認知症患者さんの不動産売却についてFP資格を持つ認知症専門医が解説

認知症患者さんの不動産売却についてFP資格を持つ認知症専門医が解説

認知症専門外来をやっていると、患者さんが所有する不動産の売却についての相談を受けることがあります。この場合、もし弁護士さんにでも相談すれば、成年後見人をつけることが必須であると説明されるでしょう。しかし、成年後見人にはメリット以外にもデメリットがあります。そのため、出来れば成年後見人をつけずに不動産売却をしたい方もいらっしゃます。

今回の記事では、フィナンシャルプランナー資格を持つ認知症専門医の長谷川嘉哉が、認知症患者さんの不動産売却について解説します。

1.認知症患者さんの不動産売却における建前論

基本は、認知症が進行して契約能力がなければ、不動産売却はできません。具体的には、認知症を評価するMMSE(ミニメンタルステート検査)で30点満点中、20点以下になると契約は難しいと考えてください。

そのため、契約能力がない段階の認知症患者さんが、不動産売却をするためには、成年後見人を選任する必要があるのです。しかし、不動産の売却などはそんなに頻回にあるわけではありません。人によってはたった一回の取引のために成年後見人を選任することに抵抗を持たれる方も多いのです。

2.成年後見人は負担が重い

Lawyers consulted on various lawsuits.
介護負担に加えて日頃の厳格な金銭管理や報告の義務が生じます

そもそも私自身は、「何度も騙された」とか「身内に使い込まれた」といった深刻な理由がない限り、成年後見人はお勧めしません。一度開始すると亡くなるまでなかなか止められないなどのデメリットが大きいからです。詳細については以下の記事も参考になさってください。

2-1.成年後見人には、毎年の手続き負担がある

ご家族が成年後見人になった場合、家庭裁判所に対して最低年に1回、財産状況、収支状況を報告する必要があります。これが結構、手間なのです。お金の使い道を正確に記録しておく必要があり、レシートや領収書などの資料を残しておくなどの事務作業が大変なのです。そんなに大変な作業をしても、相続の際に有利になるなどといった、メリットは何もありません。

2-2.職業後見人には、費用負担が発生する

ならば、弁護士や司法書士といった専門職に成年後見人をお願いすると、本人の財産から報酬を支払う必要があります。(東京家裁の場合、基本報酬月2万円。さらに管理する財産が1000万~5000万で月3~4万円、5000万以上の場合月5~6万円)。もちろん、土地の売買が終わったからといって、成年後見を止めることはできません。

3.成年後見人をつけずに不動産売買をするためには

成年後見制度がこれだけ大変だと、何とか成年後見人をつけずに不動産売却をしたいものです。以下の条件を参考にして不動産売却を検討してみてください。もちろん、その際は自己責任でお願いします。

3-1.相続人が全員納得できる状態

認知症患者さんの相続人が全員納得している場合は、多少契約能力に問題があっても進めても大丈夫です。

3-2.最低限、サインができるレベル

いくら相続人が納得していても、患者さん自身が自分で名前が書けないレベルでは、契約は諦めましょう。

3-3.司法書士さんが不安に思わないレベル

不動産売却の際には、司法書士さんが立ち会われます。その司法書士さんが、不安にならない程度であれば契約を進められる可能性があります。先ほど、MMSEが20点以下は契約能力はないとご紹介しました。しかし、MMSEが16〜20点のレベルですと微妙なラインで、サインもできる方が結構いらっしゃいます。ただし、MMSEが15点以下になると、やはり契約が難しくなることが多いようです。

4.成年後見人が必要なケースとは

医療法人ブレイン土岐内科クリニックは、認知症を専門としているため定期的に裁判所や弁護士さんから電話があります。その中には、「不動産売却時の判断能力に対する意見」を求められるものも少なくありません。それは相続人全員の同意が得られずトラブルになっている事例なのだと思います。

したがって、「相続で揉めそうな家庭」、「相続人全員に連絡がつかない」、「特定の相続人有利になるような取引」の場合は、フェアに成年後見人を選任すべきです。

5.実際に見聞きしたケース

実際、私の患者さんや周囲の話の中では、認知症であっても成年後見人を選任せずに不動産売却を行われるケースがあり、トラブルになっていない事例があります。一部をご紹介します。

5-1.使い道がない隣地の売却

自宅に隣接するそれほど大きくない土地を隣の方が購入を希望されました。利用できるほどの大きさでもなく、おそらく家庭菜園の拡張をされたかったのだと思います。被相続人となる後継者の方も、とくに何かするつもりもなく空き地に雑草が生えたまま放置しているような状態だったとのこと。金額も高額でなかったため、司法書士さんの協力で滞りなく売却契約が行われ、隣地の方も喜ばれたそうです。

Residential vacant land
なかなか第三者の方に売れない土地もあります

5-2.介護費用の捻出のために本人の資産を売却

認知症患者さんが国民年金であったため、毎月の介護負担金を長男さんが負担されていました。長男さんも退職され収入が減少、負担が難しくなりました。そのため、残りの子供さんも全員承諾の上、介護費用捻出のため不動産を売却されたという事例があったようです。

6.まとめ

  • 認知症患者さんが不動産を売却する場合は、原則成年後見人を選任する必要があります。
  • しかし、現実には1回の不動産売却のために成年後見人を選任すると負担が重いものです。
  • そのため、相続人全員が同意したり、自署ができるレベルであれば取引を行うことも可能です。
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