認知症の根本治療である抗酸化治療について・・専門医が解説

認知症の根本治療である抗酸化治療について・・専門医が解説
2022-09-13

分野に関わらず多くの医師が、長年医療にかかわっていると、「すべての疾患のもとになる酸化ストレス」に関心を持つようです。私が専門とする認知症でも、発症に体のサビといわれる酸化ストレスが関与していることが分かっています。現在、酸化ストレスに対する治療は保険診療では認められていません。しかし多くの現場の医師たちの中では、積極的に自費診療で認知症治療に取り組んでいます。今回の記事では、認知症治療における酸化ストレスに対する抗酸化治療について認知症専門医の長谷川嘉哉が解説します。

1.脳は最も酸化ストレスを受けやすい

酸化ストレスは、呼吸に伴ってできる副産物=活性酸素により引き起こされます。酸素を体に取り込むと、その一部が活性酸素に代わります。つまり酸素を吸って生きている人間にとっては避けることはできないのです。通常、取り込んだ酸素の数%が活性酸素になって体を酸化させてしまいます。人間の臓器の中で脳は最も酸素を消費するといわれています。つまり、脳は最も活性酸素を多く発生させるとも言えるのです。

認知症の原因は、脳の老廃物としてのアミロイドβやタウタンパク質が知られています。もともと人間の脳には、これらの老廃物を取り除くための「オートファジー」という機能が備わっています。しかし、脳内の酸化ストレスが上がると「オートファジー」の機能が働きにくくなることが分かっています。

つまり、酸化ストレスをコントロールすることは、根本的に認知症の原因を予防・改善できる可能性があるのです。

2.グルタチオン点滴

当院では、脳における重要な抗酸化物質の一つであるグルタチオンを第一選択にしています。

2-1.グルタチオンはもともと保険適応のある安全な薬

グルタチオンはたんぱく質を構成するアミノ酸3つからなるトリペプチドです。グルタチオンは、40年以上前から慢性肝炎、薬物中毒、妊娠中毒などの保険適応がある薬であり副作用も少ない安全率の高い医薬品です。

2-2.パーキンソン病についても世界で臨床研究

我々、脳神経内科の領域では保険適応はされていませんが、パーキンソン病の治療として行われています。経験的には、3例に2例は効果が感じられるほどです。現在、世界中で臨床研究が行われています。

2-3.認知症にも効果

抗酸化物資であるグルタチオンを認知症患者さんに使用すると一定数、劇的な効果を示します。この場合は、グルタチオンを通常より多い、800㎎~2000㎎使用します。私自身の経験および報告例からは、認知症の中でも「活動性の低下したアルツハイマー型認知症」、「歩行障害を認める、レビー小体型認知症や血管性認知症」に効果があるようです。点滴直後から、生き生きとして、歩行状態が改善するケースすらあるのです。

3.高濃度ビタミンC点滴

ビタミンCは優れた抗酸化物質ですが経口では殆ど尿に出てしまいます。そのため、抗酸化作用目的の場合は点滴で行います。

3-1.最も強い抗酸化力

高濃度ビタミンC点滴は、最も抗酸化力が強い治療の一つです。点滴の前後で活性酸素を測定すると、点滴後は感度以下まで低下するほどです。そのため、高濃度ビタミンC点滴は悪性腫瘍や美容、アンチエイジングなどの目的、広く行われています。

3-2.ビタミンCは認知症のリスクを減らす

ビタミンCの抗酸化作用は認知症でも効果を認めます。研究によると、血中ビタミンCの濃度が高い群は、低い群に比べ、認知症の発症リスクが減少することが報告されています。


長谷川嘉哉監修の「ブレイングボード®︎」 これ1台で4種類の効果的な運動 詳しくはこちら



当ブログの更新情報を毎週配信 長谷川嘉哉のメールマガジン登録者募集中 詳しくはこちら


3-3.認知症の場合は、ビタミンCの量に注意

通常、悪性腫瘍や美容、アンチエイジングに対する場合は、ビタミンCを25gほど使用します。しかし、これらの点滴には多量のナトリウムも含まれているため高齢者の場合、心臓への負担が予想されます。そのため当院では認知症患者さんには、12.5gをお薦めしています。なお、医師が処方するビタミン製剤であるシナールにはビタミンCが200㎎が含有されています。12.5gでも62.5錠分ですから凄い量なのです。

4.認知症の抗酸化治療の方法

具体的には以下のように行います。

  • 頻度:月に1-2回の点滴治療
  • 費用:当院の場合、グルタチオンと高濃度ビタミンC点滴を併用します。この場合、保険外で12000円(税別)になります。ただし、患者さんの状態によって、併用でなく単独にしたり、量を調整すると値段は変動します。

5.認知症の抗酸化治療がお薦めの方は

以下の方に、特にお薦めしています。

  • 認知症の家族歴がある方
  • 早期認知症(MCI)と診断された方
  • 認知症の初期の方:MMSEが20点以上
  • やる気がなく、活動性が低下している方
  • 歩行が不安定な方

逆に以下の方はお薦めしていません。

  • 認知症が中等度以上に進行している方:MMSEが15点以下の場合
  • 活動性が高く、易怒性や攻撃性がある方
  • ほぼ寝たきりに近い方

5.抗酸化治療以前に重要なこと

それなりの費用を払うため、抗酸化治療だけを行えばよいと勘違いされる方もいらっしゃいますが、以下に注意してください。

5-1.保険診療を第一に

現在、保険診療で処方されている認知症の薬は、膨大な治験のもと効果が認められたものです。したがって保険診療は従来通り継続し、あくまで抗酸化治療は、補助的な役割と考えてください。

5-2.積極的な刺激

どれだけ優れた治療が行われていても、一日中刺激がない生活で治療効果は半減です。積極的に社会参加し、介護認定されている方は介護サービスも利用してください。

5-3.運動

脳にとっては頭を使うことも、身体を使うことも、同じ刺激です。したがって運動は副作用のない良薬と言えます。詳しくは、以下の記事も参考になさってください。

6.まとめ

  • 脳は最も大量に酸素を消費するため活性酸素による酸化ストレスにさらされています。
  • 抗酸化治療は脳の老廃物を除去する「オートファジー」機能を維持させます。
  • 脳に対する抗酸化治療としてはグルタチオンや高度濃度ビタミンCの治療が行われています。
error: Content is protected !!
長谷川嘉哉監修シリーズ