脳梗塞や脳出血というと高齢者の病気と思われがちです。しかし、小児や若い方にも起こることがあります。その場合の原因として、「もやもや病」が隠れていることがあります。このもやもや病、東アジアに多く、我々専門医も若い患者さんの脳血管障害患者さんを診るときに最初に疑う病気です。ちなみに、「もやもや」といっても心の病気ではありません。
今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、このあまり聞きなれない「もやもや病」についてご紹介します。
目次
1.もやもや病とは?
もやもや病とは、日本で最初に発見された病気です。そのため、英語でも、Moyamoya disease(モヤモヤ・ディジーズ)と訳されています。
原因不明に脳の太い血管が徐々に閉塞することで発症します。人間は、太い血管が細くなると、側副血行路といって、細い血管が自然に発生します。その細い血管網が煙のように「もやもや」見えることからこの病名になっています。
なお、2002年度(平成14年度)まではウィリス動脈輪閉塞症が日本における正式な疾患呼称でしたが、現在はもやもや病という病名が使われています。
2.疫学的観点では
もやもや病の患者さんは、東アジアに多く、日本の有病率は約10万人に5人程度、患者数は約1万6000人です。男女比では、女性が多く、3人に2人が女性です。発症年齢は、5歳前後と30〜40歳代の2つのピークがあります。どちらの年齢にせよ、通常の脳血管障害の疾患に比べ、若い年齢で発症するのです。
1961年生まれのシンガーソングライターの徳永英明さんは、40歳の2001年に「もやもや病」を発症。翌年症状が落ち着いて歌手活動に復帰しましたが、55歳の2016年、もやもや病による脳梗塞発症予防のため手術をしました。
発症の原因については不明ですが、12%程度に家族性の発症が見られることから遺伝子の関与も疑われています。
3.症状は
もやもや病の血管は、細くなっているため閉塞による脳虚血を起こします。一方で、異常発達した血管網は、とても弱いため脳出血も起こすのです。子供の場合は、脳虚血が大部分ですが、大人の場合は、脳虚血と脳出血が同じ程度で見られます。なお、発症の症状については、脳虚血も脳出血も以下のような症状が見られます。
- 突然の頭痛
- 喋りにくい=構語障害
- 言葉が出にくくなる=失語
- 身体の左右どちらかに力が入らなくなる片麻痺
- けいれん発作
- 意思に関係なく体が動く不随意運動
4.診断
以下の検査によって診断をします。
4-1.頭部MRI・MRA
頭部のMRI(Magnetic Resonance Imaging)では、脳の状態を見ることが出来ます。もやもや病による梗塞や出血を検索することができます。もやもや病を疑う場合は、同時にMRA(Magnetic Resonance Angiography)も行うことで、脳の血管の状態を観察します。
4-2.脳血管撮影
足の付根からカテーテルを入れ、血管内に造影剤を入れて、頭部MRAより詳細に脳の血管を観察します。
4-3.脳血流シンチグラフィー
脳血流シンチとは、脳の血流を評価する検査です。画像では、血流量の量が色で分かるようになっています。もやもや病において、どの部位で、どの程度血流が落ちているかを評価することで、治療方法を選択します。
5.治療方法
もやもや病に治療には、内科的な治療と外科的な治療があります。脳血流の低下があったり内科的治療にも関わらず症状を認める方には、外科的治療を行います。
5-1.内科的治療
抗血小板療法といって血をサラサラにすることで脳虚血発作を予防します。またけいれん発作を起こすような場合は、抗けいれん薬を使用します。
5-2.外科的治療
外科的治療には、直接バイパス術(動脈を直接脳表の血管に吻合、主に浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術)と間接バイパス術(硬膜や筋膜などを脳の表面に敷く)があります。
バイバス術は、当初は脳虚血に対して行われていましたが、脳出血発症の成人例に対して、出血予防効果が証明されています。
6.まとめ
- もやもや病とは、日本において最初に報告された脳の血管が徐々に閉塞してしまう病気です。
- 閉塞した血管を補うために、細い血管による血管網が、もやもやしているために命名されました。
- 好発年齢は、5歳前後と30〜40歳代の2つのピークがあります。