突然胸がドキドキすることはないでしょうか? 医学的には、動悸と呼ぶことが多いのですが、多くは突然起こります。そんな時には、救急で医療機関に受診すればよいのか迷うものです。正直、動悸には多くの原因があるため、医師でさえその原因に苦慮することがあります。ただし、動悸は命にもかかわることもあることから、重症度の高い疾患から否定することが大原則です。今回の記事では、突然の動悸で不安になった患者さんが医療機関の受診の参考になるよう、重要度のチェックポイントについて、認定内科専門医の長谷川嘉哉がご紹介します。
目次
1.動悸とは?
動悸とは、「心臓の存在を感じること」と言えます。これは私が学生時代に教えてもらった動悸の定義です。いま考えてもうまい表現です。具体的な表現では、動悸とは、普段よりも心臓の鼓動を強く、もしくは速く感じたり、脈が乱れているように感じたりする症状です。
日常の中で、心臓の存在などは意識せずに生活しています。しかし、動悸を感じたとたんに心臓の存在を感じるようになるのです。
2.緊急の受診が必要な状況は?
動悸にはいろいろな原因がありますが、大事なことは緊急での受診が必要なことがあることです。以下の場合は、緊急で医療機関に受診しましょう。
2-1.突然動悸を感じて安静にしても改善しない
突然動悸を感じて、動くことができないほど激しい心臓の高ぶりが出現した場合は、まずは安静にしてください。安静にしても症状が改善しない場合は緊急で医療機関を受診することが必要です。
2-2.動悸以外の症状がある
動悸だけでなく、胸が痛かったり、息苦しかったり、意識が遠のく症状がある場合は、心筋梗塞、狭心症、肺塞栓症なども疑われますの救急受診が必要です。
2-3.安静にしているのに、脈拍が140回/分を超えている
自身もしくは周囲の方で脈拍を測定してみましょう。安静にしていても140/分を超えている場合は、不整脈が原因で脳や肺の血管に血の塊が詰まることがあります。仮に症状が軽くても救急受診が必要です。
3.まずは冷静に脈をとろう
動悸で医療機関に受診された場合、症状が出た時の脈拍数が分かると診察において重要な情報になります。動悸が起こった場合は不安になりますが、冷静になって脈を測ってみましょう。
3-1.脈のとり方
手首の関節の少し下(肘の方向)の親指側に脈を触れます。脈をとるには、人差し指、中指の2本(又は薬指を加えて3本)でこの脈を触れます。この時に2本(3本)の指を揃えるのがコツです。
3-2.脈の計算方法
測定時間を測るには、秒が分かる時計が必要です。秒針のある時計、デジタルでも秒が分かる時計を用意しましょう。15秒間、脈の回数を測ります。その15秒間の値を4倍すれば、それが1分間の脈拍数です。慣れてきたら10秒間計って6倍しても結構です。 一般的に成人の安静時の脈拍の正常値は、1分間に60~100回です。
3-3.脈は飛んでいないか?
脈の回数を数えるだけでなく、脈の不整がないかも気にしましょう。脈が時々飛んでいないか? さらにまったくばらばらの不規則的な拍動になっていないかを観察してみてください。
4.頻脈の場合
100回/分を超える状態を頻脈といいます。
4-1.心臓が原因
運動など体に負担がかかる活動をしたときに、息切れを伴って動悸が現れる場合には心不全の可能性があります。突発的に脈が速くなっても、ふらつい たり、失神したりしない限りは、あわてなくても大丈夫です。ただし、安静にしてもなかなか回復しなかったり、頻繁に起こる場合には治療が必要になります。
4-2.心臓以外が原因
動悸は、心臓以外が原因でも起こります。貧血が進行した場合は活動時に息切れやめまいを伴うことがあります。安静にしていても動悸が続き、手の震えや体重の減少が見られる場合には、甲状腺機能亢進症の可能性もあります。
4-3.薬が原因
医師が処方された薬の副作用で、動悸が起こることがあります。報告では、マクロライド系抗生物質,三環系・四環系抗うつ薬、抗アレルギー薬、消化器病薬、抗真菌薬、抗精神病薬など多岐にわたっています。どの薬も大事な薬ですから安易な中断は避けましょう。
但し、新しく処方してもらった薬を飲んだら動悸を感じる場合は、医師に相談して変更も検討しましょう。
5.脈が不整
脈が不整な場合、いわゆる不整脈には以下の特徴があります。
5-1.不整脈がない人は殆どいない
ぜひ知っておいていただきたいのは、正常の方でも殆どの方は不整脈があります。24時間の心電図をとると心臓は約10万回脈を打ちます。その中で、一つも不整脈がない方は殆どいらっしゃいません。それを動悸として感じるか感じないかの違いであり、「症状が気になって仕方ない」、「かなり頻発して心臓が疲弊すると予想される」ときに限って、薬を飲むなどの治療が必要となります。
5-2.期外収縮はあまり心配はいらない
不整脈で一番多いのは、トントントトンなどと脈のタイミングがずれる「期外収縮」です。一瞬ドキンとしたり、脈が飛んだりしたように感じます。これは健康な人の8割が経験しているともいわれ、あまり心配はいりません。
5-3.脈がばらばらの心房細動には注意
脈が飛ぶのではなく、まったくの不規則な脈の場合は心房細動が疑われます。以下の記事も参考になさってください。
6.医療機関での検査
医療機関を受診すると以下のチェックを行います。
6-1.問診
生活の変化、動悸の原因となりそうな行動、飲んでいる薬、既往歴などを確認します。
6-2.採血
一般的な採血、甲状腺ホルモン、心臓に負荷がかかると合成・分泌されるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)などの採血を行います。
6-3.胸部レントゲン
心臓の大きさや形をチェックします。心臓が大きくなった様子や、肺に水がたまった肺うっ血が見つかることがあります。
6-4.心電図検査
5分程で終わり、痛みもない簡単な検査です。心臓の壁が厚くなっていないか、狭心症や心筋梗塞がないか、不整脈がないかを調べます。
6-5.ホルター心電図検査
心電図だけでは、安静時のその瞬間の情報が主となります。従って、「時々動悸があった」などの心電図波形をその時に記録する事が不可能な場合もあります。そこで有用な検査がホルター心電図検査です。ホルター心電計と呼ばれる手のひらサイズの携帯型心電計にて24時間の心電図波形を記録することができます。その結果、動悸や胸痛の原因となる不整脈や狭心症(不安定狭心症・労作性狭心症)の有無を調べることができます。取り付けは10分程度で、入浴・シャワーなど意外は通常通りの生活が可能です。
7.検査で異常がない場合が多い
心電図では不整脈でも心臓の病気でもない。血液検査をしても貧血でも甲状腺機能亢進症でもない、胸部レントゲンを調べても肺の病気は見つからない。それでも動悸が感じられることがあります。これは、結論としてはいわゆる「精神的ストレス」によるものとしか説明できないケースです。外来でもこのタイプの動悸はかなり多いのです。
この場合、認定内科専門医としては、検査の結果から心臓の病気ではないことを説明して、安心していただくことが目標となります。こ れだけでも患者さんは安心してて、しばらく動悸が出なくなることもあります。
診察により「問題がない」といわれても動悸が気になる方は市販薬をお使いいただいても良いかと思います。
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8.まとめ
- 動悸には、他の症状が伴う場合や、動けないほどの症状が安静でも改善しない場合は緊急受診が必要です。
- 動悸には、心臓だけでなく貧血や甲状腺機能亢進症で起こることもあります。
- どれだけ検査をしても異常がない「精神的ストレス」による動悸も多いものです。