急増する介護需要に対して、急速に広がっているサービスのひとつに「住宅型有料老人ホーム」があります。しかし、「住宅型有料老人ホーム」の廃業倒産が相次いでいます。平成30年度では、倒産などの理由で廃止届を出した件数が、全国で少なくとも355か所に上ります。
私は、医療法人ブレイングループの理事長として、グループホームを経営し、同時に住宅型有料老人ホームを含む15の施設に訪問診療に訪れています。そうすると施設毎の特徴がわかります。その中には、「とても良い施設」から「絶対に身内は入所させたくない」まであります。今回の記事では、介護事業の経営者であり高齢者専門医でもある長谷川嘉哉が、廃業倒産する住宅型有料老人ホームの見分けかたをご紹介します。
目次
1.住宅型有料老人ホームとは
厚生労働省管轄のサービスです。主に介護を必要とする高齢者が、介護や生活支援を受けて居住する施設です。介護サービスは、施設のスタッフが提供する介護付き有料老人ホームと異なり、外部の介護サービスを入居者が個別に契約して受けるようになっています。入居対象者および外部の介護サービスを使います。
住宅型有料老人ホームは、この10年で3倍に急増しており、現在、特別養護老人ホーム10,326か所に迫る、9,354か所が開設されています。
2.なぜ簡単に参入できるのか?
住宅型有料老人ホームは建物が大きく、一見参入が難しそうです。それなのに多くの企業が参入する理由には、以下のような理由があります。
2-1.地主が建物を建築
億単位の建築費を、介護事業者が捻出することはかなり困難です。しかし、節税目的の地主にとっては、空室が不安なアパートやマンションを作るよりは安心と考え、土地を担保に建築費を借り入れます。地主は、土地と建物を、介護事業者に貸し出すのです。つまり、介護事業者はそれほどの資金を負担することなく住宅型有料老人ホームが運営できてしまうのです。
2-2.家賃が高い
地主にしてみれば、できるだけ早く建築費を回収したいと考えます。そのため、通常で考えるより高額な家賃で介護事業者に貸し出します。実際、私の知っている、経営破綻した住宅型有料老人ホームも相当に割高な家賃を払っていました。
2-3.運営がうまくいかなければ撤退
高額な家賃を要求する地主にも問題がありますが、実は介護事業者にも問題があります。事業所自身では、建築費の借り入れをしていないため、運営がうまくいかなければ簡単に撤退してしまいます。もちろん、契約書上は高額な違約金が設定されていますが、そもそもお金がないので撤退するのです。「払えない」の一言で、双方の弁護士が話し合って、違約金よりはるかに安い金額で和解するのです。
3.なぜつぶれるのか?
住宅型有料老人ホームが倒産廃業するには理由があります。
3-1.競争激化
単純に、参入事業者が増えているために競争が激化しているのです。そして、いったん空室が目立ち始めると、「並ばないラーメン屋さんには入りたくない理論」でますます、入居者が集まらなくなるのです。
3-2.異業種からの参入
埋まらない住宅型有料老人ホームの多くが異業種からの参入です。彼らは、介護事業に対する経験もノウハウを持ち合わせていません。それ以上に、「儲かりそう」という理由だけで参入していますから、そこに介護事業に対する「熱い思い」はありません。住宅型有料老人ホームへの入居を紹介するケアマネや、入居するご家族は、介護事業者の「熱い思い」を敏感に感じ取るのです。
3-3.片手間経営
異業種からの参入する経営者は本業を持っているため、ある意味介護事業は片手間です。時々顔を出しては、売上と利益だけを気にする。そんな経営者のもとには入居者さんは集まりません。
4.つぶれる施設の特徴
すべての住宅型有料老人ホームが廃業撤退するわけではありません。廃業撤退する事業所には特徴があります。
4-1.入居費が安い
理念、評判そして口コミでは入居者が集まらないため、入居費を他の事業所に比べ安くすることで集めようとします。入居する方には安いことは嬉しいことです。しかし、入居費の安さは、必ず人件費にしわ寄せがきます。結果、優秀な人材が集まらないというデメリットにつながります。
4-2.家賃の滞納
入居者が集まらない、集まっても入居費が安い。その上、家賃が割高となると、経営は火の車になります。何とか、家賃を払っていても、かならず家賃を滞納するようになります。不思議とこういった噂は広まるのです。
4-3.職員が辞める
経営者には理念がなく、売上と利益ばかりを求める。その上、給与が低い。そうなると、職員は次から次へとやめていきます。特に、現場責任者やリーダー格が退職し始めたら、危険です。
5.介護事業は社会資本だが、撤退すべき事業主も
介護事業は社会資本とも考えられます。つまり国民福祉や経済発展のために必要なインフラなのです。だからこそ、安易な廃業倒産はあってはならないのです。それには安定維持できる経営環境が不可欠です。高い理念のもと、適正な入居費をいただき、職員に還元することが、社会への役目になります。
一方で、住宅型有料老人ホーム事業で廃業倒産するような事業主には、早めに市場から撤退いただくことも、国民福祉のためには大切とさえ思われます。
6.有料老人ホームをいかに選ぶべきか?
ならば、廃業倒産しない有料老人ホームはいかに選べばよいでしょうか?
6-1.単独経営は避けよう
単独で住宅型有料老人のみを経営する民間の株式会社には気をつけましょう。さらに、その会社が異業種からの参入の場合はより注意が必要です。また、運営が始まって何年も経っているのに、入居者が少ない施設にも気をつけましょう。仮に満床でも、入居費が安い場合もリスクが高いと考えてください。
6-2.地域に根差す医療法人および社会福祉法人グループがお薦め
介護事業所は大きく、「医療法人系」と「社会福祉法人系」と「その他」の3つに分けられます。医療法人系と社会福祉法人系は、グループ化され、人も資金力も豊富です。そのため、地域に密着する医療法人・社会福祉法人は、経営面でも介護力の面でも、いずれも安定度は抜群です。
6-3.全国チェーンはお勧めではない
大きいなら安心といっても全国チェーンの経営母体はお勧めではありません。介護事業は、組織が大きくなればなるほど、収益を生まない間接人員が増えてきます。そのため、全国展開の介護事業所は思いのほか経営的な安定感には欠けます。そのうえ、上場でもしていると株主への視点が中心となり、職員の給与水準も極めて低くなります。結果、優秀な人材は集まらなくなるのです。
7.まとめ
- 住宅型有料老人ホームが急増していますが、廃業倒産も急増しています。
- 廃業倒産する介護事業所の多くは異業種からの参入です。
- 医療法人系と社会福祉法人系のグループが運営する住宅型有料老人ホームがお薦めです。