世の中には、金融商品・不動産・生命保険など、投資話が溢れています。それぞれの投資話に興味があったり、ご自身で調べて詳しいにもかかわらず、確定拠出年金には加入していない方がいらっしゃいます。実際、勤務先から企業型確定拠出年金への加入を勧められても、加入していない方も見えます。これは、あまりにもったいない話です。
私が確定拠出年金のメリットをご紹介したところ、歯科医の方々、某出版社の方や、担当の銀行員の方、フリーランスの方など皆さんが慌てて加入されました。今回の記事は、FP資格をもつ脳神経内科専門医である長谷川嘉哉が、確定拠出年金がお薦めな理由についてご紹介します。
目次
1.確定拠出年金とは?
確定拠出年金とは、年金制度のなかの私的年金にあたります。年金制度は、2階建てや3階建ての建物にたとえられます。1、2階部分が「公的年金」として加入が義務付けられている国民年金・厚生年金です。これに増築する3階部分が、国民年金基金や確定拠出年金といった「私的年金」と言われています。
確定拠出年金を表現する言葉に、「未来の自分への仕送り」と言われます。現在の公的年金は、親世代の年金を今の現役世代の年金保険料でまかなっています。一方、確定拠出年金は、加入者が自ら資産を運用し、自分年金を作ることができるのす。
この確定拠出年金が、制度上いろいろな点でとても優遇されており、世の中にあふれる投資のなかでも相当お得です。まずは確定拠出年金に加入してから、資産形成のために、金融投資、不動産投資、生命保険加入を考えることをお勧めするものです。
2.なぜ得なのか?
確定拠出年金は、なぜ得なのでしょうか?
2-1.個人が負担した掛金が全額所得控除
自営業者、サラリーマンいずれにせよ、掛け金は全額所得控除の対象となります。掛け金の上限は様々ですが、仮に月額2万円を30年間積み立てれば、累計720万円。税率20%の人なら税負担が144万円軽減できるのです。税負担がさらに高い高額所得者であればより有利と言えます。
2-2.運用益に税金はかからない
通常の金融商品の場合、利息を受け取ると20.315%が源泉分離課税されます。確定拠出年金の場合は運用益も非課税となるので、その分もさらに運用に回すことができるのです。
2-3.受け取るときも税制上のメリットが
確定拠出年金は、運用した原資を年金または一時金のいずれでも受け取りが可能です。この段階でも控除が受けられるので、状況に応じて選択することが可能です。
- 年金で受け取り:他の公的年金と合算し、公的年金控除が受けられる
- 一時金で受け取り:退職金などと合算して、退職所得控除が受けられる
3.豊かな人は投資もするし、国の制度も活用する、とは
人によっては、「自分は国の年金制度は当てにしていないから自分で投資をする」と言われる方がいらっしゃいます。そういって、年金制度を軽く見ている人に限って、投資額も大したことがないことが多いもののです。本当に豊かな人が、もちろん投資もされますが、年金制度もしっかり利用しているものです。
投資のセールストークに、「国の年金制度はあてにならないので、個人で年金を作りましょう」というものがあります。私は、このセールストークには違和感を感じます。年金制度が破綻するような時は、それ以前に民間企業が先に破たんするのではないでしょうか? 詳しくは以下の記事も参考になさって下さい。
4.誰が確定拠出年金に加入できるの?
2017年からは、企業型確定拠出年金のある方以外にも、現役世代の殆どの方が個人型確定拠出年金に加入できるようになりました。ちなみに、巷であふれているiDeCoという言葉は、確定拠出年金のなかの個人型確定拠出年金のことを指します。
4-1.企業型確定拠出年金を実施する会社に勤務している60歳未満の方
比較的規模の大きな企業の場合は、企業型確定拠出年金制度を持っています。掛け金は、企業が毎月拠出してくれます。拠出された掛け金には、所得税も社会保険料もかかりません。そのため、1万円給与を増やしてもらうよりも、1万円分確定拠出年金の掛け金を負担してもらった方が社員には有利になります。
掛け金は、会社が拠出する掛金に加えて、加入者本人が掛金を上乗せして拠出することができます。会社が拠出する掛金との合計で拠出限度額である年額66万円(月額平均5.5万円)を超えることはできません。
もちろん、企業型確定拠出年金に加入しない選択もありますが、あまりにもったいない話だと思います。
4-2.医療法人や中小企業
いわゆる医療法人や中小企業が対象になります。こういった人には、絶対的に加入をお勧めしています。経営者の方々は、高所得の方が多いものです。さらに給与を上げても所得税が増えるだけです。その際に、企業型確定拠出年金に加入すれば、年額66万円(月額平均5.5万円)に対して、所得税も社会保険料もかかりません。私がこの話をして加入しなかった経営者は、いらっしゃいません。
4-3.個人型確定拠出年金(iDeCo)
60歳以上の方、海外に住んでいる方、国民年金保険料を払っていない方、国民年金保険料の免除・猶予を受けている人以外は加入が可能です。掛け金の上限は、立場によって異なりますが、いずれの方も加入のメリットはあります。ただし、掛け金の最低額は月5000円。また一度払った掛け金は、原則60歳までは引き出すことができません。
- 自営業者(第1号保険者):国民年金基金と合算して、月6万8000円(年81万6000円)が上限
- 公務員:月1万2000円(年額14万4000円)が上限
- 会社員や公務員の扶養の対象となっている専業主婦(夫)(第3号被保険者):月2万3000円(年27万6000円)が上限
5.上流を知った下流老人を防ぐ、と?
