大腸憩室炎・自ら経験した総合内科医が伝える原因、治療、予防策7つの知識

大腸憩室炎・自ら経験した総合内科医が伝える原因、治療、予防策7つの知識

腹痛で病院を受診して、「原因は憩室炎が疑われます」といわれてもピンと来ないのではないでしょうか?

「憩室炎」は、誰にでも起こる病気ではありませんが、食事の欧米化に伴いその頻度が増加しています。さらに社会全体の高齢化が進んだことも憩室ができる人が増える原因になっています。そのため、腹痛で病院を受診された際には、必ず否定をする必要がある病気です。しかし、ときに原因が特定できず、いくつかの検査をした後でようやく診断されることもあります。

実は、私自身、憩室炎での入院歴があり、その後も付き合っています。つまり、憩室炎については医師・患者さんの両面で経験しているのです。ですから患者さんのお気持ちもよくわかります。今回の記事では、総合内科専門医および患者としての体験から、この大腸憩室炎についてご紹介します。私の予防策もご紹介していますので、参考になれば幸いです。

1.大腸憩室炎とは?

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大腸憩室炎。腸に憩室ができ炎症が発生する病気です。左側に起こることが多いです

内臓壁の弱いところにできるポケットまたは袋を憩室(けいしつ)と言います。たまたま、この小さな袋が大腸の壁にできると大腸憩室と呼ばれます。内視鏡でみるとくぼみのようになっています。多くはS状結腸や左側結腸にできますが、大腸のあらゆる部位にできる可能性があります。憩室炎とは憩室が炎症を起こしたり、穿孔(腸管に穴があくこと)が起こった状態のことをいいます。

初めて「憩室炎」という病名を聞くと不安になりますが、少なくとも命にかかわることは殆どありません。しかし、一度できた憩室自体が無くなることはないので、憩室炎にならないように注意をしながら生活をすることが必要になります。

2.原因と疫学

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大腸内にできた憩室(イメージ)

大腸憩室は、誰もが持っているものではありません。

2-1.原因

大腸憩室のでき方は先天性と後天性に分かれ、ほとんどが後天性です。後天的にできる原因は、繊維の少ない食事を長年摂取しつづけることと言われています。大腸の中の圧力が上がり、大腸を栄養する血管が壁の中に入る部分に力が加わり、あたかも風船が膨らむかのように内側から外側に向かって袋ができてしまうためです。

2-2.頻度

大腸憩室は年齢とともに増加する傾向があり、日本人では60歳以上の20%ぐらいに存在し、アメリカ人では60歳以下の50%が有するといわれていますが、最近は若い方の憩室も増えてきています。

従来、日本人では大腸の右側に多く、欧米人では大腸の左側に多いとされてきましたが、食生活の欧米化により、日本人にも左側の大腸にできる方が増え、高齢の方では左右両側にできる方が増加しています。基本的には自覚症状なく経過し、大腸の検査として注腸(バリウムを肛門から入れる検査)や内視鏡を行った際に偶然見つかるということが多いです。実は私自身、憩室の存在を知らず、憩室炎になって初めてその存在に気が付きました。

3.症状

憩室炎の症状および私の患者としての体験をご紹介します。

3-1.症状

主な症状としては、腹痛(多くは左下腹)、下痢、排便習慣の変化などがあげられます。まれに多量の出血が起こることもあります。憩室の炎症がひどくなると激しい腹痛、悪寒、発熱といった症状が起こります。

3-2.私の場合

私の場合、長年憩室があることを知りませんでした。あとで振り返ると、時々便秘がちになり、腹痛がありました。腹痛といっても我慢できる程度で、自然に軽快していました。しかし、憩室炎がひどくなった時は、耐えられないほどの腹痛になり、38度程度の発熱、便も殆ど出なくなりました。結果、緊急入院となり、絶食・抗生剤治療をしてもらうことで2〜3日で改善しました。(ちなみに、入院3日目に講演が入っており、絶食のまま点滴だけ外して90分の講演をしたものです)

3-3.鑑別疾患

患者さんに憩室があると分かっているケースでは、症状から憩室炎が診断されることがあります。しかし、大腸や腹腔および骨盤内の他の臓器の異常で、憩室炎と似た症状を引き起こすものが多数あり、虫垂炎、結腸がん、卵巣がん、膿瘍、子宮壁の良性腫瘍(子宮筋腫)などとの鑑別が必要です。

現在、癌の死亡原因で男女とも大腸がんが上位を占めています。50歳を超えたら、2年に1回の大腸ファイバー検査がお勧めです。この検査を行えば、もちろん大腸憩室の有無も分かります。

4.重篤化する合併症に注意

私自身も長年腹痛を放置していました。時に、合併症も起こり得るので注意が必要です。

4-1.腹膜炎

憩室炎がひどくなり、適切な治療をしないと、憩室に穴があき腹膜炎や結腸周囲炎を起こします。S状結腸に憩室がある場合では特に穴があきやすく、血圧が下がり重症化しやすくなります。私もS状結腸で起きているパターンですので注意が必要です。

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大腸とその周辺の図

4-2.瘻(ろう:異常な通路)

