メニエール病?めまい?安易な診断に注意!区別と治療法を医師が解説

メニエール病?めまい?安易な診断に注意!区別と治療法を医師が解説

メニエール病(メニエル病)とは、ある日突然グルグル回る回転性の激しいめまいが起こり、吐き気や冷や汗、嘔吐などの症状を伴う疾患です。

女性にやや多く、発症年齢のピークは30代後半~50代後半といわれています。めまいが起こるとメニエール病を疑う人が多いようですが、この病気だと自己判断して受診するめまい患者さんのうち、約9割はメニエール病ではありません。残りの約1割の人だけがメニエール病と診断されています。ですから、実際にはそれほど多い病気ではありません。ただ、症状が非常につらく、悩みが深い病気といえるでしょう。

今回は、つらいめまいとメニエール病の実際について、脳神経内科医の長谷川嘉哉が解説いたします。(医師である自分は「メニエル病」と習いましたが、今回は一般に浸透している「メニエール病」の表記で統一します)

目次

1.メニエール病の原因と主な症状

メニエール病とは、耳の奥にある三半規管と蝸牛を満たす内リンパ液が増えすぎることが関係していると考えられています。耳の奥には、体のバランスをとる三半規管や耳石器、音を感じ取る蝸牛などがあり、これらは内リンパ液という液体で満たされています。この内リンパ液が増えすぎると、三半規管の働きが障害されてめまいが起きます。また蝸牛にも影響して難聴や耳鳴りが起こります。

つまり病気の原因からも、めまいと難聴・耳鳴りが同時に起こるのです。

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メニエール病の原因

2.メニエール病で知っておいてほしい3つのポイント

多くの皆さんに知っておいていただきたいことは、以下の3つです。

2-1.めまい=メニエール病でない

単なるめまい発作だけでは、メニエール病ではありません。メニエール病は「くり返す」エピソードがあって初めて診断できます。従って十分な問診が大事です。めまいの診察では体のバランスを調べる検査や眼振検査を行います。聴覚症状に対しては聴力検査を行います。

2-2.多くの医師はめまいの診察が苦手

実は、多くの医師はめまいの診察が苦手です。そのため、正確な診断、説明がないため患者さんはより不安になってしまいます。特に、めまいで受診すると「メニエール病」と診断される方が多いのですが、専門外の先生が診断した「メニエール病」はほとんど間違いです。

診察する医師が、めまいを診断する知識を持っているか否かを知る良い方法があります。それは、めまいの患者さんにたいして、「耳鳴りや、耳が詰まった感じ(=耳閉感)、耳が聞こえにくい症状(=難聴)はありませんか?」と質問するかを気にしましょう。残念ながら、この質問をしない先生は結構(かなり)いらっしゃいます。

耳鼻咽喉科や脳神経内科の診察ではこのような心配はほぼないと言っていいでしょう。

2-3.メニエール病は、聴覚症状を伴う

メニエール病とは、「難聴、耳鳴り、耳が詰まる感じなどの聴覚症状を伴うめまい発作を反復する」と定義されます。ここで一番大切なのは「聴覚症状を伴う」ことです。診察する医師が、めまいだけでなく、聴覚症状(耳鳴り、耳閉感、難聴)の有無を確認確認もせず、「メニエール病」と診断された場合は、疑った方がよいでしょう。

3.メニエール病と間違えられやすい疾患

聴覚症状(耳鳴り、耳閉感、難聴)がないめまいの場合、メニエール病でなく以下の原因と疾患を考えます。

3-1.肩こり

外来では、これが最も多い原因だと感じることがあります。仕事が忙しく、睡眠不足、疲労、運動不足により身体・精神の緊張が高まっているのです。それにより、いつも身体がフワフワしたようなめまいが起きている。病院に行って、検査をしても異常がないのです。このような場合は、「病気でない」ことを明確に説明して、まずは不安を取り除きます。そのうえで安静と適度な運動をお勧めすると改善することが多いものです。

3-2.首の骨の変形に伴うめまい

頭に流れる血管は左右前後に4本あります。そのうち後ろ側の2本を椎骨動脈と言い、頸椎の横突孔を下から上に貫通します。このような場所を走行しているため、首を動かすとこの動脈が圧迫されます。結果、めまいが誘発されるのです。めまいを訴える状況としての「朝起きたとき」「夜トイレに行ったとき」「下を向いたり、後ろを振り返ったとき」など首の動きが関わっている場合は疑いましょう。

椎骨動脈
首の骨に走る椎骨動脈の血流が悪くなることでめまいが発生することがあります

3-3.良性頭位変換性めまい

良性発作性頭位めまい症は、ベッドに寝たり、ベッドから起きたりするときに30秒から1分程度の回転性めまいとしてみられます。難聴、耳鳴や手足のしびれなどの他の神経症状を伴いません。また、首を後ろにそらしたり、後ろを振り向いたりしたときにも浮動感として感じる人もいます。美容院で頭をさげてシャンプーをしたり、歯科診療の際に仰向けに寝たりする時にも同様の症状がおきる場合があります。

