新型コロナウイルスの感染による肺炎が中国を中心に流行しています。
このような感染症にはできれば罹りたくないものです。しかし、最近毎年流行するインフルエンザ、ノロウイルスなど、感染症は種類も頻度も増えてきています。
感染症の特徴として、短期的に多くの方に広がってしまう恐れが大きいということもあります。学校、職場、公共交通機関、観劇、病院、施設などでは、たった一人の感染者がいるだけで多数の方が罹患してしまうリスクがあるのです。それがさらに他の方へ感染させ、という大流行を招きます。
ですので、感染症にかかったらご自身の完治への意識だけでなく、他人様に感染させないという心づもりも大切です。今回の記事では医師として、感染症を正しく理解することによる、効果のある感染予防についてご紹介します。
目次
1.感染症とは?
細菌やウイルスなどの病原体が体に侵入して、咳や下痢、発熱などの症状が出る疾患のことです。病原体は大きさや構造によって細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などに分類されます。病原体が体に侵入しても、症状が現れる場合と現れない場合があります。感染症を発症するかどうかは病原体の感染力と体の抵抗力とのバランスで決まってくるからです。ときには、なかなか治りにくく死に至るような感染症もあります。
2.代表的な感染経路
ウイルスや細菌は、さまざまな経路から私たちの口や鼻からのど(気道の粘膜)に入り込んで体の中に進入します。主な感染経路をご紹介します。
2-1.空気感染
空気感染は、ウイルスや細菌が空気中に飛び出し、1m以上離れた人にも感染させるものです。別の言い方で飛沫核感染といいます。飛沫核とは、飛沫の水分が蒸発した小さな粒子のことで、これを吸いこむことで感染するのが空気感染ということになります。飛沫核は水分が無いぶん軽いため、長い時間たっても空気中に浮遊し、しかも遠くまで飛んでいくことができます。従って、患者から十分な距離をとっていても感染してしまうのです。
麻しん(はしか)、水痘(水ぼうそう)などがその代表です。
2-2.飛沫感染
ウイルスや細菌がせき、くしゃみなどにより、細かい唾液や気道分泌物につつまれて空気中に飛び出し、約1mの範囲で人に感染させるものです。飛沫は水分を含んでいるためそれなりの重さがあり、体内から放出された後、すぐに地面に落ちてしまいます。そのため至近距離で飛沫を浴びることで感染します。
話題のコロナウイルス、百日せき、風しん、インフルエンザ、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)がその代表です。
2-3.接触感染
皮膚や粘膜の直接的な接触、または医療従事者の手や医療器具、その他手すりやタオルなどのような物体の表面を介しての間接的な接触により、病原体が付着することで感染するものです。話題のコロナウイルス、咽頭結膜熱(プール熱)、インフルエンザ などです。
2-4.経口感染(糞口感染)
ウイルスや細菌に汚染された食べ物を、生または十分に加熱しないで食べた場合や、感染した人が調理中に手指等を介して食品や水を汚染し、その汚染食品を食べたり飲んだりした場合に感染します。
また、糞便が手指を介して経口摂取される場合を特に糞口感染といいます。→感染性胃腸炎(ロタウイルス)、感染性胃腸炎(ノロウイルス)などです。
3.手洗いがかなり有効。具体的な方法とは
人が罹患する要因の多くは、手に付着した病原微生物(細菌・ウイルス等)が物品に付着し、そこからまた手を介して鼻や口、目から体内に入ることによるものです。多くの病原微生物は、電車のつり革・手すり・エレベーターボタン・ドアノブを介して手から手へと拡がり、それが感染拡大のきっかけとなります。
手は見た目に汚れていなくても病原性微生物が付着している可能性があるため、石けんと流水を用いてきれいに洗い流す習慣をつけることが、感染対策の基本であり、最も重要な手段といえるのです。
3-1.30秒おこなう
食事の前やトイレの後など日常的な行動に伴った手洗い法では、石けんと流水を使用して汚れや有機物及び通過菌の一部を除去します。しっかりと石けん液を泡立てること。このことで、手全体や手のしわなどに石けん液がいきわたります。正しく手洗いするためには30秒かかります。30秒の手洗いを身につけるために、砂時計やタイマーを置いて実施してみる方法もあります。30秒とはどれくらいの時間かを実感してみてください。
3-2. 二度手洗いをする
