明けましておめでとうございます。ところで休み中、久々に御両親や祖父母さんに会われた方がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか? その時に「何かおかしい」と思われたことはないですか? 久々にあった人が「何かおかしい」と感じたことは、結構正しいものです。
そんな時は、ぜひ先延ばしすることなく認知症専門医を受診してください。多くの場合、当事者は受診をすることを嫌がります。その時は子供さん、お孫さんたちが、一生懸命説得して下さい。それでも、頑なに受診を拒む場合は、まさに「前頭葉機能の低下による論理的思考と理性の働きの低下」が疑われます。専門医の立場からすると、受診が早ければ早いほど効果があります。ぜひ「何かおかしい」と思われたら躊躇しないでください。
今回の記事では、月1,000名の認知症患者さんを診察している認知症専門医の長谷川嘉哉が、専門医を受診する際のチェックポイントをご紹介します。一つでも該当する場合は、受診を検討ください。
目次
1.家の中から異臭がする
認知症の初期には、臭いに対して鈍感になります。久々に、実家に帰って何か臭うなと思ったら要注意です。原因は、家の中に痛んだ食材が残っていたり、ゴミが溜まっているケースが多いのです。『なんで平気なの?』と聞きたくなりますが、本人が異臭に気がついていないのです。
また、臭いの問題だけでなく、ゴミを捨てることが出来なくなっている可能性もあります、最近は可燃物、不燃物、カン・ビン、さらに金属ゴミなど、ゴミの捨て方が複雑になっています。分類がきちんと出来ない、捨てる曜日がわからないのです。その結果、間違えた時に近所の人から注意され、出せなくなってしまう人も多いのです。
年を取ると入浴がおっくうになる方も増えてきます。お風呂好きであった人でさえ、入浴拒否される方もたくさんいらっしゃいます。その結果、服も汚れ、身体も汚れ異臭を発するのです。ちなみに、私の患者さんで最長の方は2年間入浴されていませんでした。
2.整理整頓が出来ていない
以前はきれい好きだったのに片付けが出来ておらず、部屋の整理整頓ができていないことはありませんか? 実は、加齢変化に伴って前頭葉機能が低下すると、モノを片付けることが苦手になります。物が多くて物理的に収納が追いつかないというのではなく、「不要なものは処分、必要なものは整理する」ことが、脳の機能的に出来なくなるのです。
ちなみに食器棚の様子も大事です。同じお皿やお椀は、普通重ねて収納しますが、その場所がわからなくなり、ただ雑然としまっているだけということもあるのです。
3.料理の手順が悪く、レパートリーが減った。味が変わった
料理の手順が悪いということは「デュアルタスク」、つまり二つのことを同時進行する前頭葉の能力が落ちていることを意味します。魚を焼きながら味噌汁を作るはずが、焦がしてしまい鍋も吹かす。それで仕方なく一つ一つやるので時間がかかってしまう。
もともと料理好きでレパートリーも多かったのに、同じ料理が繰り返される場合も注意してください。自分の親なので客観的に見ることが出来ず、『たまたま面倒臭かった?』と思い込みがちです。でも同じ料理の繰り返しはやはり変です。
料理の味が変わったのは、やはり嗅覚の問題が考えられます。普通の加齢変化であれば味覚が鈍くなるのので、味が濃い目になってしまうということはあります。さらに進行すると、塩や砂糖の量の加減ではなく、味自体がめちゃくちゃになってしまうことにもなるのです。
4.冷蔵庫に賞味期限切れの食材が増えた!
