在宅医療や終末期医療は、近年ますます注目されるテーマです。特に「住み慣れた自宅で最期を迎えたい」という希望を持つ高齢者は少なくありません。しかし現実には、経済的な理由や介護体制の不十分さから、理想とはほど遠い「家で死ぬしかない」状況に追い込まれるケースが増えています。ここでは、高齢者の老後の生活や介護問題、そして75歳以降の人生設計について詳しく解説します。
目次
1.かつては富裕層の選択肢だった在宅医療
2000年に介護保険制度が始まった頃、在宅医療は裕福な家庭の「贅沢」な選択肢でした。しかし現在は、経済的に余裕のある高齢者ほど早期に有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅への入居を検討する一方、経済的に厳しい人ほど施設に入れず、自宅療養を続けざるを得ない傾向が強まっています。
2.在宅医療の現場で見える深刻な問題
訪問診療や訪問介護の現場では、以下のような深刻なケースが見られます。
- ゴミ屋敷状態で悪臭が漂う住環境
- 栄養バランスが崩れた高齢者の食事
- ペットも衰弱する不衛生な生活環境
これらは単なる生活の質の低下ではなく、高齢者虐待や健康被害に直結する重大な問題です。さらに、電気や水道が止められ、最低限の衛生環境すら維持できない高齢者もいます。
3.「自分は大丈夫」という思い込みの危険性
多くの人が「自分はそんな状態にならない」と思いがちですが、75歳を境に要介護率は急上昇します。75歳未満では約3%だった要介護者割合が、75歳を超えると約40%に跳ね上がります。一度身の回りのことができなくなると、家の荒廃や孤立はあっという間に進行します。孤独は認知症の発症リスクやうつ症状を高める要因にもなります。
4.75歳以降の現実的な人生設計
老後の生活を守るためには、75歳を境に人生設計を二段階で考えることが重要です。
- 75歳まで:健康寿命を延ばすための生活習慣改善
- 75歳以降:介護が必要になった場合の居住先・資金計画
バリアフリー化、地域包括支援センターとの連携、介護施設や老人ホームの情報収集は早めに行いましょう。資金面では、医療・介護費用を見込んだ貯蓄や保険の活用、場合によっては生活保護申請も検討すべきです。
5.限界在宅医療を避けるための備え
「自宅で最期を迎える」ことが必ずしも幸福な選択肢とは限りません。介護サービスや施設利用も視野に入れる柔軟な発想が、自分の尊厳を守るカギです。最新の介護制度情報や高齢者支援サービスを定期的にチェックし、信頼できる相談先を確保しておきましょう。
在宅医療の限界を乗り越えるためには、早期の準備と正しい情報が不可欠です。これこそが「限界在宅医療」という言葉を自分ごとにしない最善策です。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。