そして近年では、手についているウィルスをより減らす効果があることから、手洗いを繰り返す「二度洗い」が薦められています。帰宅後、食事前、トイレの後などの適切なタイミングでしっかりと手を洗うことが大事。特に冬場のウイルス流行時のトイレの後はこの二度洗いの実施をお勧めします。
最近のノロウイルス等の感染力は昔に比べ強くなっています。そのため、下痢や嘔吐の患者さんの診察後は、二度と言わずにそれ以上に念密に手洗いをしています。そのことが、自分自身だけなく他の患者さんを含めた感染の拡大を防ぐのです。
3-3.不十分になりやすい部位に注意
親指や指先、指の間などは手指衛生が不十分になりやすいと報告されています。手を漠然と洗うのではなく、指の間、手首、爪の間などを含め、ていねいにこすり洗う手洗いの手順を覚えましょう。
4.マスクは過信してはいけない
空気感染や飛沫感染を防ぐには、マスクが有効と思われがちですが過信してはいけません。体表面でいえば「目」も感染経路となりえます。近年は手術の際にゴーグルも着用するようになってきました。感染を防ぐにはマスクだけでは不十分であることを覚えておいてください。
4-1.空気感染には無効
ウイルスそのものは直径0・1マイクロメートルくらいの大きさで、普通のマスクの網目よりずっと小さいため、ウイルス自体をマスクで防ぐことはできません。そのため、空気感染にはあまり効果が期待できないと思っておくべきです。
4-2.飛沫感染には有効
しかし、ウイルスを含んだ水分の「飛沫」はマスクに引っかかりますので、感染した本人が飛沫を出さないためにマスクをすることは、周囲の人たちにとって十分効果的です。飛沫感染が中心であるコロナウイルスにはある程度は、マスクも有効です。
4-3.加湿効果はメリットの一つ
マスクの着用にはもう一つ「口元の加湿」という意味があります。ウイルスは細菌と違って湿度が高いと生存時間が短くなるので、口元の湿度を上げておけば、ウイルス対策効果があります。マスクをする際は必ず鼻まで覆うように、そしてできるだけ顔とマスクとの間に隙間ができないように装着することが大事です。
5.受診の際に注意いただきたいこと
感染症が疑われた時は医療機関への受診にも注意が必要です。
5-1.前もって医療機関に確認
疾患に関わらず、受診する医療機関に前もって連絡をすることをお勧めします。疑われる感染症によっては、民間の医療機関では対応できないため、大病院への受診が必要なことがあります。特に海外から帰国した直後の感染症の際は、前もっての連絡をお願いいたします。
5-2.公共交通機関は控える
直近では、麻疹の患者さんが新幹線等を利用しており、二次・三次感染を拡大させています。通院は公共交通を避け、マイカーなどを使って受診するようにしてください。できればタクシーも避けていただきたいところです。
6.介護の現場では
介護施設では免疫力の弱った高齢者が生活をしています。しかし、彼らが外出等で感染症に罹患して来る確率は低いものです。多くは外部からの持ち込みです。面会に行く方は、以下の点に気を付けでください。
①施設や居室に入る際に手洗いや擦り込み式消毒剤を使用し、手指の消毒を行いましょう
②咳が出る場合には、必ずマスクを着用しましょう
③風邪をひいている、発熱している場合は面会を控えましょう
④インフルエンザが流行する時期は、家族も予防接種をうけるなど、感染防止に協力しましょう
⑤家族が持ち込む食品に関しては、職員が把握できるよう内容など伝えておきましう
⑥赤ちゃんは免疫力が弱く感染しやすく、小さなお子様は幼稚園などで経由してウィルスを持ち込んでしまう可能性があるため、連れて行く場合は事前にホームに確認しましょう
7.予防接種できるものは予防接種を
ワクチンで予防可能な疾患については、可能な限り予防接種を受け、感染症への罹患を予防し、感染症の媒介者にならないようにしたいものです。
- インフルエンザワクチン :毎年、必ず接種しましょう。
- B型肝炎ワクチン :医療系で働く場合は、採用時に接種しましょう。
- 麻しんワクチン、風しんワクチン、水痘ワクチン、流行性耳下腺炎ワクチン:これまで罹患したことがなく、予防接種も受けていない場合は、接種しましょう。また、感染歴やワクチン接種歴があっても、抗体検査で抗体価の状況を確認しておくとよいでしょう。
8.まとめ
- 感染症は、罹りたくありませんし、人に移したくもないものです
- 感染予防の基本は手洗いです。マスクも保湿効果としては期待できます。
- ワクチンで予防できるものは、できるだけ予防接種を受けておきましょう。