コロナの陰性証明は無理!社員や病院に求めないでください【その理由は】

コロナの陰性証明は無理!社員や病院に求めないでください【その理由は】

先日、外来で大きな声。何かと思って聞いてみると、患者さんが、会社から「コロナの陰性証明」を求められて受診。当院で、書けない旨を説明すると、「ならば、直接会社に電話をしてくれ!」と大声。医療現場は、日々患者さんの診察に追われています。そんな中、いきなり来院された患者さんの会社に電話をする時間的余裕はありません。

世間では、「医療現場に感謝」などと言いながら、現場でこのような理不尽な出来事がたくさん起こっています。今回の記事では、総合内科専門医の長谷川嘉哉が、新型コロナウイルス感染の陰性証明が全く無意味である理由を説明します。同時に、会社は、絶対に!!社員にコロナの陰性証明を求めないようにお願いをします。

目次

1.陰性証明を求める理由

これだけ毎日のように増大するコロナ感染者数が報道されると、経営者も「自分の社員からは陽性者を出したくない」、「自分の社員は、絶対のコロナに感染していない」と思いたいのでしょう。その結果、社員に「コロナの陰性証明書」を求めることになっているのです。

しかし、コロナウイルス感染に対する間違った対応方法は、医療機関への過剰な負担につながります。まずは、コロナウイルス感染に対する正しい知識が必要なのです。

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社員の方に濃厚接触者がいたら…。不安な気持ちはわかりますが「ないことを証明する」ことはほぼ不可能です

2.陰性証明が無意味な理由

コロナウイルスは「新型」ですから、PCR検査法の感度は70%、あるいは50%とも、30%ともいわれます。そもそも、その感度自体も不明なのです。つまり陰性であってもコロナウイルス感染が否定されるわけではないのです。検査が陰性であっても、コロナに感染していないことを証明できないのに、陰性証明の発行などできるわけがないのです。詳細は以下の記事も参考になさってください。

*偽陰性とは…PCR検査で陰性でも感染が否定されたわけでない

3.コロナの検査にもいろいろ

ちなみに、最近では、コロナの検査にも種類が出てきました。

3-1.鼻咽頭ぬぐい液のPCR検査

喉の奥深くに綿棒を入れてぬぐい液を採取します。そのため、かなりの頻度で患者さんは、咳やくしゃみをするため唾液・粘液の飛沫が飛び散るため、検査を行う人の感染の危険が高くなります。

ちなみに、PCRとは、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)の略で、ウイルスの遺伝子を増幅させて検出する方法です。PCRを使うと、検体中のほんのわずかなウイルスでも検出することができますが、それでも陽性率は100%ではないのです。

3-2.やや安全な唾液のPCR検査

当初は、唾液のPCR検査は、発症から9日以内の患者さんにのみ認められていましたが、2020年7月17日の厚生労働省の発表では、「無症状の方にも、唾液を用いたPCR検査が活用できる」ことが発表されました。唾液の方が鼻咽頭ぬぐい液より感度は落ちてしまいますが、検査を行う人の危険を避けることができます。

3-3.抗原検査

PCR検査が、遺伝子を増幅して検出するのに対して、抗原検査は、新型コロナウイルスに対する抗体を用いて抗原を見つけます。すでに簡単なキットが販売されており、結果も30分程度で判明します。しかし、PCR検査に比べ、感度は劣ります。従って、結果が陰性でも、接触歴、渡航歴、家族歴などで感染が疑われる場合は、再度PCR検査を行う必要があります。


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4,抗体検査は現在の感染状況には参考にならない、とは

SNSなどでは、コロナウイルスの検査で抗体は陰性であったから大丈夫という投稿がみられますが、これはウイルスへの抗体に対する認識が大きく間違っています。抗体は、あくまで過去のコロナウイルスへの感染の有無をみるものであって、現在感染していないことを証明するものではありません。

ちなみに、「抗体が陽性であっても、絶対に感染しないわけでない」ことも知っておいてもらいたいものです。詳しくは、以下の記事も参考になさってください。

5.国も陰性証明書を求めないように通知している

日本渡航医学会、産業保健委員会、日本産業衛生学会、海外勤務健康管理研究会が作成した『新型コロナウイルス情報 企業と個人に求められる対策(令和2年 4月20日作成)』では「復帰する社員が医療機関に陰性証明書や治癒証明書の発行を求めたり、会社が復帰する社員に陰性証明書や治癒証明書の提出を指示するな ど、診療に過剰な負担がかかる要求は行わないこと。」と記載されています。

さらに、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部より提示されている 『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第18条に規定する就業 制限の解除に関する取扱いについて(令和2年5月1日付)』にも「就業制限の解除については、医療保健関係者による健康状態の確認を経て行われるものであるた め、解除された後に職場等で勤務を開始するに当たり、職場等に証明を提出する必 要はない。」と記載されています。

感染した人に対してでさえ、陰性証明書を求めないように言及しているのです。発症もしていない社員に、陰性証明書を求めることなど論外です。

6.海外渡航前の陰性証明も本当は無意味

このように、陰性証明書が意味がないことは明らかなのですが、渡航の条件としてRT-PCR for COVID-19 NegativeというPCR検査の陰性証明書を要求する国が多くなっています。現時点では、インドネシア、タイ、台湾、中国(省による異なる)、カンボジア、ラオス、スリランカ、オーストリア、チェコ、チュニジアなどは既に渡航前にPCR検査を義務付けています。そうなると、止むを得ずに陰性証明書の取得が必要になってしまいます。

ネットを見ると、自費診療でPCR検査を5万円近くの値段で請け負っている診療所がみられます。検査内容は、唾液のPCR検査が多いようです。これでは、そもそも100%否定できていない検査結果を、お金で買うようなものです。諸外国にも、無意味な渡航条件としてのPCRの陰性証明の義務付けを解除してもらいたいものです。

7.まとめ

  • そもそも、コロナウイルスの検査は、陰性でも完全に感染を否定できません。
  • そのため、医療機関では、コロナの陰性証明書は書けないのです。
  • したがって、会社は絶対に社員に陰性証明書は求めないでください。
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