岐阜県土岐市の医師会には、介護サービスを利用する際の統一した診断書があります。その中には、ツベルクリン反応(以下、ツ反)が含まれています。しかし、最近、「ツ反は必要ありません」といった施設が増えています。確かに、ツ反は48時間後に反応をチェックする必要があるため、患者さんやご家族には負担です。しかし、ツ反を軽視すると、結核の集団感染という事態にもなりえます。今回の記事では、総合内科専門医の長谷川嘉哉が、介護施設の診断書作成におけるツ反の必要性についてご紹介します。
目次
1.ツベルクリン反応とは?
ツベルクリンという液を皮内注射して、48時間後に判定します。結核菌感染やBCG接種を受けた人は、皮膚が赤く反応します。ツベルクリンはヒト型結核菌の培養液から分離精製した物質で、注射をしても結核を発病することはありません。
*BCG接種:ウシ型結核菌の毒性を弱めて作った生ワクチンを接種して、結核菌に対する免疫をつけて結核を予防する。BCGの由来は、「カルメットとグランの菌」の頭文字を取っています。
2.判定方法
ツ反は、前腕部に検査薬を皮内注射します。そうすると、注射部位は蚊に刺されたような豆型の盛り上がりになります。その後48時間後の注射部位の変化で判定します。
陰性:注射部位の発赤の長径が10mm未満・・結核に対する免疫をもっていないと判断。
弱陽性:注射部位の発赤の長径が10mm以上であるが硬結や2重発赤はない・・過去に結核菌に感染したか、BCG接種により結核に対する免疫あると判断。
中等度陽性:注射部位の発赤の長径が10mm以上で硬結を伴う
強陽性:発赤の長径が10mm以上で硬結以外に2重発赤,水疱,壊死を伴う・・結核が発症している可能性が疑われます。
3.なぜ子供達には、ツ反を行わなくなったのか?
私が平成12年に開業したころは、医師会の仕事の一つであるツ反は若手の仕事でした。なにしろ作業自体が細かいので、老眼の先生方に負担が重かったのです。そんなツ反ですが、平成17年4月からBCG直接接種が導入され、省略されることになりました。
それまではBCGの対象年齢が4歳未満であったため、結核の既往歴があるか否かを調べるためにツ反を行っていました。しかし、生後5カ月までの乳幼児に対象年齢が下がったことで、結核の既往がある方がほぼ0%になったため、ツ反を行う必要性がなくなったのです。但し、1歳を超えて任意接種として医療機関でBCG接種を行う場合は、医師の判断でツ反を行うこともあります。
4.岐阜県土岐市の診療情報提供書に「ツ反」がある理由
私が開業している岐阜県土岐市の介護施設利用時の診断書は医師会が統一規格のものを作りました。その際に、ツベルクリン反応を項目に入れるか否かで議論になりました。ツベルクリン反応は48時間後に確認する必要があるため多くの患者さんに負担を強いてしまいます。
そのため多くの医師は、ツベルクリン反応を項目から除外すべきと考えていました。しかし、当時80歳を超えていた結核の専門医の先生が、「結核は画像診断だけでは見落とすことがある。介護施設で結核が蔓延すると大変なことになる。ツベルクリン反応により、活動性の結核を否定すべき」との意見をおっしゃり、最終的に取り入れられることになったのです。
5.ツ反に代わる検査は?
最近では、ツ反に代わる検査として、インターフェロンガンマ遊離試験(IGRA)があります。この検査は、血液を使って結核菌に感染しているか否かを診断するための検査です。陰性なら安心できますので、介護施設入所の際には、この検査がツ反の代わりにしても有効ですし、検査も1日で済みます。
ただし、検査費用が高い点が問題です。診断書作成の場合は、保険が効かずに自費負担になります。医療機関によって差がありますが、ツ反は3000円程度、インターフェロンガンマ遊離試験は8000円程度となります。
6.結核の診断は難しいので、施設は常に警戒を
欧米などでは結核罹患率は、人口10万人対10以下の低蔓延国になっています。一方で、日本は2017年に人口10万人対13.3と「中蔓延国」であり、1万人以上の患者さんが報告されています。コロナ禍で関心が低くなっていますが決して注意を怠ってはいけません。 ご紹介したように未だに、結核の検査を組みわせることでしか診断できません。そのため、見落とされることもあります。ですから、施設に入所者を受け入れる際は、可能な限り結核を否定する必要があります。入所診断書では決してツ反もしくはインターフェロンガンマ遊離試験を除外してはいけないのです。
7.まとめ
- 介護施設の入所時には、結核を否定する必要がありますが、その検査を不要とする施設が増えています。
- 日本は、結核の中蔓延国であり、年間1万人以上の患者さんが発生しています。
- 介護施設は、結核を甘く見ることなく、入所診断書では必ずツ反もしくはインターフェロンガンマ遊離試験を行うべきです。