今回は「血管性認知症(脳血管性認知症)」のお話をします。
認知症といえば「アルツハイマー型」を思い浮かべるのではないでしょうか。しかしこればかりではありません。認知症の原因疾患は100以上あるといわれています。
血管性認知症は、アルツハイマー型に次いで二番目に多い病いです。
50〜70歳台で脳出血や脳梗塞を発症する患者さんがいらっしゃいます。発症当時は、片麻痺を中心とする運動障害が主です。しかし、年を取るにしたがって認知症の症状が出現することがあります。これが血管性疾患を原因とする「血管性認知症」なのです。
では、血管性認知症と診断されたらどうすればいいのでしょうか。
実は血管性認知症は、アルツハイマー型認知症とは異なる特徴があります。今回の記事では、毎月1,000名の認知症患者さんを診察している認知症専門医の長谷川が血管性認知症の特徴、予後、治療効果についてご紹介します。
目次
1.血管性認知症とは?
脳梗塞や脳出血など、脳の血管障害によって起こる認知症のことです。
脳梗塞にもいろいろな種類があり、片麻痺になる方もいますし、早めの対処が奏功して後遺症が全くない方もいます。多発性脳梗塞といって小さな梗塞巣が何度も再発する疾患もあります。
これらの脳梗塞が認知症の原因となりうるのです。脳の血管が詰まっている梗塞巣(こうそくそう)が増えたり大きくなったりする度に、徐々に脳の機能が低下することで認知症や運動障害が引き起こされるのです。
2.アルツハイマー型認知症とは何が違うのか?
血管性認知症には、アルツハイマー型認知症とは異なる特徴があります。
2-1.発症年齢の傾向に差
アルツハイマー型認知症に比べ、約10歳ほど若い年齢で発症します。アルツハイマー型認知症は80歳前後で発症する方が多いのですが、血管性認知症は70歳前後で発症することが多いという実感があります。
2-2.運動機能にトラブル
アルツハイマー型であれば、運動機能が比較的維持されています。しかし、血管性認知症は運動機能障害を伴います。片麻痺で足を引きずっていたり、片麻痺は軽くても全身のバランスが取れない失調症状が見られます。
アルツハイマー型を一言で表現すると「元気でテクテクアルツハイマー」です。運動機能が阻害されていることは少ないため、ときに何十kmも徘徊することさえあるのです。ここが血管性認知症との違いが出やすい部分です。
2-3.嚥下機能障害も認められる
私は、以前の勤務医していた病院で嚥下造影検査(Videofluoroscopic examination of swallowing)を認知症患者さんで行っていました。その結果、血管性認知症は病変の軽重に関わらず、ほぼ全例で嚥下機能障害を認めました。
一方、アルツハイマー型認知症では嚥下機能障害を認めませんでした。
3.血管性認知症特有の経過とは
以上のように、血管性認知症は運動機能障害と嚥下障害が発生しやすいです。これにより特有の経過をたどります。家族も当初は、アルツハイマー型認知症と同様に認知症の症状を訴えます。
しかし、経過の中で運動機能障害により、転倒・骨折を繰り返すことが多いのです。さらに嚥下障害により、やはり誤嚥性肺炎を繰り返してしまうのです。
つまり、繰り返す転倒と骨折、さらに誤嚥性肺炎による入退院を繰り返すのです。患者さんは入院により運動機能、認知機能いずれも急激に悪化してしまいます。
その結果、日常生活動作は確実に低下し寝たきり状態になります。その頃になると、嚥下障害により経口摂取も不安定となります。そして、必ず主治医から、家族に「胃ろうを増設するか否か?」を問われることになります。胃ろう増設のメリット・デメリットについては以下を参考にしてみてください。
4.血管性認知症の治療法と進行予防法
血管性認知症は、階段状に徐々に悪くなっていくことが特徴です。しかし、ここでは、少しでも症状を改善するための方法、進行を予防する方法をご紹介します。
4-1.原因となる生活習慣病の治療を行う
血管性認知症の原因となる脳梗塞や脳出血は生活習慣病が原因で引き起こされます。そのため高血圧・高脂血症・糖尿病のコントロールが重要です。
脳梗塞後遺症の患者さんでは、生活習慣病の治療に抗血小板療法といって、血小板の凝集を抑制することで血液を固まりにくくして、再発を予防します。
4-2.運動機能のリハビリも検討する
転倒を繰り返す患者さんに、リハビリを行うことは有効です。訪問リハビリやリハビリ特化型のデイサービスを使うことで、転倒の頻度を減らすことが可能です。
リハビリ特化型デイサービスについては以下の記事が参考になるでしょう。
4-3.誤嚥性肺炎の予防に努める
誤嚥性肺炎を防ぐためには、食事や衛生面で気を付けることがあります。
【食事で気を付けたいこと】
- いすに深く腰掛け、正しい姿勢で食べる
- 急がず、ゆっくり食べる
- 肉などは小さく切ってから食べる
- 少量ずつ口に入れ、よく噛む
- 口の中のものを飲み込んでから、次のものを口に入れる
とくに、パサパサしたものや噛み切りにくいものほど飲み込むことがむずかしく、また汁気の多いものはむせやすい傾向がみられます。「パサつくものには片栗粉やゼリーでとろみを付ける」「汁気の多いものは少量ずつ盛る」などの工夫が大切です。
【口内の衛生に気を付ける】
嚥下機能障害が起こると、きちんと飲み込めないため、口の中に食べカスなどが残りがちです。放置して口内細菌が繁殖すると、歯周病を併発したり、誤嚥によって細菌が肺に入ると、重症の肺炎を起こしやすくなります。食後は毎回きちんと歯磨きをし、いつも口の中をきれいにしておくことが大切です。
5.身体障害者3級に当てはまるかも
血管性認知症は運動機能が維持されているアルツハイマー型と違い、公的補助を受けられる可能性が高い疾患です。
血管性認知症患者さんの多くで見過ごされていることがあります。これは身体障害者手帳の取得です。身体障害者認定で3級以上ですと、医療費が無料になります。
明確に何月何日から歩けなくなったという起点がなく、徐々に歩行障害が悪化するため主治医からも見落とされるのです。
半年ほど前から100mを歩けなくなった場合は、身体障害者認定基準にある、肢体不自由の体幹不自由項目に当てはまり3級の認定が可能です。骨折や誤嚥性肺炎での入院を繰り返す、血管性認知症患者さんにはとっては医療費の負担を減らすことができるのです。
6.介護認定時、主治医の意見書はこう書いてもらう
介護保険申請時の、主治医の意見書作成の際も注意が必要です。介護保険は、運動機能と認知症の程度で認定されます。しかし、当初は認知症がメインであった血管性認知症患者さんも、途中から転倒・骨折と誤嚥性肺炎が中心となります。結果として、主治医の意見書に認知症の記載がされなくなり、介護度が低く認定されてしまうのです。
その点を主治医にもお願いして、「血管性認知症により中等度の認知機能障害を認める。さらに歩行障害による転倒骨折・嚥下障害による誤嚥性肺炎により頻回に入退院を繰り返している」という記載をしてもらいましょう。認知症もあって、運動機能障害もある場合は、介護認定で3以上が認められる可能性が高くなります。
7.まとめ
- 血管性認知症はアルツハイマー型認知症とは異なる特徴があります。
- 運動障害、嚥下障害により寝たきりになる可能性が高く、胃瘻造設の意思決定が求められます。
- 生活習慣病の改善、身体リハビリ、誤嚥性肺炎予防で少しでも改善・進行を抑制しましょう。