最近、街中や病院の待合室、散歩道などで、両腕を後ろに組んで歩いている高齢男性をよく見かけませんか。
背中が丸くなった骨粗しょう症の方だけでなく、一見すると姿勢も良く、筋力もありそうな男性に多いのが特徴です。
この歩き方、実は「年齢とともに増える、無意識の危険サイン」の一つです。
本稿では、
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なぜ人は手を後ろに組んで歩くのか
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その人に共通する身体的・心理的特徴
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転倒時に何が起きるのか
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今日からできる回避策
について、認知症専門医の立場から整理してみます。
目次
1.手を後ろに組んで歩く人に共通する特徴
1-1.バランス能力の低下を「腕」で補っている
人は歩くとき、腕を自然に振ることで重心移動を微調整しています。
ところが加齢により、
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体幹の安定性低下
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足関節・股関節の可動域低下
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片脚立ちのバランス能力低下
が起こると、無意識に「腕の動きを制限」して、体を固めるような歩き方になります。
その結果、両手を後ろで組むという姿勢が「楽」に感じられるのです。
1-2.肩・背中・胸郭の柔軟性低下
高齢男性に多いのが、
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肩甲骨が動かない
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胸が開かない
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猫背気味だが本人は自覚がない
という状態です。
この場合、腕を前に振るよりも、後ろで固定した方が違和感が少ないため、この歩き方が定着します。
1-3.「年を取った自分」を認めたくない心理
意外に大きいのが心理的要因です。
杖をつく、手すりを使う、歩幅を小さくする――
こうした行動は「老いの自覚」を伴います。
一方、
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背筋を伸ばし
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ゆっくり
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両手を後ろに組んで歩く
姿は、どこか「威厳」や「落ち着き」を演出できます。
老いを否認しつつ、無意識に安全を取ろうとする妥協の姿勢とも言えるでしょう。
2.転倒時に何が起きるのか――最大の問題点
転倒時、若い人やバランスの良い人は、反射的に手を前に出します。
しかし、両手を後ろで組んでいると、
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手が前に出ない
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出るまでに時間がかかる
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体勢を立て直せない
結果として、
顔面・頭部・胸部を直接強打するリスクが一気に高まります。
3.高齢者に特有の重篤な結果
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顔面打撲・鼻骨骨折
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頭部打撲 → 慢性硬膜下血腫
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肋骨骨折 → 肺炎
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転倒後の恐怖 → 活動量低下 → フレイル進行
「ただ転んだだけ」が、生活の質を大きく下げる引き金になり得るのです。
4.回避するために、今日からできること
腕を後ろに組む癖のある人は、今日すぐにでも以下に気を付けましょう
4-1.歩くときは「腕を振る」を意識する
まずは意識づけです。
大きく振る必要はありません。
肘を軽く曲げ、前後に自然に動かすだけで十分です。
4-2.肩甲骨を動かす簡単体操
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肩をすくめてストンと落とす
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肘を後ろに引く動作を10回
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胸を軽く開くストレッチ
これだけでも、腕振り歩行がしやすくなります。
4-3.「後ろ手=落ち着いている」は錯覚と知る
これは非常に重要です。両手を後ろに組んでいると、本人は
「安定している」「転びにくい」と感じますが、実際は逆です。
ご家族が気づいた場合、
「危ないからやめなさい」ではなく、
「腕を振った方が足が前に出やすいよ」
と機能的な理由で伝えてください。
5.おわりに
両手を後ろに組んで歩く姿は、決して珍しいものではありません。
しかしそれは、身体機能・バランス・心理の変化が重なったサインです。
「姿勢がいいから大丈夫」
「元気そうだから問題ない」
そう思われがちな人ほど、転倒時のダメージは大きくなります。
歩き方は、脳と体の状態を映す鏡です。
ぜひ一度、ご自身やご家族の歩き方を、少しだけ注意深く見てみてください。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。