要介護者を抱えたご家族にとって毎月の経済的負担は重いものです。
「いつ終わるかわからない介護の費用をいつまで負担するのか?」 そんな負担を減らすことができる公的制度の一つに、「特別障害者手当」があります。しかし、市の広報などをみて「わが家は対象でない」とあきらめられている方がたくさんいらっしゃいます。
私が、ケアマネに向けに行っている講演「認知症専門医が語るちょっと得するお金の話」の中でも指摘していますが、最も受給漏れが多い制度です。大げさでなく、講演の翌日にはケアマネが役所の窓口に殺到するほどです。
今回の記事では、ファイナンシャルプランナー資格をもつ認知症専門医長谷川嘉哉が、特別障害者手当の受給漏れを防ぐとっておきの情報をお知らせします。
目次
1.特別障害者手当とは?
特別障害者手当は国の制度です。在宅で常時特別な介護が必要な20歳以上の方で、身体または精神に最重度の障害を持つ方に手当を支給します。
手当額は、月額26,810円(物価スライドにより改定される場合があります)。3か月ごとにまとめて支給されます。(支払月は5月・8月・11月・2月)
2.特別障害者手当の対象者とは
次のとおり規定されています。
20歳以上で、日常生活において在宅で常時特別の介護を要する、最重度の身体または精神の障害者で、下記の政令で定められた障害程度に該当し、かつ重複障害の方。おおむね身体障害者手帳1級(一部2級を含む)。
障害者の方だけでなく介護保険の要介護4、5で特別な介護が必要な方も特別障害者手当の申請は可能です。
政令で定められた障害程度
- 両眼の視力の和が0.4以下のもの
- 両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの
- 両上肢の機能に著しい障害を有するもの又は両上肢のすべての指を欠くものもしくは両上肢のすべての指の機能に著しい障害を有するもの
- 両下肢の機能に著しい障害を有するもの又は両下肢を足関節以上で欠くもの
- 体幹(たいかん)の機能に座っていることができない程度又は立ち上がることができない程度の障害を有するもの
- 前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
- 精神の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの
3.年金とは別の制度である
特別障害者手当という言葉には「年金」という言葉が入っていません。つまり、年金制度とは別の制度です。
3-1.無年金でも受給は可能
障害基礎年金のような、国民年金の納付要件は問われません。つまり無年金でも、所得制限以下で認定基準に該当すれば受給することができます。私の患者さんで無年金の在宅患者さんがいらっしゃいました。「特別障害者手当を受給することで、子供さんへの負担が減った」ととても喜んでいただけました。
3-2.障害年金との併用給付も可能
障害年金との併給についてもよく質問されます。結論的には、制度が別ですので併用給付が可能です。ただし、特別障害者手当の認定基準は障害年金1級よりも厳しいものです。そのため、障害年金2級程度であれば、そもそも特別障害者手当の基準に該当しない可能性が高くなります。
4.特別障害者手当が受給できない方
次のいずれかにあてはまる方は受給できません。
- 20歳未満の方
- 病院または診療所に継続して3ヶ月を超えて入院されている方
- 施設に入所されている方
- 受給者(申請者)や受給者の配偶者・扶養義務者の所得が所得限度額を超えている方
5.受給の対象外となる「施設に入所」とは
特別障害者手当の支給制限条件として、「施設に入所されている方」とあるのを見て、特別障害者手当がもらえないと判断してしまう方がたくさんいらっしゃいます。ここに誤解が生じやすいのです。
5-1.介護保険上の施設以外は「在宅」扱いになる
介護保険施設とは、介護保険サービスで利用できる公的な施設で、介護施設としての「特別養護老人ホーム(特養)」、リハビリを中心とした「介護老人保健施設(老健)」、長期入院して療養する「介護療養型医療施設(療養病床)」の3種類があります。逆にいえば、この3種類以外への入所、利用は在宅扱いになるのです。
5-2.介護保険上は在宅扱いの施設の具体例
