高度障害とは・保険営業マンも知らない片麻痺だけでは非認定の理由

高度障害とは・保険営業マンも知らない片麻痺だけでは非認定の理由

多くの方は、“生命保険の死亡保険は、死ななくてももらえること”を何となくご存知でしょう。

死亡保険に加入する際には、死亡時だけでなく高度障害時にも保険金が支払わる説明を受けるものです。しかし、保険営業マンから高度障害の詳細な説明はされないものです。

私は、ファイナンシャルプランナー資格を持つ神経内科専門医として、1万人を超える保険営業マンに講演をさせていただいています。そこで感じることは、多くの保険営業マンが高度障害について十分に理解をしていないことです。

そのため、高度障害の保険請求の際に、家族とのトラブルが起きるケースもあるようです。私が、患者さんに高度障害のお話をすると、一様に『誰も教えてくれなかった』とおっしゃいます。

今回の記事で、多くの皆様に高度障害について理解いただくことで、“誰も教えてくれなかった不幸を減らす”ことができればと思います。

1.高度障害とは

まずは高度障害そのものについて理解しておきましょう。

1-1.保険会社の基準を満たさなくてはならないもの

高度障害保険金とは、あくまでも保険会社所定の高度障害状態になった場合に支払われる保険金です。高度障害保険金は、細かい字で書かれた約款所定の高度障害状態に該当し、かつ回復の見込みがないときに支払われます。従って、所定の高度障害状態に該当しない場合、または、所定の高度障害状態に該当しても回復の見込みがある場合には支払われません

ちなみに高度障害保険金の支払い対象となる約款所定の高度障害状態は、身体障害者福祉法等に定める障害状態等とは異なる点に注意が必要です。

1-2.認定されると金銭的に大きなメリットがある

Hands Protecting House
住宅ローンの心配も大きく緩和されます

生命保険の死亡保険で高度障害が認定されると、死ななくても死んだときと同じ保険金が支払われます。ちなみに、生命保険の高度障害の基準と、住宅ローンの支払い免除の基準は同じです。つまり、高度障害が認定されれば、住宅ローンも免除されるのです。言い換えれば、高度障害が認定されなければ、生命保険金は支払われませんし、住宅ローンも残るのです。

2.命だけは助かっても高度障害の適応外がある、とは

脳梗塞などで大きな後遺症(片麻痺など)を負い、以前と同等の生活ができないことが明確になっても、高度障害が認定されないことがあります。ここではその点について解説します。

2−1.死なない程度に生き残ったが、高度障害の適応外になってしまった実例

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親身になって相談を受けていた営業マンにとっても辛いものがあります

以前、講演後に某保険会社さんの営業マンから質問をされました。その保険会社は、“生命保険を死亡時だけでなく高度障害になった時のためにも有効”というフレーズで営業活動をしていたようです。

そして質問者のお客様が、脳出血で左片麻痺の障害を残されたそうです。幸い、命はとりとめたのですが、障害により仕事は続けることができませんでした。ご家族としては、働けないわけですから高度障害に該当すると信じて、申請したところ保険会社からは却下されたということです。

質問した営業マンは、『住宅ローンのために奥さんが働きに出ないといけない。何とかならないか?』という質問でした。私の回答は、『そもそも皆さんが販売した生命保険の高度障害は、規定で決まっていますから何ともなりません』と回答しました。保険を販売する際に、高度障害についての理解と説明が十分でなかったようです。

2−2.生命保険営業マンも医師も理解していない高度障害認定の要件

保険営業マンの中には、高度障害イコール寝たきりと勘違いしている方もいらっしゃいます。

以前、患者さんに対して高度障害に適応するから申請書類を貰ってくるように私がお話したことがあります。当初、担当営業マンは、『寝たきりではないので、高度障害ではない』と言って書類さえ渡してくれませんでした。

そこで、私が直接営業マンに電話をして、“専門医として高度障害の条件を満たす”ことを説明して、ようやく書類をいただきました。おかげで高度障害の認定の元、保険金が支払われました。普通の医師は高度障害を理解していません。ご家族も同様です。そのうえ、保険営業マンも理解していないなら、世の中でどれだけの支給漏れがあるのでしょう。そう考えると、恐ろしくなってしまいます。

3.高度障害に当てはまるかどうかの判断基準

以下に高度障害の表を紹介します。一つずつ説明します。

高度障害とは…
身体障害のうち、
両眼の視力を全く永久に失ったもの
言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの
中枢神経系・精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
両上肢とも、手関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの
両下肢とも、足関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの
1上肢を、手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの
1上肢の用を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの

①の“両眼の視力を失ったもの”は、そのままご理解できるでしょう。

②の“言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの”の、言語機能とは、歌手のつんくさんのように、癌による喉頭摘出の例が代表的です。

しかし、右利きの方が、右麻痺を起こした場合の“失語”も適応となります。失語とは、「言語機能の中枢が損傷されることにより、一旦獲得した言語機能(「聞く」「話す」といった音声に関わる機能、「読む」「書く」といった文字に関わる機能)が障害された状態をさします。一方、そしゃくの機能を失うとは、嚥下障害が強くて、口から食事が取れない状態をいいます。


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③は“中枢神経系・精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの”、いわゆる寝たきりを意味します。営業マンの方が、“高度障害イコール寝たきり”と勘違いしているのは、この一文のことなのです。

④と⑤の“両上肢とも、手関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの”と“両下肢とも、足関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの”は、医学的には対麻痺(ついまひ)と言います。

④が両上肢の機能を失った、⑤が両下肢の機能を失った状態です。交通事故で、腰に障害を残し対麻痺となった方、例えばパラリンピックの車いすバスケットのメンバーの方々の多くがこの適応になります。

