私が専門とする神経内科に難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)があります。そんなALSを題材とした映画『博士と彼女のセオリー』が評判です。車椅子の物理学者スティーヴン・ホーキング博士の半生を描いた人間ドラマです。将来を嘱望されながらも若くしてALSを発症した彼が、妻ジェーンの献身的な支えを得て、一緒に数々の困難に立ち向かっていくさまがつづられています。
ALSは、脳や末梢神経からの電気信号を筋肉に伝える運動神経細胞が侵される病気です。電気刺激が伝えられないと筋肉は萎縮するため、結果的に全身の筋肉が委縮します。一方で、知覚神経や自律神経は侵されないので、五感、記憶、知性を司る神経には障害はみられません。そのため、皮膚をつねられたとき“痛い”という感覚はありますが、手をひっこめることができなくなります。最終的には、飲み込むことも呼吸をすることもできなくなります。生きるためには、胃瘻から栄養補給をして、気管切開をして機械で呼吸の補助をします。そのためALSの患者さんの胃瘻・人工呼吸管理には相当の介護力を必要とします。
神経内科医としてはじめてALSの診断をしたときは、相当悩んだものです。ある意味、癌よりも残酷な病気です。私も、先輩医師に診断の確認をお願いしたものです。そんな現実を知るものとしては、劇中の妻ジェーンの献身的な支えには頭が下がります。ちなみにALSを描いた映画には、2004年公開の『ベネディクト・カンバーバッチ ホーキング』もお薦めです。また最近では、フジテレビ系で放送されてた「僕のいた時間」の、三浦春馬の“病気が進行するなかでの少しやせた顔の表情”、“動かない手で必死に字を書く動き”の演技など、まさにALS患者の表情や動作をよく観察していました。とくに最終回、人工呼吸器をつけて、まぶたの筋肉を動かしてパソコンで発声する時の演技は素晴らしかったと思います。