老後は貯金だけでなく月々の収入が重要です。仮に1億円の貯金があっても取り崩すことは不安になります。そのため定期的に受け取れる年金はとても重要です。ただし現在の年金制度では、国民年金だけでは老後の生活は十分ではありません。外来をやっていると、社会的地位の割に年金が少ない方が見えます。その代表が歯科医、弁護士、税理士、会計士、社会保険労務士等の方々です。
開業しても、多くの方が国民年金であるためです。国民年金基金に入ったり、貯蓄等でカバーされていれば良いのですが、まったく不十分なかたもいらっしゃいます。先日も、元歯科医で、国民年金のみで貯蓄も殆どない方が受診されました。独居であり入所してもらいたいのですが、お手上げ状態です。
上流を知った下流老人を防ぐためにも、確定拠出年金はお勧めなのです。
6.投資先に何を選ぶか?
確定拠出年金に加入されると、今度は投資先を何を選ぶかを迷われるようです。以下の基準をお勧めしています。
6-1.元金保証でもお得
性格的にとにかく損をしたくない方には、元金保証の商品をお勧めします。元金保証では、それほどの利回りは期待できません。しかし、拠出の段階で税金分は得をしているわけですから、投資としての意味は十分あります。
6-2.基本はアクティブ型よりもインデックス型がお勧め
確定拠出年金の商品は基本的に、アクティブ型とインデックス型に分かれています。インデックス型とは、日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)など、特定の指数と同じ値動きをするように設計された商品。アクティブ型ファンドは、ファンドマネージャーが独自の調査や分析に基づいて銘柄を選定します。現在、両社の運用成績に大きな差はなく、アクティブ型がコストが高い分不利になっています。
確定拠出年金の運用は長期にわたりますので、運用コストはできるだけ低い方が良いので、インデックス型がお勧めです。
6-3.私の投資商品
といっても、やはり何を選んだらよいか悩んだ方に私の選択している商品をご紹介します。仮に、この商品を選んで損しても、補填することはできませんが、一緒に泣くことはできますのでご理解をお願いします。
- DIAM外国株式インデックスファンド:外国の株式を対象に投資をします。そのためハイリスク・ハイリターンと言えます。若くてリスクを分散できる私の娘たちは、この商品で100%運用しています。
- 野村外国債券インデックスファンド:外国の株式を対象に投資をします。「DIAM外国株式インデックスファンド」に比べると、少しリスクは減ります。私と妻は年齢を考えて、DIAM外国株式インデックスファンドと野村外国債券インデックスファンドをそれぞれ50%ずつで運用しています。
7.NISAはお薦めでない
確定拠出年金と一緒に話題になっているNISAという制度があります。しかし、これはお勧めではありません。NISAとは、平成26年1月1日よりスタートした個人投資家向けの少額投資非課税制度です。
NISA(非課税口座)で投資をした上場株式や公募株式投資信託の配当所得、譲渡所得等にかかる税金は非課税となります。今の低金利の時代、配当所得や、譲渡所得があれば有効ですが、税金を気にするほど儲かる商品があるでしょうか? 間違いないく儲かるのは、商品を売る銀行や証券会社です。彼らは商品が元本を割ろうが、確実に手数料収入が入ります。まさに、金融機関が売りたい商品なのです。
確定拠出年金は超お勧めですが、NISAはお勧めではありません。
8.まとめ
- 確定拠出年金は、いかなる投資よりも最優先して加入すべき制度です。
- 確定拠出年金は、税金・社会保険料もかからず、運用益にも課税されず、受け取る際も優遇されます。
- 本当に豊かな人は、投資もされますが、年金制度もしっかり利用されます