⑥と⑦は“1上肢を、手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの”と“1上肢の用を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの”です。

私は、28年間医師をやっていていますが、この状態を見たことがありません。⑥の状態は、片側の手足が動かないだけでなく足関節以上がない状態です。⑦の状態は、片側の手足が動かないだけでなく手関節以上がない状態です。つまり、これが片側の手足が動かない片麻痺だけでは、高度障害にはならない根拠なのです。片麻痺の患者さん、世の中で相当数いらっしゃいます。保険会社としては片麻痺を高度障害に認めると、支払い負担が重くなるとの判断だったのかと疑ってしまいます。

4.こんな症状があれば認められる可能性が大きい3病態

脳血管障害の片麻痺が、高度障害の適応外であることはご理解いただけたと思います。逆に、本当は高度障害の適応なのに、申請がされていないケースを紹介します。

Emergency aid
約款を読み直すと、適合する要件が見つかるかもしれません

4-1.胃ろう(胃瘻)

口から食事がとれなくなって、胃瘻が作られた場合、高度障害の“そしゃくの機能を全く永久に失ったもの”が適応されます。私の患者さんで50歳代で脳梗塞を繰り返し胃瘻になった患者さんがいらっしゃいます。高度障害の認定をして、死亡保険金と同額が支給され、同時に住宅ローンが免除されました。50歳代で起こった病気の不幸を少しは最小化できたのかもしれません。

4-2.失語

失語は、言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったものに該当します。右利きの患者さんが、右の完全麻痺になったとき失語症状を伴うことが多いのです。失語では言葉を出すことができません。しかし、見た目は椅子に座って、ニコニコしています。決して寝たきりではありません。利き腕の麻痺のある患者さんがいらっしゃれば、失語症状がないか調べてもらいましょう。

4-3.四肢麻痺

お酒を飲んで、記憶を失ってしまう方は注意です。飲酒後、階段から落ちて、頸髄損傷。結果として、四肢が動かなくなります。しかし頭は全く正常のため、高度障害と思えないようです。以前、訪問診療で10名の脊髄損傷の患者さんを見ていました。そのうちの3名は申請をされておらず、自分のアドバイスで高度障害が認定されました。

5.高度障害認定されないケースでも活用したい保険の特約とは

加入中の生命保険に「保険料払込免除特約」という特約がついていないか調べましょう。これは、3大疾病(がん・急性心筋梗塞・脳卒中)・身体障害・要介護状態などによって所定の状態になると、以後の保険料の払込みが免除される特約です。

病気やけがで医療費がかかるうえ、治療のために仕事ができなくなるなどで経済的に負担が大きくなるとき、保険料の払込みが免除されます。これは、保険によって条件が違うのですが高度障害よりは基準は緩めです。以下に、ある会社の例を紹介しますが、脳梗塞の片麻痺でも、8や10や11や12が該当すると思われます。

保険料の払込免除の対象となる身体障害の状態の例

1. 両眼の視力の和が0.12以下になったもの
2. 1眼が失明したもの
3. 両耳の聴力レベルが69デシベル以上になったもの
4. 言語又はそしゃくの機能に著しい障害を残すもの
5. 精神、神経又は胸腹部臓器に障害を残し、日常生活動作が制限されるもの
6. 脊柱に著しい奇形又は著しい運動障害を残すもの
7. 1上肢を手関節以上で失ったもの
8. 1上肢の3大関節中の2関節以上の用を全く廃したもの
9. 1手の5手指を失ったもの、母指及び示指を失ったもの又は母指若がしくは示指を含み3手指若しくは4手指を失ったもの
10. 1手の5手指若しくは4手指の用を全く廃したもの又は母指及び示指を含み3手指の用を全く廃したもの
11. 1下肢を足関節以上で失ったもの
12. 1下肢の3大関節中の2関節以上の用を全く廃したもの
13. 10足指を失ったもの又は10足指の用を全く廃したもの

また脳梗塞の片麻痺を負った場合に活用できる公的補助について、別記事「脳梗塞リハビリ時に費用負担を減らす!公的補助を最大活用する5つの知識」で詳細にお伝えしていますので、ぜひご一読ください。

6.脳梗塞の片麻痺に備える保険商品とは

突然発症する脳梗塞。片麻痺だけでは高度障害認定されることは通常の生命保険では難しいです。しかし他の商品ではこれを少しでもカバーできるものが出てきています。ここでご紹介します。

6−1.損保で所得の補償を受けられるものがある

働けなくなって、高度障害の適応にならなくなった時を考えると、損保の所得補償保険にあらかじめ加入しておくことがお勧めです。これは、病気やケガで働けなくなった場合に、保険金が支払われます。

6−2.ソニー生命の生前給付保険は他では非認定の片麻痺でも支払われる

ソニー生命の生前給付終身保険および生前給付定期保険は支払事由が、“従来の要介護2以上と高度障害、死亡に加え身体障害者手帳1~3級”です。

高度障害の適応にならない、片麻痺になっても死亡保険と同等の金額が支払われます

上記、6−2.と6−3.についても別記事「脳梗塞リハビリ時に費用負担を減らす!公的補助を最大活用する5つの知識」で触れていますので、詳しく知りたい方はぜひ参考になさってください。

7.まとめ

  • 脳血管障害の片麻痺は高度障害の適応外であることを知っておきましょう。
  • 胃瘻、失語、四肢麻痺の方は、高度障害の申請を忘れないようにしましょう
  • 保険料払込免除特約は可能ならつけておきましょう。

この記事が参考になれば幸いです。

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