介護施設でポルトガル語が響く時代〜 10年後、私たちは誰に介護されるのか

介護施設でポルトガル語が響く時代〜 10年後、私たちは誰に介護されるのか

介護施設の現場で、外国人職員を見ない日はなくなりました。長谷川も15施設の協力医をしていますが、今や「外国人職員がいない施設」はほとんどありません。むしろ、どの施設でも重要な戦力となっています。先日訪問した施設では、あるフロアのスタッフ3人全員が外国人でした。普段は片言の日本語で一生懸命仕事をしています。しかし3人集まると、自然と母国語で会話が始まります。その日はポルトガル語でした。

一方、入居者の高齢者は、静かにうつむいて床を見つめている。その光景を見た時、「これは10年後の日本なのかもしれない」と感じました。もちろん、外国人介護職員の方々は本当に真面目です。日本人以上に熱心に働いている方も多い。しかし同時に、言葉や文化の壁、低賃金による離職など、現場には多くの課題もあります。今回は、介護現場で急速に進む「外国人化」の現実について、現場感覚を交えながら整理してみたいと思います。

目次

1章 介護現場で外国人職員が急増している現実

まず大前提として、日本の介護はすでに外国人なしでは回らなくなりつつあります。厚生労働省によると、2025年時点で日本全体の外国人労働者数は257万人を超え、過去最多を更新しました。その中でも、医療・福祉分野の外国人労働者は約14万6千人に達し、前年比25%以上増加しています。

背景にあるのは、圧倒的な人手不足です。介護業界は、以前から慢性的な人材不足でした。若い日本人が介護職を敬遠し、高齢化によって利用者は増え続ける。地方では「人が採れないから施設を閉める」という話すら珍しくありません。その結果、日本は外国人介護人材に大きく依存する方向へ舵を切りました。

特に増えているのは、

  • ベトナム
  • インドネシア
  • ネパール
  • ミャンマー
  • フィリピン

などの国々です。現場感覚としても、最近はネパール人スタッフが非常に増えています。実際、特定技能「介護」において、ネパール人は急増しており、介護分野がネパール人の主要就職先になっています。また、ブラジル人スタッフも少なくありません。特に製造業地域では、日系ブラジル人コミュニティが存在するため、介護分野にも流入しています。つまり、「外国人介護職員」は、もはや特別な存在ではなく、日本の介護インフラそのものになり始めているのです。

2章 現場で起きている“静かな変化”

もちろん、多くの外国人スタッフは非常に真面目です。笑顔で接し、真剣に日本語を学び、夜勤もこなす。日本人職員より責任感が強い方もいます。ただ、現場では“静かな変化”も起きています。例えば、スタッフ同士が母国語で会話する場面です。これは当然と言えば当然です。日本人だって海外で働けば日本語で話します。しかし、認知症の高齢者にとっては、理解できない言葉が飛び交う空間は、不安につながることがあります。

特に認知症高齢者は、

  • 表情
  • 声のトーン
  • 空気感

に非常に敏感です。「何を話しているかわからない」この状態が続くと、孤立感や不安感が強まることがあります。さらに、日本独特の文化や価値観が共有されにくい問題もあります。

例えば、

  • “間”を読む
  • 遠回しな表現
  • 高齢者特有の言い回し
  • 昭和世代の価値観

こうしたものは、日本人同士でも難しい。まして外国人スタッフにとっては、かなり高い壁です。介護は単なる肉体労働ではありません。「文化を共有する仕事」でもあるのです。

3章 日本人は“外国を知らなすぎる”問題

これからさらに大きな問題になるのは、日本人高齢者側の“外国理解”の不足です。今まで日本人は、「外国人と接しなくても生活できる国」にいました。しかし今後は違います。介護、物流、外食、建設――。社会インフラを外国人が支える時代になります。

つまり、高齢者自身も、

  • 外国文化
  • 宗教
  • 食習慣
  • 価値観

をある程度理解する必要が出てくるのです。例えば、宗教上の理由で食べられないものがある。あるいは、国によって距離感やコミュニケーション文化が違う。こうした違いを知らずに、「日本人と同じようにやれ」は難しい。

逆に言えば、日本人高齢者側も歩み寄らなければ、希望や感情が十分に伝わらない時代になるかもしれません。これは決して「外国人が悪い」という話ではありません。日本社会そのものが、急速に多民族化しているということです。


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4章 外国人介護職員なしでは成り立たない

ただ、現実問題として、日本人だけで介護を回すのは極めて困難です。2040年には介護人材が大幅に不足すると予測されています。しかも、今後さらに高齢者数は増えます。つまり、「外国人を受け入れるか」ではなく、「外国人とどう共生するか」の段階に入っているのです。

実際、外国人スタッフのおかげで現場が成り立っている施設は多数あります。夜勤を支え、入浴介助を支え、食事介助を支え、看取りまで支えている。彼らなしでは、現場は崩壊します。

しかも若い。介護現場の平均年齢が高くなる中で、20〜30代の外国人職員は極めて貴重な存在です。問題は、“使う側”の日本社会が、まだ受け入れ体制を十分作れていないことです。

5章 最大の問題は「低賃金」である

そして、最も深刻なのは賃金問題です。介護職の給与は、責任の重さに比べて決して高くありません。外国人だから安い給料で働く――。そんな時代はすでに終わりつつあります。

今、アジア各国も経済成長しています。日本より条件が良い国も増えています。その結果、外国人職員も、

  • より条件の良い施設へ転職
  • 他業種へ移動
  • 日本を離れる

という流れが起きています。実際、現場でも離職は少なくありません。つまり、「日本人が来ないから外国人」ではなく、「外国人にも選ばれない国」になる危険があるのです。これは介護業界だけの問題ではありません。

日本社会全体の問題です。低賃金のまま、責任だけ重く、感謝も少ない。それでは人は定着しません。介護を支える人材を本気で確保したいなら、

  • 給与改善
  • 教育体制
  • 日本語支援
  • 文化理解
  • キャリア形成

まで含めた仕組みが必要です。

終わりに

介護施設で外国人職員が増える。これは、もはや一時的な現象ではありません。10年後、20年後には、外国人介護職員が“当たり前”の社会になるでしょう。大切なのは、その変化を単なる不安として見るのではなく、「どう共生するか」を考えることです。

そして同時に、日本人自身も変わる必要があります。外国を知ること。文化を知ること。言葉を知ること。それは、これから「介護される側」になる日本人にとっても重要な教養になるのかもしれません。

介護とは、人と人との関係です。だからこそ、制度だけではなく、相互理解が必要なのです。外国人介護職員がいる未来を、“不安な未来”にするのか、“支え合える未来”にするのか。それは、これからの日本社会次第なのだと思います。

 

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