認知症の始まりの一つに、「計画性の低下」があります。その結果、同じ食材ばかり買ってしまったり、買ったこと自体を忘れてしまうのです。その結果、冷蔵庫には賞味期限切れの食材が増えるのです。
さらに、缶詰や煎餅など、冷蔵庫に入れる必要のないものまで入れてしまう。中には、セロハンテープとか通帳といった全然関係ないものが入っていることもあります。通帳は防犯やへそくりの意味ではなく、『大事なものはとりあえず冷蔵庫』という意識のようです。逆に、豚肉などの冷蔵品を戸棚にしまって、腐らせてしまうこともあるのです。
5.以前に比べ、金銭感覚が変わった
「計画性の低下」は金銭感覚にまで及びます。無計画にお金を使ってしまうこともあります。たまたま親の通帳を見たら「ほとんど残っていなかった」という話もよく聞きます。子供が、「何を買ったのか、何に使ったのか」を聞いてもよく覚えていないのです。私の患者さんには、他人にロレックスの時計を購入してあげてしまったケースさえあります。
親の通帳を確認するのはなかなか難しいかもしれませんが、相続の話をするなど、どこかで一度財産状況を確認することがお勧めです。
6.些細なことで、すぐ怒る
認知症の初期段階では、前頭葉機能が低下します。この場合の症状の一つが、「感情のコントロールが出来なくなる」です。どうもこの言葉を聞くと突然起こりだす、『地雷言葉』があるようです。例えば「年金」、「親戚の特定の人」、「お酒の話」など、キーワードを聞いた途端に、瞬間的に怒り出すのです。
*地雷言葉:医学用語ではありません。外来で患者さんの家族が使われた言葉です。あまりにも、うまく状況を言い表しているので、他の患者さんにも使っています。とても分かりやすい表現と好評です。ある言葉を使うと、地雷を踏んだごとく怒りだす。しかし、時間がたつと怒ったことさえ忘れて、ケロッとしているのです。
7.運転が危なっかしく、車に小さな傷がいくつもある
昼間にでも車をよく見てください。電柱などにガツンとぶつけたという大きな凹みではなく、擦り傷だったり、ボコボコとした傷が複数あるケースが多いようです。おそらくはスーパーの駐車場とか、狭い曲がり角なんかでぶつけているのに、気がついていないのです。それを指摘しても、「止めている時にぶつけられたんだ」とか、言い訳することが多くなります。
実際に事故を引き起こして車を廃車にしてしまうこともあります。中には、孫たちは怖がって祖父の車には乗らないという家族さえいらっしゃいました。
いずれにせよ、傷がついているだけでも大きな事故につながりますので、運転は辞めて免許を返納しましょう。以下の記事も参考になさってください。
8.身だしなみを気にしなくなった
身だしなみは大事です。男性であれば、髭をそらない。女性であれば、化粧をしなくなった場合は、注意が必要です。不思議と身だしなみに気を使わなくなると、外出が減って家の中でぼっーとしてることが増えてきます。
これは、どちらも気力の問題です。以前はよく出かけて、友達とおしゃべりしていたのに、ぼーっと一日中テレビを観ている。出かけないので、身だしなみも気にしなくなり、引きこもりがちになってしまう。こうした生活を続けていると、脳への刺激が減り認知機能がさらに低下してしまうのです。
9.少し前の出来事自体を覚えていない
誰でも加齢とともに物忘れの症状は出てくるものです。たとえば、「先月会った人の名前を思い出せない」というのは加齢によるものです。一方、出かけて誰かに会ったという行動自体の記憶が、抜け落ちている忘れ方は認知症特有のものです。
10.受診の説得方法
以上のような症状があって、専門医を受診させようとしても本人が拒否することは結構あります。そんな時は、どうやって連れて出せば良いのでしょうか?
- 家族で説得:とにかく、配偶者・子供たちで必死になって説得しましょう。普通は、周囲の人間が、必死になればしぶしぶでも受容してくれるものです。それでも拒否する場合は、やはり認知症は進行していると思われます。
- 異性が説得:同じ説得をする場合も、可能なら母親には息子、父親であれば娘さんが効果的です。いなければ、義理の関係でもいいので異性が説得するのがコツです。実際に外来を見ていても、このパターンで来られるケースが多いです。
- 市町村の検診:今の高齢者は公的なものには従う傾向があります。「健康診断が必要」、「何歳以上は頭の検査が必要」などと理由をつけると、思いの他したがってくれるものです。