腸の炎症により、大腸と他の臓器との間に、瘻が形成されることがあります。瘻は通常、大腸の憩室が膀胱などの他の臓器に接触し、かつ憩室が破裂した場合に形成されます。その結果大腸に含まれる細菌によって炎症が起こり、隣接する組織にゆっくりと穴があき、瘻が形成されます。ほとんどの瘻は、S状結腸と膀胱との間に形成されます。

5.治療法

治療については、症状のレベルにより3つの段階があります。


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5-1.症状が殆どない場合

症状が軽度であれば、食事療法を行います。この方法で疼痛をコントロールし、正しい排便習慣に戻します。繊維の多い食事(穀類、マメ類、野菜類など)の摂取量を増やし、繊維の少ない食物の摂取を控えることで腸管の圧が下がり、症状が起こりにくくなります。

5-2.憩室炎が起こった場合

腹痛が強くなったり、発熱が出たり、便が出にくくなった場合は、憩室炎が起こっていると判断し、さらに強力な治療が必要となります。絶食までは必要がないと判断すれば、外来で抗生物質を処方し、食事を制限することで治療を行います。場合によっては緩下剤を使用することもあります。

私の場合は、おかしいと思ったら抗生剤を4日ほど服薬することで、症状は改善します。憩室の存在が明らかで、自分自身で症状が自覚できる方は、主治医にお願いして抗生剤を予防的に処方してもらうこともお勧めです。

なお、絶食が必要な重症例では入院を要し、禁食として補液と抗生物質の点滴を行います。ほとんどの憩室炎はこれらの方法で対処可能です。

5-3.手術が必要な場合

症状を繰り返す場合、合併症が起こった場合、薬物治療に反応しない重症例などが手術の適応となります。手術では、腸の一部(左側結腸またはS状結腸に多い)を切除し、腸管をつなぎ合わせて再建します。手術を行えば完全に治すことができますが、腸の機能が正常に戻るまで通常1~3週を要します。

6.予防方法

憩室炎は予防が大事です。

6-1.食物繊維を摂ろう

たっぷりの食物繊維の摂取は、くぼみ形成の予防に役立つといわれています。食物繊維には水溶性と不溶性のものがありますが、どちらのタイプでも役立ちます。但し、私の場合は、「ごぼう天てんぷら」を食べすぎた時に、憩室炎が発症してしまいました。食物繊維も過剰だとかえって、憩室炎を誘発することもあります。自分自身で、身体と相談しながら、植物性繊維の種類や量を調整することをお勧めします。

Healthy Japanese cuisine,
食物繊維の多い食事を〝ほどほどに〟心がけましょう

6-2.暴飲暴食をしない

これも私の経験です。食べ過ぎると、大腸に負担をかけてしまい、憩室炎を誘発してしまいます。やはり憩室炎だけでなく、健康一般に「腹八分目」が大事なようです。

6-3.運動習慣

運動との因果関係がはっきりしていない部分もあるようですが、憩室炎の予防に有効だといわれています。運動をすることで、腸の動きを活発にしたり、腸内の圧力を減らす働きがあります。

個人的には、歩行の効果を感じています。運動により大腸の動きが刺激され、残渣物も排泄されます。私は、ほとんど毎日外来前にトレッドミルの機械で30分ほど歩いています。そうすると、朝食後の排便だけではでなかった物が、排泄されることを実感します。

6-4.水分を多く摂る

水分の摂取も大事です。食物繊維は水を吸収することで便の量を増やし、軟らかくする働きがあります。食物繊維をせっかく沢山とっても、水分が不足していると逆に便秘になることもあるので注意が必要です。

6-5.トイレのタイミングを逸しない

トイレのタイミングを逃してしまうと、便の軟らかさが失われてしまうこともあり、排便時に余計な圧力がかかる原因となります。普段から気をつけることは、動物性タンパクや脂肪を減らし、繊維質の多い食事を心がけ、便秘をしないよう、場合により下剤を飲むことも大切です。

7.最も効果的なことは、交感神経の安定

憩室炎の予防で、私自身が最も効果的と思うことは、交感神経の安定です。

7-1.交感神経の過剰興奮が炎症を誘発する

人間の体は、交感神経と副交感神経のバランスで成りなっています。交感神経が過剰に働くと、白血球の顆粒球が過剰に働き、身体が炎症を起こしやすくなります。皆さんも、生活が不規則になって、吹き出物やおできができることはありませんか? 逆に、副交感神経が優位になると、リンパ球の働きが過剰になり、アレルギー反応が起きやすくなります。つまり、交感神経と副交感神経はどちらかが優位になることなくバランスを取ることが重要です。

7-2.憩室炎の原因「細菌感染」を起こさないために

大腸憩室炎はまさに細菌感染であるため、仕事が忙しく、交感神経が過剰に興奮した状態になると、左の下腹部がシクシクと信号を送ってくれます。その時は、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせます。そして、やらなければいけない仕事の優先順位をつけ、すべてを完璧に取り組まないようにします。そうすると、身体も楽になりますし、抗生剤を飲まなくても憩室の炎症はおさまることがあるようです。

8.まとめ

  • 食事の欧米化、高齢化により大腸憩室を持つ人が増えています。
  • 定期健診等で、大腸の検査をして、憩室炎の有無を知っておくことは大事です。
  • 憩室を持っている方は、生活習慣を見直すことで、憩室炎の発症をコントロールすることができます。
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