私は、決算書を熟読することが好きです。数字を見ていると、診療で疲れた脳が休まる気がします。そんな決算書の歴史が書かれた本に出会いました。『帳簿の歴史byジェイコブ・ソール』です。本の中からいくつか紹介します。
・ 国の浮沈の鍵を握るのは政治の責任と誠実な会計だった。
・ 複式簿記なしに近代的な資本主義は成り立たないし、近代国家も存続できない。しかし、複式簿記による政府の会計システムを安定的に確立した君主は一人もいない
・ 複式簿記の発祥は、1300年頃のトスカーナと北イタリア各地。イタリアを除く、中世からルネサンス期のヨーロッパでは、財政規律の必要性と金勘定は汚らわしいとするキリスト教の認識との衝突をまず打開しなければならなかった。会計が汚らわしい仕事だとしても、国家運営の面からは、会計はますます必要になってきた。
・東インド会社を中心に富を得たオランダ、その繁栄の秘密は複式簿記にあった。国の当事者が史上初めて複式簿記を学び、政権運営に取り入ることができたのだ。
・ イギリス史上最も成功した陶磁器メーカー・ウェッジウッド。彼は経営に確立の概念を取り込み、緻密な原価計算を行うことで会社を繁栄させた。この時代、富は信心と几帳面な会計の産物だとみなされた。
・ 権力とは財布を握っていることだ、アメリカの建国の父たちの一人、ハミルトンはこう喝破した。複式簿記を郵政会計に導入したフランクリン、奴隷も個人帳簿に計上したジェファーソン。彼らは皆会計の力を信じた。
ちなみに、日本の国の会計は「ほぼ複式簿記」になっている、ということです。しかし国会で審議される予算書、決算書の表示の仕方は、戦後ずっと単式簿記的に表示されているそうです。別の面から、この国の将来に不安を持ってしまいます。ということで、いつもならこの本をお勧めするところですが、よほど会計が好きな人でなければ読めないと思います。購入するなら覚悟を決めてください。