正式には清涼飲料水ケトーシスと呼ばれる状態です。重症になると強い倦怠感や意識障害を起こすこともあります。「水分をたくさん飲んでいるから脱水にはならない」と思っていても、飲み物の内容によっては逆に脱水を悪化させる可能性があるのです。
第2章 普段の水分補給は「水かお茶」で十分
では、夏場には何を飲めばよいのでしょうか。基本的には非常にシンプルです。通常の生活であれば、水やお茶で十分です。そもそも私たちは、飲み物だけから水分を摂っているわけではありません。ご飯、味噌汁、野菜、果物など、普段の食事にもかなりの水分が含まれています。また食事からは塩分やミネラルも補給されています。
その意味でも、熱中症対策では「しっかり食事をすること」が非常に大切です。特に重要なのが朝食です。暑い夏は食欲が落ち、「朝はコーヒーだけ」「パンを少しだけ」という方も少なくありません。しかし、朝食を抜けば、水分だけでなく塩分やエネルギーも不足した状態で一日をスタートすることになります。
私自身、熱中症対策というと「何を飲むか」ばかりが注目されすぎているように感じます。
実際には、
「きちんと食べる」
「水やお茶をこまめに飲む」
「無理をして暑い場所に長時間いない」
という基本的な生活習慣の方が大切です。
第3章 脱水が疑われるときはスポーツドリンクより「経口補水液」
さらに知っておきたいのが、スポーツドリンクと経口補水液は同じものではないということです。すでに熱中症が疑われ、明らかな脱水状態になっている場合には、経口補水液が適しています。
経口補水液は、スポーツドリンクより塩分が多く、糖分が少なく設計されています。そのため、脱水した体に水分と電解質を効率よく吸収させることができます。「暑いから毎日経口補水液を飲んだ方が健康によい」というものではありません。あくまでも脱水時に使うものです。
特に注意が必要なのが高齢者です。高齢になると、若い人に比べて「のどが渇いた」という感覚そのものが弱くなります。認知症の患者さんではさらに、自分から水分を求めることが難しくなる場合があります。
そのため、
「朝食後」
「10時」
「昼食時」
「15時」
「夕食時」
など、時間を決めて水やお茶を飲む方法が有効です。本人の「のどが渇いていないから大丈夫」という言葉だけを頼りにしないことが大切です。夏になると高齢者が急に元気をなくしたり、ぼんやりしたりすることがあります。
認知症が急に進んだように見えても、実は原因が脱水だったということは臨床でも珍しくありません。脱水を防ぐことは、熱中症だけでなく、高齢者の身体機能や認知機能を守る意味でも重要なのです。
終わりに
普段の生活なら、食事をしっかり摂り、水やお茶でこまめに水分補給する。すでに脱水が疑われる場合には経口補水液。
特に「健康のためだから」と毎日何本もスポーツドリンクを飲んでいる方は、一度ペットボトルの栄養成分表示を確認してみてください。「炭水化物」の数字を見れば、どれくらいの糖質を摂っているのか、おおよその目安が分かります。
熱中症対策で最も大切なのは、特別な飲み物を飲むことではありません。きちんと食べ、こまめに水分を摂り、暑さを避ける。結局のところ、こうした当たり前の習慣こそが、最も確実な熱中症予防なのです。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。