近年、日本国内で「マダニ」が媒介する感染症が注目を集めています。なかでも 重症熱性血小板減少症候群(SFTS) は致死率が高く、国内でも毎年患者が報告されています。そのほか、日本紅斑熱やライム病なども加わり、キャンプや登山を楽しむ人、農作業に従事する人にとって身近なリスクとなりつつあります。
さらに最近は、ペットから人へ感染するリスク も報告されています。愛犬や愛猫が草むらでマダニに咬まれ、その後飼い主が感染するケースもあるため、人間だけでなく「ペットも一緒に守る」視点が欠かせません。
目次
1.マダニとは?
マダニは山林や草むらに潜む節足動物で、春から秋に活動が活発になります。犬や猫、シカ、イノシシなどの動物に寄生し、人間にも移ることがあります。吸血前の大きさは数ミリですが、数日間皮膚に噛みついたまま吸血し続け、最終的には1cm近くに膨れ上がります。しかも、噛まれた当日は痛みもかゆみもなく気づかないことが多く、数日経ってから発見されることが少なくありません。特に頭皮や耳の裏、脇や股の周囲などは自分で見つけにくい場所です。
2.主なマダニ媒介感染症
まだに感染症といってもいくつかの種類があります。
2-1. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
- 原因:SFTSウイルス
- 症状:発熱、嘔吐、下痢、倦怠感、意識障害、出血傾向
- 致死率:国内で約20%前後。高齢者や基礎疾患のある人は特に重症化リスクが高い
- 特徴:西日本を中心に報告が多いですが、近年は関東や東北でも発生例が増加。
- ペットとの関係:犬や猫が感染して発症し、そこから飼い主に感染する事例も確認されています。
2-2.日本紅斑熱
- 原因:リケッチア属細菌
- 症状:高熱、発疹、頭痛。刺し口に黒い痂皮(かさぶた)ができることが診断の手がかり。
- 地域:四国・紀伊半島・九州などで発生が多い
- 治療:適切な抗菌薬で回復可能。ただし診断の遅れは重症化に直結します。
2-3. ライム病
- 原因:ボレリア属細菌
- 症状:刺咬部位に赤い輪状の発疹、発熱、筋肉痛。進行すると神経障害や心疾患に発展することも。
- 地域:北海道を中心に、本州でも発生例あり。
3.なぜ気づきにくいのか?
マダニ感染症は以下の理由で患者さん自身が自覚しにくい点が問題です。
- 噛まれた当日はわからない:マダニの唾液には麻酔のような作用があり、痛みやかゆみがほとんど出ません。そのため数日後に大きく膨らんだマダニを見つけて驚くことが多いのです。
- 見つけにくい場所に付着する:頭皮や耳の裏、体毛の多い部分に潜り込むため、自分では確認が難しいことが多いです。
- 症状が風邪と似ている:発熱や倦怠感などの初期症状は一般的な風邪や胃腸炎と区別がつきにくく、発見が遅れるケースがあります。
4.感染を防ぐためにできること
野外活動での対策
- 長袖・長ズボン・帽子・手袋を着用して肌の露出を減らす
- 裾や袖口をゴムで覆い、マダニの侵入を防ぐ
- 明るい色の服を選ぶとマダニが見つけやすい
虫よけの使用
- DEET(ディート)やイカリジンを含む虫よけを使用する
- ペット用のダニ予防薬(スポットタイプや内服薬)を獣医師の指導のもと定期的に使う
帰宅後のチェック
- 人間は入浴して体を確認、耳の裏・髪の生え際・脇・股を重点的に見る
- ペットは毛をかき分けて全身をチェック。特に耳の付け根や首回りは要注意
- 衣服やタオルはすぐに洗濯、靴やバッグは屋外で払い落とす
5.噛まれてしまったら
- 無理に引き抜かない:口器が皮膚に残り炎症を起こす恐れがあります
- 医療機関で処置:皮膚科や外科で安全に除去してもらうことが大切です
- 体調観察:発熱や倦怠感、発疹が出たらすぐ受診。ペットも同様に動物病院へ
6.まとめ
マダニは「噛まれた当日は気づかない」「見つけにくい」という厄介な特徴を持ち、感染症の発症を遅れて認識することが多いのが問題です。さらに、人だけでなくペットも感染の媒介となりうるため、人とペットの両方を守る対策が必要です。
- 野外活動時は服装と虫よけで予防
- 帰宅後は人もペットも全身チェック
- 噛まれたら自己処理せず医療機関・動物病院へ
自然を楽しみながら安全に暮らすために、今日から「マダニ対策」を日常に取り入れていきましょう。行楽やキャンプのシーズンはもちろん、日常の散歩や家庭菜園でも油断は禁物です。ペットを飼っている方は、必ず定期的に予防薬を使用し、草むらに入ったあとはチェックを忘れないでください。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。