20年前から、私が事あるごとに紹介している予想小説があります。堺屋太一さんの「平成三十年」です。1997年から1998年(平成9年から10年)にかけて朝日新聞で連載小説されたものです。20年前に読んだときは、「本当かな?」と思うことも結構あったのですが、途中の平成20年の時点でも、恐ろしいほど当たっていました。
そして、ついに「平成30年」を迎えました。残念ながら当たっていない内容もあったのですが、逆にこれこそが平成30年以降に的中しそうな真実味があります。
平成30年とは、明治150年であり、その中間の明治74年(=1941年=昭和16年)は太平洋戦争を始めた年であるのです。「平成30年が現実になったから、もう古い」でなく、改めて読んでみると今度こそ現実化しそうな内容が散らばっています。
目次
1.本の中で当たっている予想とは
ここに挙げたものは今では当たり前のことが多いのですが、20年前には想像もできなかったことです。改めて堺屋さんの洞察力に驚きです。ご紹介します。
1-1.年間出生数100万人を割る
団塊世代250万人、団塊ジュニア200万人に対しての数字です。
これなどは今では普通の話です。しかし、出生数が100万人を初めて切ったのは2016年の97万6978人です。その後、2017年はさらに2016年より3万6千人減りました。今から20年前の1997年の時点で明確に予想していたのです。
1-2.住宅新築件数が、年間160万戸から70万戸へ
小説の中では、住宅新築件数は100万戸を超えないと明確に書かれています。実際、1980~90年代には、全国の住宅着工戸数は年間120~170万戸で推移していました。その後2000年代に入ると、徐々に着工戸数の水準は下がり、景気が急激に悪化したリーマンショック後の2009年には、年間80万戸にまで縮小しました。アベノミクス以降景気はかなり回復したのですが、年間100万戸の回復は難しい状況です。
1-3.貯蓄率の低下
日本人は元々貯蓄が好きです。しかし2000年前後にはやや横ばいでしたが、2013年度ではマイナスに転じてしまいました。(2014年度以降ではわずかですがプラス値を計上しています。)
1-4.当時は違和感を覚えた事柄
以下は現在ではかなり当たり前ですが、執筆された平成10年頃にはかなり違和感を覚えたものでした。特にレアメタルという言葉は、今では一般的ですが当時は馴染みのない言葉でした。堺屋さんは、レアメタルの高騰がすべての引き金になると予想しており、その先見性には驚きです。
- 晩婚化が進む
- ネットコンビニ:インターネットで注文すると指定時刻に希望の品が届く
- 首都機能移転は、実現できず東京の一極集中が続く
- 高齢者の大口就職先として、タクシー運転手、ビル清掃、喫茶の出前:現在、タクシーに乗っても、年金をもらっている高齢者にありながら個人事業主として歩合制で契約している人ばかりです。ニュータウンのマンションが古び、人が減る。空き家も増え、いわゆる郊外の「高齢化の輪」が進んでいる
- 調理は家庭ではせず、テイクアウトか中食ですます。今一番料理をしないのは、子育てを終えた主婦達と言われています。
- 西暦2000年の値段を100とすると、レアメタル582、原油380、小麦260、鉄鉱石238
2.これから現実化しそうな予想とは
平成30年が明治150年と考えると、その間の明治74年(=1941年=昭和16年)です。ということは、あと3~4年で終戦を迎えることになります。その頃には東京オリンピックも終わっています。そこに東南海地震でも起きていれば終戦並みの混乱です。その時には「小説の中では描かれ、現実の平成30年では実現していなかった以下の事項」が現実化するかもしれません。以下にこの本の予想を紹介します。
2-1.為替レートの予想
1ドル230円台。政府内では300円まで円安に誘導すべきだという意見も。円安で輸出産業を保護しようという目的かもしれなし。平均物価は20年前の約3倍に上昇し、特にガソリン価格の高騰は顕著でリッター千円もするだろう。
2-2.インフレ
資源危機に端を発するインフレは当初は日本の財政と金融機関を救った。名目GDPが大幅に伸びたため、国債残高の比率は相対的に縮小し、金融機関が抱えていた不良債権も解消してしまった。ところがこれを機に、財政赤字を容認するムードが強まってしまう。平成30年の名目GDPは1300兆円に膨張しているが、国債残高は2000兆円近くにまで達している。
2-3.国民負担率(税+社会保障費の負担割合)の上昇
平均的な給与所得者の場合、給料の14%が年金保険料、20%が所得税、6%が地方税として天引きされている。また、消費税率は12%だが、これを20%に引き上げようという議論がなされている。そのため、多くの人が、「給与明細の収入は増えても、お金が残らない」ことを実感している。
3.医療介護の現場で参考になるビジネスモデルがあった
本の中では、医療介護の現場で参考になりそうなビジネスモデルが満載でした。いくつかご紹介します。
3-1.ライフサポート付き賃貸マンションが増える
売れ残りマンションを買い集め、そこに家事手伝いのサービスを提供するようになります。これは良いアイデアだと思います。特養や老健といった箱モノを作るのではなく、売れ残ったり、空き家になったマンションを有効利用する方法です。
3-2.病院付属のマンションが出現する
病院に普通の1DKマンションを付属させます。医療機関としては、賃貸不動産でも利益が上がります。何よりも、そこに住む患者さんも安心です。医療施設も対応が容易になります。
3-3.医療減反
これも現実化しても良いと思います。現在は、診療所であれば許可などは全く不要で、届出だけで開設できてしまいます。そのため、国が大部分を負担して養成した医師が、いつでもどこでも自由に開業できてしまいます。ただし、これが実施されると従来開業していた人に「既得権」が発生してしまいますが・・。
4.長谷川が予想する医療介護現場の平成50年とは
堺屋さんに負けずに、自分も医療介護現場の20年後を予想してみます。
4-1.医師・歯科医師の境遇
2025年問題と言われた団塊世代もさすがに亡くなっており、人口自体が減っている。そのうえ、平成30年頃から行われた、医師数の定員増の影響で医師は余り状態。そのうえ、医科は保険診療が中心であるため、急激なインフレに改定が追い付いていない。そのため、医師機関の収入は相対的に減少し、医師の給与も全く伸びていない。
一方で、歯科医師は、「歯周病菌が認知症が悪化させる」という平成30年の発見以降、定期的な歯科受診率が急上昇。そのなかで、厚生労働省による歯科医師数の急激な削減により、歯科医師は絶対的に不足している。歯科治療の中心は保険外診療のため、インフレの進行に応じて、値段を上げることができ歯科医の経営は極めて安定化している。
4-2.介護施設
高齢者の数自体も減っているため、昔は3年待ちと言われた特養・老健には待たずに入所が可能になっている。そのため、平成30年頃に乱立した有料老人ホームやサービス月高齢者住宅は、半分以上が閉鎖、建物のみが残っている。多くの建物は、地主が建築して介護事業者に賃貸している。全国で、経営に困窮した介護事業者と地主との間で、賃貸契約不履行で訴訟が起きている。但し、庶民では手が出ないような高額な施設だけは、富裕層を有料顧客として生き残っている。
4-3.医療介護への監視強化
介護保険料もインフレに伴い、一人1か月15,000円まで増加。厚生労働省による医療機関・介護機関に対する監視が厳格化している。そのため、監査に通るための、「不正もなければ親切もない」サービス提供になっている。
5.まとめ
- 堺屋太一さんの「平成30年」は恐ろしいほど当たっています。
- 平成30年になった現在、予想小説の中で当たっていない事柄こそが、3-4年の間で実現しそうです。
- 長谷川による平成50年も参考にしていただければ幸いです。