最近、講演やセミナー、さらには学生への授業で不思議に感じることがあります。それは、殆どの方が、ペットボトルなどで水分を取りながら聞いていることです。私自身が学生の頃は、水分を取りながら先生の話を聞くことはあり得ませんでした。最近では、殆どの学生が水分をとっています。それどころか、講演・セミナーでは主催者がペットボトルを準備していることも珍しくありません。
実は、最近年齢に関わらず日本人の唾液量が減っているといわれています。唾液自体は健康のために多くの効果を持っています。幸い私は唾液量に恵まれているのかセミナー・講演に参加しても、水分はとらなくても平気です。今回の記事では、唾液の重要性、唾液量が減る原因、唾液量を増やす方法について、認定内科専門医の長谷川嘉哉が紹介します。
目次
1.唾液の働きとは?
唾液は1日どれ程の量が分泌されるかご存知ですか? この量は、1日1.5リットルにもなります。当たり前に分泌されている唾液ですが、多くの働きがあります。いくつかご紹介します
1-1.風邪などの細菌が体に入らないように守る働き
口は体外から多くの細菌が入ってきます。唾液中の抗菌物質であるリゾチームやラクトフェリンによって細菌が体の中に入り込まないように殺菌しています。
1-2.食べ物を消化する働き
唾液に含まれる酵素は食べ物を消化する働きがあります。食事の時によく噛み、食べ物に唾液を多く絡ませることによって、食べ物の栄養素をよく吸収でき、胃腸の負担を軽くすることができます。
1-3.溶かされた歯を元に戻す働き
唾液の中にはリン酸やカルシウムなど歯には欠かせない多くのミネラル成分が含まれています。歯は食事のたびに溶かされミネラル成分が流れ出ます。唾液によってミネラル成分が歯に戻される再石灰化が起こっています。
1-4.虫歯菌が出す酸を中和する働き
口の中は食後、虫歯菌が出した酸によって酸性となります。口の中が酸性のままだと歯が溶けつづけてしまいます。唾液の働きによって口の中を酸性から中性に戻し、歯が溶けることを食い止めます。唾液が中性に戻す働きが強いほど虫歯になりにくくなります。唾液はこのように、最初は「酸性」になって食物を消化吸収しやすい形にし、その後、中性に戻り歯を修復する働きをしているのです。口の中の環境を健全に保つ大切な働きをしているのです。
1-5.味を感じさせる働き
舌には味蕾という味を感じる細胞があります。唾液で食べ物が分解され、舌の味蕾細胞に多くの味の成分が浸透します。よく噛んで唾液を絡ませると、食べ物の本来の味を感じ取ることができます。
2.唾液量が減ると?
以上のように、唾液は万能の働きを持ちます。ご自身がしっかりと唾液が分泌されているか以下でチェックしてみてください。一つでも当てはまれば、唾液が減っている可能性があります。
- 口がねばつくことがある
- 口臭が気になる
- 食事の際、飲みものか汁ものがないと食べられない
- ビスケットやカステラなど、ぱさぱさしたものが飲み込みづらい
- 舌が痛むことがある
- 味がよくわからないことがある
3.唾液量が減る原因は?
唾液量が減る原因は以下のようなものがあります。
- 精神的ストレス
- 食事のとき、あまりかまないで飲みこむことが多い
- 口呼吸
- 薬を飲んでいる
- 女性ホルモンの低下
4.唾液量の減少を引きおこす病気
病気により唾液量が減ることもあります。以下の疾患も鑑別が必要です。
4-1.糖尿病
糖尿病で血糖値が高くなると、「水を飲んで血液を薄めよう」と脳が生理的に反応します。その結果、大量の水分を欲します。その際に、糖質入りのペットボトルのジュースをたくさんのんでさらに血糖値が上がってしまい倒れてしまう人もいます。これをペットボトル症候群と言います。
4-2.シェーグレン症候群
涙や唾液を作りだしている涙腺、唾液腺などの外分泌腺に慢性的に炎症が生じ、涙や唾液の分泌が低下、乾燥症状を呈する自己免疫性疾患です。男女比は1:14で女性に多く、発症年齢は50歳代にピークがありますが、子供からお年寄りまでさまざまな年齢で発症します。
4-3.加齢変化
糖尿病でもなく、シェーグレン症候群でもなく執拗に目や口の乾燥を訴えられる方がいらっしゃいます。この原因は、加齢に伴う乾燥です。この場合は、治す疾患自体がありませんから、症状に対して対処療法を行います。
5.唾液量を増やす運動
唾液量を増やすには以下の方法がお勧めです。
5-1.舌回し運動
顎周辺には、顔全体や頭などとつながっている筋肉があります。舌を回すことで、その筋肉の緊張をほぐして鍛える効果が期待できます。また、顎につながっている数多くの筋肉を手軽に鍛えるために「舌回し運動」を行うことで、舌の正しい位置やかみ合わせを正常に近づける効果も見込めます。場所を選ばずどこでもできます。
唇を閉じたまま、舌の先で歯の外側と頬の内側の間を大きく回していきます。2~3秒で一周する速さが理想です。右回りと左回り、それぞれ20回ずつ行いましょう。これを1セットとして、朝昼晩の一日3回行うようにしましょう。簡単なように思えますが、私も最初は舌の付け根が痛く感じたほどです。毎日続けていくうちに50回くらいは軽く回せるようになります。無理をせずに少しずつ回数を増やしていきましょう。
5-2.鼻呼吸
哺乳類である人間は、鼻で呼吸を行うのが本来の姿です。そのため、口で呼吸すると、くちびるがカサカサになったり口の中が乾燥したり、感染症のリスクが高くなったりするなど、さまざまな弊害があります。鼻は加湿器、空気清浄器、エアコンの3台を合わせた機能を持っています。ですので健康のためには鼻呼吸が大事なのです。以下の記事も参考になさってください。
5-3.よく噛む
咀嚼は唾液の分泌を促します。現在日本人の平均咀嚼回数は、一食あたり約600回と言われています。しかし、時代をさかのぼると、江戸時代は一食あたり約1000回、鎌倉時代は3000回、弥生時代に至っては4000回も咀嚼していたとされています。咀嚼回数を増やせば、唾液の消臭・殺菌効果により、口臭を予防することができるのです。そのためには、ガムを噛むこともお勧めです。
6.まとめ
- 唾液は1日に1.5ℓ分泌され、身体にとって有効な働きをします。
- そんな唾液量が、年齢に関わらず唾液量が減っているといわれています。
- 唾液量を増やすために、舌回し運動、鼻呼吸、良く噛むことが有効です。