パーキンソン病は、超高齢化時代に伴って増加しています。認知症を専門にしている当院でも、脳神経内科であるためかなりのパーキンソン病患者さんを診察しています。パーキンソン病とは、身体を上手に動かすことができなくなる疾患です。治療の主体は薬物療法で、根本治療ではなく対処療法が主体です。そんなパーキンソン病ですが、近年腸内細菌の関与が示唆されています。今回の記事では、パーキンソン病が 脳の病気でなく腸の病気である話について解説します。
目次
1.従来のパーキンソン病の考え方
パーキンソン病には四大症状として、「手足が震える」「筋肉がこわばる」「動きがゆっくりになる」「姿勢を保てなくなる」があります。これらの原因は神経の伝達物質であるドーパミンが減少するためです。ドーパミンは中脳の黒質という組織で作られるので、パーキンソン病の患者さんでは、黒質の神経細胞が変性してドーパミンが減少すると考えられています。
2.パーキンソン病は腸から始まる
パーキンソン病の患者さんは運動障害以外にも、いろいろな全身の症状を認めます。特に外来でも多くみられる症状としては、便秘、睡眠障害、排尿障害、抑うつなどです。経過のなかで発症する20年前から便秘が始まる傾向があります。実際、腸とパーキンソン病の発症が関連している可能性を示唆する報告がたくさん出ています。
- 便通が1日1回未満の人は、2回以上の人に比べて1倍パーキンソン病になる確率が高い
- 潰瘍性大腸炎の人はパーキンソン病の発症率が41倍
- 手術で虫垂を切除した人は、していない人に比べて2割近くパーキンソン病の発症率が低い
3.α-シヌクレインが腸で産生
現在、パーキンソン病の原因として、α-シヌクレインという蛋白質が原因という説が有力です。腸管内には腸内細菌叢という無数の細菌が生息しており、これらは体内の免疫など多くのことに関与していることが分かっています。パーキンソン病患者さんでは特定の腸内細菌が多い傾向があり、結果として腸管内でα-シヌクレインが生産。産生されたα-シヌクレインが脳へ移行することによりパーキンソン病を発症するとい考えられています。
4.順天堂大学が「腸内細菌叢移植療法」に関する共同研究を開始
薬で腸内細菌叢の組成を変えることは非常に困難です。そのため抗生剤でいったん腸内細菌を殺して、他の健康な人の糞便(腸内細菌)を移植するという治療法があります。これが今回の治験です。治験により安全性や治療効果について検討。成果により、パーキンソン病患者に対する腸内細菌叢移植療法が新たな治療の選択肢として提供できれば患者さんには朗報です。
5.認知症も腸内細菌?
個人的には認知症も脳の疾患ではなく「腸の疾患」ではないかと感じています。日々の臨床で、「脳の萎縮があっても、正常な方」、「脳の萎縮がなくても、認知症が進行している患者さん」を診ていると脳に対するアプローチだけでは限界があるように思えるのです。もしかすると、いずれパーキンソン病と同様に、認知症も「腸の疾患」という時代が来るような気がします。
6.まとめ
- パーキンソン病は、脳の疾患ではなく「腸の疾患」フォームの終わりの時代です。
- 今回、健康な人の糞便(腸内細菌)を移植するという治療法の治験が行われます。
- 今後、認知症も「腸の疾患」という時代が来るかもしれません。