Woman in bed suffering from headache in morning
頭の位置が変わるときにめまいを感じる場合は、この疾患の可能性があります

4.診断

検査内容には平衡感覚を調べる片足での直立検査、マン(Mann)検査、足踏み検査、難聴かどうかを検査する聴力検査、目振検査、点滴検査があります。


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4-1.平衡感覚検査

平衡感覚を調べる検査では目を閉じてまっすぐに立ちますが、メニエール病の場合はふらつきます。片足での直立検査、両足を前後一直線上にそろえ両足に体重を均等に荷重して身体動揺を検査するMann検査、30秒足踏みをする足踏み検査もメニエール病にかかっている場合は目を閉じて行うとふらつきます。とくに足踏み検査では、原因のある耳の方向にふらつきます。

4-2.聴力検査

聴力検査は普通の健康診断と同じで、高音や低音を聞いて音が聞こえた時にボタンを押すという検査です。メニエール病の症状の一つとしてあげられる目振の有無は、目の前でペンなどを動かして目で追うという検査をします。聴力検査までしなくても、診察の際に耳元で指を鳴らしてあげて、はじめて片方の耳の聞こえが悪いことに気が付かれる方も結構いらっしゃいます。皆さんもめまいを感じたら、ぜひ自分自身でそれぞれの耳元で指を鳴らしてみて聞こえを確認してみましょう。

Deaf woman takes a hearing test
健康診断でおなじみの「聴力検査」がメニエール病の診断に役立ちます

4-3.点滴による検査

点滴による検査は、利尿作用があるグリセオールという薬剤を使用しますが、メニエール病によるリンパ水腫がある場合、点滴後に聴力が劇的に改善します。

5.治療

メニエール病の治療にはいくつかの方法があります。

5-1.利尿剤

メニエール病の治療薬に利尿剤があります。利尿剤を飲むと、尿がよく出て水分代謝が高まり、内リンパ液の排出が促されます。具体的には、前述したグリセオールという点滴を行います。ちなみに、同じ利尿効果を持つイソバイドという経口薬があります。しかし、恐ろしいほど味がまずいのでお勧めできません。

5-2.炭酸水素ナトリウム点滴(重曹水点滴静注)

薬品名では、メイロンという炭酸水素ナトリウムを含んだ「重曹水」を静脈に点滴し、血液中のPHを上昇させることで、吐き気やめまい、悪心などの症状を緩和させます。一般に急性期または発作期の症状に対して用いられます。症状が重症な場合は、入院して点滴する場合があります。

5-3.制吐薬

患者さんは、めまいに伴って悪心や嘔吐を伴います。そのため、制吐剤も追加します。経口から摂取できない多くの場合は、グリセオールやメイロンの点滴に加えて使用します。

5-4.抗不安薬

メニエール病の発症には不安やストレスが深く関与しているため、抗不安薬も追加することで症状が軽減することがあります。不安が強い急性期のめまい患者には、ジアゼパムなどの抗不安薬を筋注します。抗不安薬は、前庭代償(ふらつきを覚える際に、脳が平衡感覚を調整する機能)の初期過程を促進することによる抗めまい作用も持つと考えられています。

Intensive therapy with intravenous drugs in IV Drip
吐き気がある場合、点滴が効果的な治療法となります

6.病院以外の治療方法とは

メニエール病の発症にはストレスが関係していると考えられているので、過労を防ぐために無理をしないことが大切です。十分な睡眠をとり、軽い運動や趣味を楽しむようにしましょう。

6-1.食事

神経にも筋肉にも体のすべてに関わってくるのが食事です。規則正しい食生活に悪いことはありません。精神的な安定や不安定は、特に耳には大きな影響を与えます。精神の安定を保つうえでも、内耳の血流を良くするためでも、規則的な食事を心がけましょう。

6-2.睡眠

ストレスに強くなるにはしっかりした睡眠が必要です。寝不足によって自律神経である交感神経と副交感神経のバランスが悪くなります。脳を休ませて翌日の活力にするために、質の良い睡眠をとるようにしましょう。

6-3.運動

激しい運動よりはウォーキングやストレッチ、軽いジョギングなどがおすすめです。運動によって新陳代謝が高まると血流も良くなり内耳にも良い影響となります。

6-4.タバコとアルコールはNG

タバコのニコチンは血流を悪くします。身体の活性酵素も増やし体の表面にも内側にも良い効果はありません。禁煙が望ましいです。アルコールは、量を加減すると善玉となりますが、限度なく飲むことは脱水や他の病気をまねき、耳にとっては悪影響となります。あくまでも量の調節が肝心です。

7.まとめ

  • 聴覚症状(耳鳴り、耳閉感、難聴)を確認せずに、メニエール病と診断された場合は、まずは診断を疑いましょう。
  • 聴覚症状(耳鳴り、耳閉感、難聴)がないめまいは、メニエール病の可能性は極めて低いです。
  • めまいの症状は、耳鼻咽喉科・脳神経内科医の受診が必須です。
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