ある日、突然視界の中にギザギザした光が現れ、まるで万華鏡をのぞいているようにチカチカと輝きながら波打つように動く。そして10分ほどでスッと消える。──そんな不思議な体験をしたことはありませんか?「なんだったんだろう」と思いながらも、特に頭痛がないため放ってしまう方も多いこの現象、実は「痛くない片頭痛」=閃輝暗点(せんきあんてん)かもしれません。痛みがないから安心? いえ、それは脳からの“静かな警告”かもしれません。
目次
1.光が見えるだけ? 実は「片頭痛」の一種
閃輝暗点とは、片頭痛の「前兆」として現れることがある視覚異常です。視界の一部に稲妻のような光、ギザギザ模様、歪んだ波などが現れ、一部が見えにくくなるのが特徴です。多くの場合、10〜40分程度で自然に消えていきます。しかし、典型的な片頭痛とは異なり、この現象の後に頭痛がまったく起こらない人もいます。これがいわゆる「閃輝暗点だけの片頭痛」です。
2.頭が痛くないのはなぜ?
通常の片頭痛では、視覚異常のあとにズキズキと脈打つような頭痛が続きますが、「閃輝暗点だけ」で終わるケースでは、脳内での炎症反応までは進まず、視覚野(後頭部の脳)の神経活動が一時的に乱れるだけで終わると考えられています。特に40代以降になると、若いころに頭痛を伴っていた片頭痛が、「光の前兆だけ」に変わる人も多く、年齢とともに痛みがなくなるケースもあるのです。
3.目の病気じゃないの?
この症状を経験すると、多くの方がまず眼科を受診します。しかし、眼の検査では異常が見つからないことがほとんどです。なぜなら、原因は「目」ではなく「脳」にあるからです。脳の後頭葉(視覚野)で、電気的な興奮が起こることで光やゆがみが見えるとされています。つまり、閃輝暗点は“脳が見せている”視覚異常なのです。
4.似ているけれど、危険な病気も
「チカチカして見えにくい」という症状は、実は片頭痛以外の病気でも見られることがあります。特に注意したいのが、一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれる、脳梗塞の前触れです。
| 病名 | 視覚症状 | 持続時間 | 伴う症状 |
| 閃輝暗点 | ギザギザした光、波打つ視界 | 10〜40分 | 特になし(自然に回復) |
| TIA | 突然視野が欠ける・暗くなる | 数分以内 | 手足のしびれ、言葉のもつれなど |
このように、視覚の症状だけでは見分けがつきにくい場合があります。特に以下のようなケースでは、早めの脳神経内科受診をおすすめします。
5.受診の目安チェックリスト
次のような症状や変化がある場合は、MRIなどの検査を受けることが安心につながります。
- 発作が初めて起きた
- 今までと症状の出方が違う
- 視覚異常に手足のしびれや言葉のもつれを伴う
- 頻度が週1回以上になっている
- 50歳以降で初めてこのような症状が出た
6.痛くなくても予防は大事!
閃輝暗点だけの片頭痛は基本的に命に関わる病気ではありませんが、何度も繰り返す場合には予防や生活改善が大切です。生活の工夫で発作を減らすには?
- 睡眠不足やストレスを避ける
- スマホやパソコンの画面を長時間見続けない
- LEDライトなど強い光を目に入れすぎない
- カフェインや赤ワインなど血管を広げる飲み物を控える
- ホルモンバランスの変化に合わせて無理をしない
薬による予防も選択肢になります。発作が頻繁な場合は、医師の判断でカルシウム拮抗薬やβ遮断薬などの予防薬が処方されることもあります。
※ただし、痛みがないため鎮痛薬は不要です。
7.「痛くないから放置」はキケンかも
頭痛がないからといって安心して放っておくのは、あまりおすすめできません。特に高血圧や糖尿病などの生活習慣病がある方は、脳血管の病気との関連も否定できません。「なんとなく不安」「いつもと違う感じがする」という直感は意外と正確です。そう感じたら、一度MRI検査などで脳の状態をチェックしておくことが大切です。
8.まとめ
- 閃輝暗点は脳の視覚野の電気的異常による視覚症状
- 頭痛を伴わない「痛くない片頭痛」もある
- 脳梗塞の前兆(TIA)との区別が非常に重要
- 頻発する場合は生活改善や予防薬でコントロールを
- 初めての症状や変化があれば脳神経内科で検査を
「痛くない=問題ない」とは限りません。むしろ、静かに体が発しているサインこそ見逃さずに受け止めることが大切です。光がチカチカしたら、それは脳があなたに話しかけている証拠かもしれません。不安を感じたときは、早めの受診を。大切な脳を守る第一歩です。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。