世界的な糖尿病患者さんの増加に伴って、糖尿病の治療薬の開発競争は激しいものです。そのため、我々医師は、最新の糖尿病治療に精通している必要があります。2021年2月より使用が可能になった世界初の、経口GLP1受容体作動薬はとても朗報です。従来から治療効果は抜群でしたが、注射しかなかった点が難点でした。そんな薬が経口で発売されたことは、患者さんにとっては朗報です。今回の記事では、認定内科専門医の長谷川嘉哉が経口GLP1受容体作動薬リベルサスについてご紹介します。
目次
1.GLP1製剤とは?
2型糖尿病の方に使用するGLP1製剤についてご紹介します。
1-1.GLP1とは?
GLP1とは、正式名称をグルカゴン様ペプチド-1と言います。消化管ホルモンのひとつで、消化管に入った炭水化物を認識して、消化管粘膜上皮から分泌されます。
1-2.作用機序
食事をすると、炭水化物を認識した小腸からGLP1が分泌され、膵臓のランゲルハンス島β細胞に作用してインスリンの分泌を刺激して血糖を下げます。GLP1は血糖値が高い時にのみインスリンを分泌させます。そのため、副作用としての低血糖発作が起こりにくい点が優れています。
1-3.従来の注射製剤のデメリット
このような優れたGLP1製剤ですが、これまで発売されているのは、すべて注射製剤でした。糖尿病のコントロールも良好で、副作用もでにくく、私の86歳の父親が使用して効果が出ています。しかし、自分自身で注射が打てない患者さんもたくさんいます。介護者にも頼れない患者さんもいます。さらに、糖尿のコントロールが悪くても、「注射だけは嫌」と言う患者さんもいらっしゃいます。その点からも、口から飲めるGLP-1受容体作動薬「リベルサス錠」の発売は朗報なのです。
2.経口薬リベルサス錠とは
「2型糖尿病」を適応症とする、経口GLP-1受容体作動薬である「リベルサス錠」は2020年11月に薬価基準収載され、2021年2月5日に発売されました。どのような特徴があるのでしょうか
2-1.効果は注射薬と同等かそれ以上ある
最も気になるのは、従来の注射薬との効果の違いです。これは直接的な比較のデータはないのですが、1か月の血糖の平均であるHbA1cの変化量を比較すると、「リベルサス錠」の維持量である7㎎でも、注射薬以上の効果を示しています。ただし、この点はメーカ提供の情報ですので、今後は、実際の患者さんで学んでいくことになります。
2-2.価格も70%程度
GLP1製剤の注射の薬価は、オゼンピック®皮下注0.5mg SDが1キットあたり3,094円、トルリシティのトルリシティ皮下注0.75mgアテオスが1キットあたり3396円です。これらは月に4キット使いますから、1か月に12376~13584円の1~3割負担になります。
一方で、「リベルサス錠」の薬価は、3mg:143.2円、7mg:334.2円、14mg:501.3円となっています。維持量は7㎎ですので、28日分の薬価は、334.2×28=9357円となります。1か月に9357円の1~3割負担になります。
つまり、経口薬の方が、効果的には同等かそれ以上であるにもかかわらず、値段は70%程度で済みますからお得になっているのです。
2-3.1日1回でいいが服用方法に注意
「リベルサス錠」は服用に注意が必要です。添付文書によると「1日のうちの最初の食事又は飲水の前に、空腹の状態でコップ約半分の水(約120ml以下)とともに服用し、服用時及び服用後少なくとも30分は飲食及び他の薬剤の経口摂取を避けること」とされています。糖尿病の患者さんは、他にも服用されている薬があるので注意が必要です。
3.リベルサスを使う場合
それでは、リベルサスはどのような患者さんに使用されるのでしょうか?
