パーキンソン病治療薬エフピー錠をアジレクトヘ変更を強く薦める理由

パーキンソン病治療薬エフピー錠をアジレクトヘ変更を強く薦める理由

パーキンソン病の治療薬にはいくつもの種類があり、患者さんによって使いわけます。その中にMAOB阻害薬があります。パーキンソン病の治療においては重要な薬です。しかし、MAOB阻害薬の中で、エフピー錠(一般名セレギリン)は、覚せい剤原料に分類されます。そのため、先日ある介護施設さんから、「エフピー錠を服薬している患者さんの利用はお断りいたします」と伝えられました。

恥ずかしながら、私はエフピー錠が覚せい剤原料であることも、それに伴って特別な対応が必要であることも知らずに処方していました。

実は、MAOB阻害薬には、エフピー錠しかなったのですが、平成30年6月から覚せい剤原料に分類されない新しいMAOB阻害薬アジレクト(一般名ラザギリンメシル酸塩)が販売されています。平成31年6月からは長期処方も可能となりました。

医師としては、治療だけでなく介護サービスの利用にも気を配った治療薬選択が必要です。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、パーキンソン病治療薬として、早急にエフピーからアジレクトに変更を薦める7つの理由をご紹介します。

目次

1.MAOB阻害薬とは

パーキンソン病の治療薬であるMAO-B阻害薬は、ドパミンやセロトニンの分解酵素であるMAO-Bを阻害することで、脳内のドパミン濃度を上昇させる薬剤です。

パーキンソン病の治療では未治療の初期パーキンソン病患者での改善効果が認められ、さらにL-ドパ使用開始を遅らせる可能性も報告されていいます。

また、進行期パーキンソン病ではwearing-offを改善し、L-ドパ平均作用時間の延長効果があります。

*wearing-off:L-ドパの効果が発現してパーキンソン症状がコントロールされている状態をon、効果がなくなった状態をoffと表現します。パーキンソン病の進行とともにon時間が短くなり、offを自覚するようになります。1日のうちにonとoffが混在する状態をwearing-off現象といいます。

2.エフピー錠とは?

FP錠
エフピー錠

従来の、エフピー錠とは以下の特徴を持ちます。

2-1.服用は1日2回が多い

エフピー錠は1錠が2.5㎎です。通常、L-ドパと併用したり、単独で処方します。いずれの場合も、維持量は、7.5㎎から10㎎程度になります。1日量2錠(5mg)以上の場合は1日2回朝食後と昼食後に分けて服用します。そのため1日量3錠(7.5mg)の場合は朝食後2錠(5mg)、昼食後1錠(2.5mg)を服用します。

※L-ドパ パーキンソン病の代表的な薬剤。効果が発現しやすいが、長期使用しているうちに徐々に効かなくなることがある


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2-2.覚せい剤原料に分類

覚せい剤原料とは、法別表及び政令で規定しているものをいい、現在、医薬品としては、エフェドリン塩酸塩、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、エフピー錠の3種類だけです。

2-3.介護施設でのエフピー錠服用の患者さん対応は不可能!

覚せい剤原料の保管には以下の条件を満たす必要があります。介護施設からすれば、エフピー錠だけのためにこの体制は不可能です。エフピー錠を服薬されている患者さんの利用を断られるのもやむを得ないかもしれません。

覚せい剤原料の保管は、「かぎをかけた場所」において行わなければならない。なお、ここでいう「かぎをかけた場所」とは、施錠設備のある倉庫、薬品庫等のほかロッカー、金庫等の保管設備のことをいう。病院等の病棟で保管する場合も同様の保管設備が必要となる。ただし、患者自らが保管する場合はこの限りでない。 保管庫が覚せい剤原料専用保管庫でない場合には、他のものと区別して保管し、覚せい剤原料と他のものと間違えるなどの事故に十分気をつけること。 (指導事項) 麻薬の入った麻薬保管庫には一緒に保管できない。(麻向法第34条第2項)

Mans hand holding on palm plastic packet with cocaine powder or another drugs. Drug dealer proposes to try narcotic concept
治療のためのお薬が、違法薬物を作るための原料の一つとして使われる可能性があります

3.アジレクト変更のお勧め

アジレクト錠
アジレクト錠

以下の理由で、エフピーを服用されている患者さんのアジレクトへの処方の変更をお勧めします。

3-1.覚せい剤原料でなく、副作用も少ない

アジレクトは同じMAOB阻害薬ですが、エフピー錠と異なりアンフェタミン骨格構造を有しないことから覚せい剤原料の規制対象にはなりません。そのうえ、アンフェタミン骨格による不眠症、異常な夢、心臓障害および神経障害のリスクも少なくなります。

3-2.1日1錠はとてもありがたい

実は、覚せい剤原料であるか否かの理由だけでなく、1日の服薬量においてもアジレクトがお勧めです。パーキンソン病は、進行に伴いムセのない誤嚥が合併します。そのため、服薬も徐々に難しくなっていきます。そのため、専門医としては1錠でも薬は減らしたいのです。

多くのケースでエフピー錠は1日3錠を、朝昼に分けて服用する必要があります。一方で、アジレクトでは1日1錠を服薬するだけで良いのです。これだけで、1日に服用する錠数が3錠から1錠に減ることは、臨床の現場ではとても有意義なのです。

3-3.長期処方も可能

平成30年に発売されたアジレクトですが、当初は長期処方ができないため、一度に2週間分しか処方できませんでした。しかし、平成31年6月からは、長期処方も可能となったため積極的に処方することが可能になりました。

Female pharmacist giving medications to senior customer
1日1度の投薬であれば、飲み忘れのリスクも少なくなります

4.変更の方法

エフピー錠からアジレクトへ変更する際には、少し注意が必要です。

エフピー錠とアジレクトを併用すると相加作用により高血圧クリーゼ等の重篤な副作用発現のおそれがあるため併用は禁忌です。そのため、エフピー錠を14日間休薬してから、アジレクト1㎎、1日1回の投与を開始します。

*高血圧クリーゼ:血圧が急激に上昇(最高血圧が180mmHg以上、または最低血圧が120mmHg以上)して頭痛、めまい、吐き気、意識がもうろうとすること

5.まとめ

  • パーキンソン病の治療薬としてMAOB阻害薬は有効な薬です。
  • しかし、エフピー錠は覚せい剤原料であるため、薬の保管の問題から介護施設での対応が困難です。
  • 同じMAOB阻害薬であって、覚せい剤原料でなく、1日1回の服用で良いアジレクトの長期処方が可能になったため、積極的な変更が望まれます。
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