先日、60歳台の外来患者さんから眼瞼下垂の手術を受けたという話を聞きました。よくよく聞くと長年ハードコンタクトレンズを利用しており、そのため眼瞼下垂になったとのことです。私も19歳のころから、40年近くハードコンタクトレンズを使用しています。眼瞼下垂自体は脳神経内科領域の症状のため、思わず調べてみました。今回の記事では、「ハードコンタクトレンズでまぶたが下がること」について脳神経内科専門医および利用者の立場で解説します。
目次
1.眼瞼下垂とは?
眼瞼下垂とは「がんけんかすい」と読みます。まぶたが下がってきて視野にかぶってきて見にくくなる状態です。原因として生まれつきの方や、見た目が下がっているように見えて異常ではないケースもあります。しかし、成人してから徐々にまぶたが下がってきた場合は、上まぶたをあげる筋肉の力が弱くなったり、その付着部の腱が弱くなることが原因で起こります。
症状としては、視野がかぶってきて見にくいことが原因で、肩こり、頭痛にまで症状が広がります。
2.眼科医の常識?20倍?
「ハードコンタクトレンズを長期使用による眼瞼下垂」は、まぶたを扱う形成外科の医師の中では常識となっているそうです。これには驚きです。松波総合病院形成外科部長 北澤 健先生が以下のような調査されました。
2009年4月~2012年3月の間に眼瞼下垂を主訴として形成外科を受診した30~60歳(平均年齢48.1歳)の女性51人(眼瞼下垂群)と、同時期に勤務していた当院の職員で眼瞼下垂ではない同年代の女性(平均年齢47.3歳)38人(正常群)のハードコンタクトレンズの使用状況を比較。眼瞼下垂群51人中46人(90.2%)にハードコンタクトレンズの使用歴があったのに対し、正常群では38人中12人(31.6%)。 この結果をχ2検定という手法で分析すると、オッズ比は19.9。ハードコンタクトレンズを使用している人は、していない人に比べて眼瞼下垂になる確率が約20倍高いことが分かった( Takeshi Kitazawa Hard contact lens wear and the risk of acquired blepharoptosis: a case-control study ePlasty 13 e30 2013/6/19)
ちなみに、煙草を吸う人が肺がんになる確率は、煙草を吸わない人の4~5倍ですので、20倍の数値には驚きです。
3.ハードコンタクトレンズでなぜ眼瞼下垂がおこる?
上記の論文を書かれた北澤健先生は、「コンタクトレンズという異物を挿入した状態で1日に何千回も瞬きをすることで挙筋腱膜やミュラー筋が摩擦により伸ばされ、繊維化して収縮力が失われてまぶたが上がりにくくなる」と考えられています。
こうなると、コンタクトレンズの使用をやめても治ることは稀で、挙筋腱膜を手術で固定することによって改善を図ることになります。
*挙筋腱膜:まぶたを上げる(開ける)ときに大きな力になる筋肉。
*ミュラー筋:交感神経の刺激で収縮。 まぶたの開き具合を調節するセンサーの役割。
4.手術は何科?
そもそも、眼瞼下垂の手術はまぶたをあげるだけでなく、形や左右のバランスを整えたり、目の表面に対する配慮も必要になる手術です。
まぶたの手術を行う科には、形成外科、美容外科、美容皮膚科などがあります。しかし、コンタクトレンズが原因による眼瞼下垂の場合は、形成外科がお薦めです。美容外科の場合は、どうしても長期視点より見た目を重視しがちです。また美容皮膚科は、皮膚が専門であり、筋肉の動きにまで配慮する治療には心配が残ります。以上の点からも、形成外科受診がお薦めになります。いずれにせよ、受診した眼科の先生とも相談されることをお薦めします。ときに提携している形成外科医を紹介してくれることもあります。
5.対策
対策としては、
- ハードコンタクトレンズをソフトコンタクトレンズに変更する・・ただし、あくまでハードコンタクトレンズに比べると頻度が低くなるだけで、確率がゼロになるわけではありません
- ハードコンタクトレンズの使用時間を減らす。・・まずは、1日の使用時間を減らし、週に1-2回はコンタクトレンズを使わない日を作ることで、眼瞼下垂の発症を遅らせることが期待できます。
- コンタクトレンズの使用をやめて眼鏡にする。
6.重症筋無力症を忘れない
脳神経内科専門医として眼瞼下垂を見た場合に絶対に忘れてほしくない疾患に重症筋無力症があります。眼瞼下垂が、朝方や良くても、夕方に症状がひどくなる場合には疑います。血液検査で、抗アセチルコリン受容体抗体を測定します。抗アセチルコリン受容体抗体はこの病気に特異的で、正常人ではほとんど検出されません(0.2pmole/ml以下)。この抗体があれば重症筋無力症である可能性が高くなります。重症筋無力症については以下の記事も参考になさってください。
7.まとめ
- ハードコンタクトレンズを使用していると、使用していない人の20倍、眼瞼下垂がおこりやすくなります。
- 予防のためには、ソフトコンタクトレンズに変更、コンタクトレンズの使用時間を減らす、眼鏡にすることがお薦めです。
- 手術の際は、形成外科医への受診がお薦めです。