3-1.GLP1製剤の注射からの変更
発売当初で、最も考えられるケースは、GLP1製剤の注射をしている患者さんからの変更です。やはり、誰でも自己注射は避けたいものです。但し、注射からの変更に伴う、血糖の変化には注意が必要です。そのため、私個人の考えでは、「変更時は、2週間後に一度受診いただくこと」をお願いしたいと思っています。
3-2.DPP4阻害薬からの変更
糖尿病治療の主流である、DPP4阻害薬とGLP1製剤は作用機序が似ています。そのため、併用はできません。血糖を下げる効果は、GLP1製剤の方が強いため、臨床的には、DPP4阻害薬で血糖のコントロールが難しいケースにおいて、リベルサス錠に変更する形になると思います。
私の患者さんでも、血糖のコントロールが悪く、GLP1製剤の注射への変更を勧めても、「注射が嫌」という理由で拒んでいた患者さんがいます。そのような方には、口から飲む方式のリベルサス錠のほうが変更しやすいと思われます。
3-3.経口GLP1製剤の治療の位置づけは?
現在、糖尿病の治療薬は、第 1 選択薬としてメ トホルミン,第 2 選択薬は DPP-4 阻害薬,第 3 選択薬は SU 薬(グリクラ ジド,グリメピリド),αグルコシダーゼ阻害薬,SGLT2 阻害薬のいずれ か,とされています。ならば、「経口GLP製剤がどの位置になるか?」は今後の検討が待たれます。さすがに第一選択になる可能性は低く、第2選択も薬の効果的にもDPP4阻害薬が優先されると思われます。やはり、紹介したように第2選択のDPP4阻害薬の変更か、第三選択のひとつになると思われます。
4.リベルサス錠の注意
このようにメリットの多いリベルサス錠ですが以下の点に注意してください。
4-1.第一選択薬ではない
リベルサスの添付文書からも、糖尿病と診断された、第一選択になることはありません。実際、添付文書では「他の経口血糖降下薬を投与していない患者に、本剤を投与する場合は、本剤の投与が必要とした理由を診療報酬明細書に記載すること」とされています。
4-2.ダイエット目的の使用はダメ
実は、上記の注意は、経口GLP1製剤のダイエット目的での使用を懸念していることの一つでもあります。GLP1製剤は、体重減少という効果があります。それを、「ダイエット」目的で使用している、自費治療がかなりあるのです。経口になったことでさらに適応外の使用が増えることを恐れているのです。GLP1製剤を使用した「ダイエット注射」については、以下の記事も参考になさってください。
4-3.令和3年12月までが14日間処方
新薬は、当初は長期処方ができないため、14日間しか処方できません。リベルサス錠は2021年12月から長期処方が可能になります。処方が本格化するのは、この時期前後になると思われます。
5.あなたの主治医は大丈夫?
これだけ進歩している糖尿治療薬。常に、勉強していないと、時代に置いていかれていしまいます。あなたの主治医は時代について言っているでしょうか?以下を参考になさってください。
5-1.いまだにSU剤を使用している
商品名、アマリール、グリミクロン、オイグルコンといったSU剤で治療されている方は注意です。確かに、20年前にはSU剤しかありませんでした。そのため、SU剤が長期にわたって継続処方されている患者さんもいらっしゃいます。しかし、SU剤には低血糖のリスクがあります。そのため仮に血糖のコントロールが問題なくても、DPP4阻害薬等への変更が望まれます。低血糖の怖さについては、以下の記事も参考になさってください。
5-2.血糖値が高くても、同じ薬を出し続ける
血糖が高くても、説明するわけでも、食事指導するわけでもなく漫然と同じ薬を出し続ける医療機関もあります。糖尿病は、血糖のコントロールが悪いと多くの合併症を引き起こします。今回紹介したように、新しい薬も開発されています。血糖が悪ければ、対応方法は、たくさんあるのです。
5-3.管理栄養士がいる医療機関がおすすめ
いくら良い薬が開発されても、糖尿病治療でもっとも重要なのは食事療法です。当院でも、管理栄養士さんに来ていただいてから、間違いなく患者さんのコントロールは良好になっています。糖尿病の治療を受けるなら、できれば管理栄養士さんによる食事指導が受けられる医療機関がお薦めです。管理栄養士さんについては、以下の記事も参考になさってください。
6.まとめ
- 世界初の、経口GLP1受容体作動薬リベルサスが発売されました。
- リベルサスは飲み薬であり、注射と同等以上効果があり、注射より医療費負担も安くなります。
- リベルサスの使用においては、合併症抑制のエビデンス,病態に応じた作用機序,禁忌でないことなどを考慮して選択する必要があります。