歯周病は命に関わる全ての疾患に関わります。脳血管障害、虚血性心疾患、糖尿病、認知症、さらに悪性腫瘍の原因にもなるとされています。今回、名古屋大大学院医学系研究科の近藤豊教授らは、子宮内膜症の発症も促すことを報告しました。2023年6月14日付の米科学誌「サイエンス・トランスレーショナル・メディシン」に発表されていますので、かなり信憑性の高い研究と思われます。今回の記事では、認知症と歯周病の関連のために医科歯科連携に取り組む長谷川嘉哉が詳細を紹介します。
目次
1.歯周病の原因菌が子宮内膜症の発症を促す
近藤教授らの研究は以下です。
子宮内膜は通常ほぼ無菌状態と考えられてきたが、内膜症の患者では約6割という高い頻度で細菌のフクソバクテリウムが存在することを発見した。この細菌は歯周病の原因菌であり、大腸がんの発症にも関与している。さらに、マウスをこの細菌に感染させたところ、内膜症の病変形成が促進されることを確認。抗生剤で除菌すると病変形成が改善された。
近藤教授は「原因不明だった子宮内膜症について、発症機序の一端を明らかにすることができた。研究の規模を広げて根本治療につなげたい」と話されています。
2.子宮内膜症とは?
子宮内膜症とは、子宮の内膜にしか存在しない子宮内膜組織が、卵巣や腹膜などの子宮以外の場所で増殖、剥離を繰り返す病気です。子宮の内側で剥がれ落ちた子宮内膜組織は、月経血として膣から外に流れ落ちていきますが、子宮以外で増殖した子宮内膜組織は腹腔内にとどまり、炎症・痛み・癒着の原因となり、ときに不妊の原因にもなります。子宮内膜症は生殖年齢の女性の1割がかかり、国内の患者数は2014年の推計で260万人と言われています。
3.フクソバクテリウムとは?
口腔内の細菌は、1000種類以上あり、きれいに歯磨きをしても100億個、そうでないと1兆個細菌が潜むとされています。その中でフクソバクテリウムは歯周ポケットに棲みついている『嫌気性グラム陰性菌』の1つです。この菌はヒトの細胞にくっつく能力が高いうえに、細菌同士の結びつきを強める作用があります。つまりフクソバクテリウムが入り込むと、一気に悪玉細菌が増殖してしまうのです。とくに歯ブラシが届きにくい歯と歯の間につくられやすく、フロスの習慣のない人は恰好の標的になります。
4.子宮内膜症の治療が変わる!
子宮内膜症の原因ははっきりしていませんでした。そのため治療方法もホルモン剤と手術が行われていました。しかし、妊娠に与える影響が大きく、薬の副作用や術後の再発率が問題となっていました。今回、近藤教授による発症のメカニズムの解明により、フクソバクテリウムに対する抗生剤治療が効果的になる可能性があります。今後は、胃潰瘍や胃がんに対するピロリ菌の除菌と同様に、子宮内膜症に対して、フクソバクテリウムの除菌が一般的になるかもしれません。
5.まとめ
- 歯周病は命に関わる全ての疾患に、関わります。
- 近藤教授らは、歯周病菌フクソバクテリウムが子宮内膜症の病変形成が促進することを発見しました。
- 子宮内膜症に対して、フクソバクテリウムの除菌が一般的になる可能性がある。