足のむくみ (浮腫)は、若い人も高齢者の方も悩まされるものです。若い人であれば、デスクワークでも足がむくみがちになりますし、1日中歩き回っていても、むくみます。
その結果、「寝る時に足がむくんだ状態で寝にくい」「夕方ブーツが入らない」「タイツストッキングの跡がつく」などといってお困りになられているようです。一方で、高齢者の場合はより深刻なトラブルになりがちで、足のむくみを放置してしまったために、心不全が悪化して救急搬送されることもあります。
そんな誰もが関わる「むくみ」について、認定内科医の長谷川嘉哉が少々専門的に原因を解説し、また効果的な対処方法をご紹介します。
目次
1.むくみやすい人とは
仕事や生活のパターンによってむくみは発生します。
1−1.座り仕事などが多い
1日中デスクワークの方や、高齢者でデイサービスで1日中座っていると足がむくんできます。これは「筋肉ポンプ」の働きが抑制されるからです。ふくらはぎの筋肉は、ポンプとなって、血液やリンパを流しているのですが、ずっと同じ姿勢でいると、このポンプ機能が働かなくなってしまうからです。
*筋肉ポンプ:全身に通っている静脈は、筋肉の周辺や内部にも通っています。そして、筋肉周辺や内部の静脈は、筋肉が収縮することにより圧迫を受けます。静脈には逆流を防止するために弁があるため、筋収縮により圧迫を受けた静脈は、心臓に血液を押し出します。つまり、血液循環は心臓のポンプ力だけでなく、全身の筋肉の収縮によっても行われています。これを「筋肉ポンプ」と呼びます。
1−2.立ち仕事でもむくむ
旅行で1日歩き回っていたり、立ち仕事を続けたときでは、ふくらはぎを使っているのに、むくんでしまいます。なぜでしょうか? これは筋肉が過剰に使われるため、筋肉が硬くなり、リンパの流れが悪くなることによってむくみが起こるのです。よく足を使っていてもむくんでしまうのです。
2.むくみは体調不良の証拠?
心臓から出た大動脈はだんだん枝別れし、毛細血管と呼ばれる細い血管となって体中の細胞に酸素や栄養素を送り続けます。この毛細血管にもやはり血圧がかかっていますから(静水圧といいます)、血管の中の水分が外ににじみ出ようとします。
しかし、これとは反対に血管の中にはたくさんの蛋白質があって、浸透圧の作用によって水分を血管の中にとどめようと働いています。健康な場合には、この両方の力が等しいため、むくみは生じないのです。逆にこのバランスが崩れるとむくみが現れることになります。
基本的には健康な状態ではむくみません。軽症から重症までありますが、何らかの原因があるからむくむのです。ただそのむくみにも、誰にも起こる軽度なものと、原因となる疾患がある場合があるので、判定が重要です。
3.むくみの原因
むくみは以下の原因で起こります。
3-1.血管内の静水圧が上昇した場合
血管内の水分が多くなりすぎたとき、もしくは静脈がどこかでせき止められ静脈血液が流れる圧力が上昇した場合に、血管からしみ出す水分量が増えることで起こります。
これが起こる原因は、
- 水分や塩分を摂りすぎて血管内の水分量が多くなったとき
- 心不全により心臓のポンプ作用が低下して血液をうまく巡回させられないとき
- 腎不全により、腎臓がうまく水分を尿として排泄できないとき
- 下肢静脈瘤により下肢の静脈に水分が貯まりやすくなるとき
などです。
3-2.浸透圧が低下した場合
血液内の栄養が少なくなって低タンパク血症になると、血管内に水分を保つための力(=浸透圧)が低下するので、水分を血管内に保っておくことが難しくなります。その結果、血管の外に水分や塩分が増え、身体がむくみます。
原因は、
- 老衰による低栄養状態。この状態で、安易に点滴を行うとむくみを増やすだけです。在宅専門医は、終末期には安易な点滴は行いません
- ネフローゼ症候群により腎臓からアルブミンが漏れてしまうとき
- 肝硬変で、肝臓におけるアルブミンの生産が低下しているとき
などです。
3-3.血管透過性が高くなった場合
血管透過性とは、血管と血管外の物質の出入りのことです。何らかの疾患で、血管自体が血液を保っておくことが難しくなり、水分が血管外に出てしまいむくみを生じることがあります。
原因は、
- 膠原病(リウマチ関連疾患)
- 甲状腺疾患など
が代表例です。
3-4.リンパ管のうっ滞・閉塞がある場合
立ち仕事や長距離の歩行の後に筋肉が緊張するとリンパの流れが悪くなります。ただし、こういった明らかな原因がなくリンパの流れが悪くなることもあります。
