国立感染症研究所は、平成30年12月14日、今季のインフルエンザの全国的な流行が始まったと発表しました。12月の3~9日の1週間に全国で推計約6万3千人が医療機関を受診。12月上旬の流行入りは例年並みだそうです。
我々医師としては昨年発売された塩野義製薬のバロキサビルマルボキシル酸(商品名:ゾフルーザ、Xofluza)が今年のインフルエンザ治療薬の主流になると考えていました。しかし今シーズン当院で、ゾフルーザを処方したところ、患者さんが嘔吐をしてしまったケースが出てしまいした。
ゾフルーザは1回の投与で効果が持続する画期的なお薬です。しかし嘔吐してしまうと対応に困惑します。再度飲むべきか。様子見にするか。今回の記事では、認定内科専門医の長谷川嘉哉が、ゾフルーサを嘔吐した場合の対処法についてご紹介します。
目次
1.ゾフルーザとは
ゾフルーザは、A型又はB型インフルエンザウイルス感染症に対する抗インフルエンザ薬です。
1-1.効果は
発症から48時間以内に投薬すると発熱期間は通常1~2日間短縮され、鼻やのどからのウイルス排出量も減少します。なお、症状が出てから2日(48時間)以降に服用を開始した場合、十分な効果は期待できません。
1-2.剤型
剤型は3種類です。ゾフルーザ錠10mg、20mg、顆粒2%分包
1-3.用法・・たった1回の服薬
- 通常、成人及び12歳以上の小児には,20mg錠2錠または顆粒4包(バロキサビル マルボキシルとして40mg)を単回経口投与します。ただし,体重80kg以上の患者には20mg錠4錠または顆粒8包(バロキサビル マルボキシルとして80mg)を単回経口投与します。
- 通常、12歳未満の小児には,以下の用量を単回経口投与します。
- 添付文書によると、服薬については特に食後などの規定はなく、空腹時でも服薬は可能です。
用法及び用量の表
体重 | 用量 |
40kg以上 | 20mg錠2錠又は顆粒4包(バロキサビル マルボキシルとして40mg) |
20kg以上40kg未満 | 20mg錠1錠又は顆粒2包(バロキサビル マルボキシルとして20mg) |
10kg以上20kg未満 | 10mg錠1錠(バロキサビル マルボキシルとして10mg) |
2.既存薬との違いは
従来、抗インフルエンザ薬には、ゾフルーザ以外に経口薬のタミフル、吸入薬のリレンザやイナビルがあります。タミフルは1日2回を5日間継続する必要がありました。さらにリレンザやイナビルは吸入薬であるため、小児や高齢者の場合は吸入しづらいという問題点もありました。
その点、ゾフルーザは感染が確認された時点で、たった1回、経口での服用で良いのです。まさに従来の抗インフルエンザウイルス薬の「吸入のしにくさ」「5日間継続」といった問題点を克服した薬と言えるのです。個人的にも、今シーズンはゾフルーザの処方が中心になると感じていました。
なお、インフルエンザの診断治療については以下の記事も参考になさってください。
3.嘔吐した際の問題点
前章までの理由で、平成30年11月末に、今年初めてのインフルエンザAの患者さんが出た時点で、ゾフルーザを処方しました。しかし、患者さんが帰宅後、しばらくして電話。「服薬してから患者さんが全部嘔吐してしまった。再度処方してくれないか?」との問い合わせでした。しかし、再処方には以下の問題点があります。
3-1.薬剤の過量投与の危険性
嘔吐したとはいえ、ある程度の量は吸収されているはずです。そこで、再度処してしまうと、本来の適正量よりも過量になる可能性があります。
3-2.ゾフルーザの吸収量は空腹・食後で大きな差がある
塩野義製薬に問い合わせたところ、服薬の時間によって吸収量にかなり差があることが分かりました。空腹で服用した場合は、約1時間で体内への吸収はピークとなりますが、食後では4時間がピークとなります。ゾフルーザは、診断後できるだけ早い服薬が望ましいため、用法において空腹や食後の規定がありません。そのため、患者さんによって空腹や食後に服薬など差があるのです。つまり、服薬後から嘔吐までの時間がわかっても吸収量が断定しにくいのです。
3-3.健康保険の問題もある
現在のところ、最初の処方は当然ながら保険診療となります。しかし、嘔吐してからの再処方は保険で認められない可能性が高いため、希望される方は実費負担になると思います。ちなみに、ゾフルーザの薬価は、10mg1錠が1,507.50円、20mg1錠が2,394.50円です。成人の場合は、20㎎を2錠服薬しますから、4,789円となります(診察費は別途)。
4.ゾフルーザ嘔吐に対する予防と対策
以上から、ゾフルーザを服薬する際には以下の対策が必要です。
4-1.消化器症状が強い場合は避ける
インフルエンザの患者さんの中には、一定数、悪心・嘔吐といった消化器症状が強い患者さんがいらっしゃいます。この場合には、あえてゾフルーザの処方は避けた方がよいと思われます。
4-2.嘔吐した場合は薬を変える
ゾフルーザを嘔吐した場合は、服薬してからの時間に関わらず、再処方は過量になる可能性があるので避けましょう。この場合は、同じ抗インフルエンザ薬でも作用機序の異なるものが理想です。具体的には経口薬でなく、吸入薬であるリレンザやイナビルがお勧めです。
4-3.現状は自費で対応
ゾフルーザを嘔吐した場合の、別の抗インフルエンザ薬の処方については、現時点は保険の適応は難しいと考えられます。申し訳ありませんが、自費での対応をお願いします。ただし、同様のケースが増えれば、保険の使用が可能になる可能性があります。
ちなみに、成人量であるイナビル40㎎の薬価は、4279.8円、リレンザは1回10mg(5mgブリスターを2ブリスター)を1日2回、5日間分が、2942円です。
5.まとめ
- ゾフルーザは、経口薬で1回の服薬で効果がある点は、とても画期的な薬です。
- ただし消化器症状の強い場合は、処方自体を避けた方が賢明です。
- 仮に嘔吐した場合は、吸入薬を自費で購入して対応する必要なことがあります。