最近では、「グループホーム」や「有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者住宅」に入居されている要介護者が増えてきています。皆さんがこれらの施設を訪ねると、多くの方は「ここは施設」と感じるでしょう。しかし、介護保険上は在宅扱いなのです。
つまり、グループホームや有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅に入居されている方でも障害の程度を満たせば特別障害者手当の受給が可能なのです。
6.所得制限には世帯分離で対抗しよう
特別障害者手当には所得制限があります。この手当の申請者本人、その配偶者又は生計をともにする扶養義務者の前年の所得額が、下記の限度額を超えるときは、手当が支給されません。
本人や配偶者が所得限度額を超えていれば受給は困難です。
所得制限基準額 | ||
扶養人数 | 受給対象者本人の 所得限度額 |
配偶者または 扶養義務者の 所得限度額 |
0人 | 3,604,000円 | 6,287,000円 |
1人 | 3,984,000円 | 6,536,000円 |
2人 | 4,364,000円 | 6,749,000円 |
3人 | 4,744,000円 | 6,962,000円 |
4人 | 5,124,000円 | 7,175,000円 |
しかし、生計を共にする扶養義務者の所得制限が超えていれば、世帯分離も検討しましょう。
ちなみに、「生計を共にする」とは、住民票の世帯の話です。つまり、世帯分離してしまえば「生計を共にしなくなる」ので本人の所得制限がなければ、特別障害者手当の受給は可能になるのです。
世帯分離について詳しく知りたい方は以下の記事も参考になさってください。
7.特別障害者手当の申請方法
特別障害手当を申請をする時には住んでいる地域の市区町村の役所の福祉担当窓口や福祉事務所にて行います。
7-1.主治医による“診断書”が必要
病院窓口にて「特別障害者手当用診断書」作成の申込みをしてください。主治医に書いてもらえます。
7-2.必要な書類
- 身体障害者手帳
- 年金証書(障害年金を受けている人)
- 本人名義の預金通帳
- 印鑑
- 所定の診断書(各総合支所区民課の窓口にあります。)
- 平成28年1月から特別障害者手当の申請時には、マイナンバーの記載が必要となりました。また、マイナンバーを記載した書類の提出時には、本人確認が出来る書類と番号確認が出来る書類が必要となっています。
※その他にも必要な書類があることがありますので、詳しくは市町村の保健福祉係または福祉課等にお問い合わせください。
8.窓口の担当者も知らないことがある
今回、特別障害者手当の受給についてご紹介しました。しかし、窓口の担当者が抵抗勢力になることがあるので注意が必要です。
8-1.窓口の担当者が判断するわけでは無い
自分がご家族に、「特別障害者手当の受給資格を満たすので書類をもらってくるように」と、お話しすることがあります。しかし、ご家族が窓口にいくと、担当者が「この程度では特別障害者手当の適応ではないですね」と診断書すらもらえないことがあります。判断は、窓口担当者がするわけではありません。これ以降、当院では特別障害手当の書類はクリニックで常備するようにしました。
8-2.窓口担当者との闘い
「グループホームや有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅に入居されているかたでも障害の程度を満たせば特別障害者手当の受給が可能」という点は、私自身で、県や厚生労働省で確認済です。しかし、私の講演を聞いて役所を訪ねると、「グループホームや有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅は施設」と勘違いしている担当者がたくさんいらっしゃいます。その度に説明をする必要があります(結果的には受給ができます)。
9.まとめ
- 特別障害者手当はもっとも受給漏れが多い公的制度です。
- ご家族が入所されているかたは、その施設が介護保険上の施設であるか確認をしましょう。もしかすると、在宅扱いの施設であれば特別障害者手当の受給は可能です。
- 扶養義務者の所得制限が超えていれば、世帯分離することで特別障害者手当の受給が可能にあることもあります。