がんの手術において、転移を考慮してリンパ節郭清をします。この際、たくさんのリンパ管が集合しているリンパ節を切除するため、リンパ管の中を流れるリンパ液つまりリンパ流が停滞してしまい、むくみが生じることがあります。乳がん手術時にリンパ節郭清をされた方のうち約10~20%に、また婦人科系疾患によるがん手術時にリンパ節郭清をされた方のうち約30~35%に、浮腫が発症すると報告されています。
3-5.長時間同じ姿勢でいる場合
長い間立ちっぱなしや座りっぱなしでいると、重力の関係で下肢に水分が貯まり、むくみの原因になります。これは筋肉ポンプによる循環が障害されるためです。
4.受診、治療をした方が良い場合とは
医師は、むくみを以下の点に気をつけて診察します。
4-1.むくむ時間
健康な人でも、夕方になると足はむくみがちになります。しかし、一晩経てば、朝にはむくみはほぼ消失しているものです。しかし、起床時でもむくみが改善しないことが続く場合は、医療機関の受診も検討しましょう。
4-2.むくみが起こる部位
むくみの部位も重要です。足に限定しているのか、両側性か、片側性か、限局しているかが重要です。むくみは足の局所所見ではなく,あくまでも全身の所見の一つなのです。
以下の場合は、医療機関の受診をお勧めします。
- 明かな原因がなく、足だけでなく顔やまぶたのむくみが24時間以上続く
- 片側の足、もしくは手全体がむくんで改善しない
- 両足が浮腫んで、労作時の息切れや、横になった時の息切れが出現する
4-3. pitting か non-pitting か
むくみの確認は,脛骨前面の骨が皮下にある部位を母指で圧迫して行います。数秒でわかることが多 いですが,、より正確に診断するために私は必ず 1 分程度圧迫し続けるようにしています。指を離したあとも圧痕が残る 『pitting edema(圧痕性浮腫)』と,圧痕が残らずに速やかに回復する『non-pitting edema(非圧痕性浮腫)』に分類さ れます。非圧痕性浮腫は甲状腺機能亢進症やリンパ性浮腫などが疑われ医療機関の受診が必要です。
5.医療機関での検査
むくみで来院された患者さんには、以下の検査を行います。
5-1.血液検査
採血で、心機能、腎機能、肝機能、栄養状態を確認します。最近では、長時間心臓に負担がかかると主に心室から分泌されるホルモンBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)の測定で、心不全などの診断が容易になっています。non-pitting edema(非圧痕性浮腫)』で甲状腺機能亢進症が疑わる場合は、甲状腺機能も測定します。
5-2.尿検査
たかが尿検査ですが、尿タンパクや尿潜血反応は腎臓の疾患がわかり、特に膠原病の早期発見に有効です。尿タンパクが陽性の場合は、さらに自己抗体等を調べることで膠原病を精査します。
5-3.胸部X線(XP)検査
足のむくみを診た際に、心臓に負担がかかっていないかが気になります。その際に、胸部XPが重要です。特に、胸部正面X線画像での心臓の幅と胸郭の幅の比率である心胸郭比(CTR : Cardio-Thoracic Ratio)は重要です。男性では50%以下、女性では55%以下が適正とされています。細胞外液量が多くなると血管内の水分量が多くなり心臓も大きくなってCTRが増大します。
6.医療機関の受診が不要な人の、むくみ改善法
医療機関への受診が不要なレベルでのむくみ改善法をご紹介します。
6-1.適切な運動
下肢の筋肉がつくとむくみにくい体質になります。ウォーキングやランニングなど、日々の適度な運動を心がけましょう。また、弾性ストッキングの使用も血液の流れを促進します。
6-2.リンパを流す
足がむくむと、自然にふくらはぎをもんでい方がいらっしゃいます。実は、あまり効果はありません。それよりも、余分な水分を運んでくれるリンパがたくさん集まる膝の裏を押してリンパを流してあげることがお勧めです。指の腹で膝の裏を押します。痛みを感じない気持ちいい力加減で30秒ほど押して見てください。
6-3.塩分・アルコールを控える
塩分の摂取量が多すぎると、むくみに直結します。心不全や腎不全がある人は必須ですが、持病がない人の場合も塩分を制限することは重要です。また、アルコールを飲むと喉が乾き、水分を余分に摂ることによってむくみやすくなります。アルコールを飲む際は一度に多量を飲むことを避け、少しずつ飲むようにしましょう。
7.まとめ
- 足のむくみは、軽症から重大な疾患まで含まれています。
- むくみ長期間残ったり、息切れなどの全身症状が伴った場合は医療機関を受診しましょう。
- そこまでの症状でないときは、ふくらはぎを揉むよりも、膝の裏のリンパの流れを良くしてあげることが有効です。