医師が鍼灸あん摩マッサージの同意書を書きたくない理由とは

医師が鍼灸あん摩マッサージの同意書を書きたくない理由とは

鍼灸あん摩マッサージを受ける場合、健康保険を利用することができますが、医師による同意書が必要となります。しかし、医師としては、患者さんから依頼されれば、なんでも同意書を書けるわけではありません。そこには明確なルールがあります。そのため、医師が同意書の記載を拒否する場合もあるのです。私自身も14年間、鍼灸に通っていますが、保険を使わずに全額自費負担で利用しています。それには確固たる理由があるのです。

確かに鍼灸あん摩マッサージは、効果がある場合もあります。しかし、それらをすべて健康保険で賄っていては保険制度が破綻します。今回の記事では、医師である長谷川嘉哉が鍼灸マッサージの同意書について解説します。

1.鍼灸あん摩マッサージは国家資格

鍼灸マッサージを健康保険を使って行う場合、国家資格が必要です。その対象となる資格は、「柔道整復師」「あん摩マッサージ指圧師」「はり師しん灸師」です。

実は前述した国家資格以外にそれっぽい資格はすべて民間資格であり健康保険を使うことはできません。例えば、「整体師」「カイロプラクティック」「リフレクソロジー」「足つぼマッサージ」「アロマテラピー」などです。

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伝統的な医療術ですが、保険の適応には厳格なルールがあります

2.鍼灸あん摩マッサージの保険適応条件

鍼灸あん摩マッサージを健康保険を使う場合以下の条件が必要です。

2-1.対象疾患が限られている

対象となる傷病は以下のみに限られています。

  • 神経痛
  • リウマチ
  • 五十肩
  • 頸腕症候群
  • 腰痛症
  • 頚椎捻挫後遺症

2-2.医師が保険診療を行っても効果不十分な場合のみ

医療機関において治療を行い、その結果、治療の効果が現れなかった場合に限られます。さらに医師が、鍼灸あん摩マッサージの施術を受けることを認める場合のみです。

2-3.初診での同意書発行はあり得ない

前述したように、医師が同意するにも一定期間医療機関における治療が必要です。そのため初診で医療機関にかかって、いきなり同意書を貰うことはあり得ませんし、そもそも違反なのです。

仮に同意書が交付されても、6ヵ月毎に文書による同意が必要です。医師の同意のない施術は、健康保険の対象とはならないのです。

3.医師が同意書を書かないケース

以下の場合は、医師は診断書を書きません。

3-1.「医療」と「鍼灸」の同一疾患併用は不可

医療機関における診療と「鍼灸」の施術は、並行して保険給付を受けるこ とができません。仮に平行してしまった場合は、「医療優先の原則」により、 鍼灸施術の療養費が不支給となります。そのため、整形外科の場合は、特に同意書を交付することは少なくなるのです。


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一方、マッサージの施術については、「麻痺や拘縮等医療上必要とするもの」 が対象となっていることから、保険診療との併用は認められています。つまり脳梗塞後遺症の患者さんになどの拘縮予防に対して、マッサージ施術の同意書を交付したとしても、引き続き保険診療は認められます。

3-2.効果が疑わしいもの

最近疲れやすい、肩がこる、腰が重いなど、日常生活では鍼灸あん摩マッサージにかかることはあります。しかし、単なる、健康維持や予防のための場合には、同意書を交付できません。

3-3.施設での大量の同意書には要注意

最近、医師による同意書交付が厳しくなった理由の一つが、施設に入所されている利用者さん集団に対する訪問マッサージです。同時に、大人数に施術できるため本来不要な方にまで施術しているのです。結果、莫大な収益を上げることができるのです。実際、ホームページなどでも「訪問マッサージビジネス参入  施術師1人で月商100万円が現実的」などどいった怪しい広告があふれています。

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施設に入り込むことで、大量の患者さんを引き受けることができます。それを狙うビジネスが存在します

4.困ったケース

実際に、鍼灸あん摩マッサージの保険診療には以下のような問題が起きてきています。

4-1.ケアマネが安易に誘導

ケアマネがルールも知らずに患者さんに安易に同意書を主治医に書いてもらうことを勧めるケースが増えています。そのため、患者さんは、ためらいもなく同意書の交付を求めてきます。そこで、医師が丁重にお断りすると、あからさまに不愉快な態度をとられるケースさえあるのです。

4-2.流行らない診療所が安易に同意書発行

最近では、開業したばかりで一人でも患者さんが欲しい診療所が安易に同意書を交付しています。それらが鍼灸あん摩マッサージ業界で伝わり、「○○先生はすぐに書いてくれるよ」と患者さんに伝えているのです。監督機関は、同意書が不自然に多い医療機関に対しては厳重に対処してほしいものです。

5.訪問マッサージの問題点

鍼灸あん摩マッサージの中でも「マッサージ」は、訪問での施術も可能です。しかし、これこそが不正の温床になりがちです。その理由を解説します。

5-1.ケアプランに載らない

介護保険の在宅サービスの場合、ケアマネがケアプランに載せることで、厳重にチェックすることができます。しかし、訪問マッサージはケアプランに載らないため、週に何回、何時に施術に伺ったのかのチェックができないのです。

5-2.違法請求のチェックができない

在宅の患者さんの多くは、身体障害者手帳が交付されているため自己負担が無料であることが大部分です。自己負担がないためご家族も、健康保険からの給付実績にも無関心になりがちです。そのため、実際の訪問回数より、余分に違法請求されても気が付かないのです。実際、名古屋の訪問マッサージの事件では、億を超える不正請求が見つかったのです。

5-3.可能なら訪問リハビリが有効

2000年4月の介護保険施行時には、理学医療法士や作業療法士による訪問リハビリは充足していませんでした。そのため、やむを得ず訪問マッサージにも頼ったものです。しかし、介護保険施行後20年が経ち、理学医療法士や作業療法士による訪問リハビリも増えてきています。まずは、訪問マッサージの前に訪問リハビリをお勧めします。

6.まとめ

  • 鍼灸あん摩マッサージは健康保険を使うことができます。
  • しかし、適応疾患には制限があり、同一疾患での医療機関での併用はできません。
  • 基本は、鍼灸あん摩マッサージは自費での受診をお勧めします。
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