新型コロナワクチンの接種が全国で進んでいます。それが終わると、今度はインフルエンザワクチンです。その間にも、肺炎球菌ワクチンの案内も来ますし、任意での帯状疱疹ワクチンもあります。その上、3回目の新型コロナワクチンの噂まで出ています。ということで、皆さんは注射を受ける機会が、今まで以上に増えているのです。そんな「注射」、やむを得ずにうっているのですが、その時々で、痛みに差があることに気が付きませんか? 今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、注射による痛みの違い、打ち手による痛みの違い、そして個々でできる痛み対策についてご紹介します。
目次
1.注射の痛みの理由
そもそも、注射における痛みとは、どのようなものなのでしょうか?
1-1.針を刺すときの痛み
皮膚に針が刺されると、皮膚の表面に存在する「痛点」が痛みを感じます。「痛点」とは、痛みを感じる受容体であり、皮膚の表面に1㎠あたり平均130ほど存在します。そのため、注射針が細いほど、痛点に当たる確率が減るため、痛みを感じにくくなるのです。
1-2.薬を入れるときの痛み
これは、注射により注入する薬物が原因のものです。大きく2つの原因があります。一つ目の原因は、薬物の浸透圧です。血液と薬物との浸透圧の差が小さいほど、刺激が少なく痛みを感じなくなります。二つ目の原因は、薬物の酸性かアルカリ性かをしめすpH(ペーハー)です。人間の血液は、通常pH7.4の中性で維持されているため、薬物とのpHの差が小さいほど刺激が弱く、痛みが小さくなります。
1-3.針を抜くとき
実は、医療従事者でも忘れがちなのが、針を抜くサインも痛みです。針を刺した角度と異なる角度で針を抜くと、他の組織を刺激して痛みを感じてしまうのです。現実には、針を刺して、薬剤の注入を終え、安心してしまうのか、無造作に針を抜く方が結構いらっしゃいます。
2.注射の種類
なお、注射には、以下のような種類があります。
2-1.皮内注射
結核菌に対するツベルクリン反応や、アレルギー検査に行われます。皮膚のもっとも外側にある表皮と、その下の真皮の間に薬物を注入する方法です。治療ではなく、特定の薬物に対する反応をチェックすることが目的です。
2-2.皮下注射
インフルエンザワクチンなどの予防接種で用いられている方法です。皮膚と筋肉の間にある、脂肪がおもな皮下組織に注入します。あまり大きな声では言えませんが、男性で、皮下脂肪が殆どない方ですと、皮下注射が筋肉にまで到達してしまうことはよくあります。もちろん、効果や健康に問題はありません。
2-3.筋肉注射
ワクチン接種の中でも、新型コロナワクチンやB型肝炎ウイルスなどで用いられる方法です。皮膚の表面から最も深いところにある筋肉に、薬物を注入する方法です。pHや浸透圧などにより刺激が強い薬物でも使用できるのが特徴です。
2-4.静脈注射
静脈に、薬物を注入する方法です。直接、血管に注入するので薬物の効果が最も早く表れる方法です。今まで紹介した方法の中で、最もたくさんの量の薬物・水分・栄養分を入れることができます。効果が早く表れる分、副作用の発現も急激なため注意を要します。
3.痛みはなぜうち手によって違う?
同じ注射でも、打ち手によってなぜ痛みは異なるのでしょうか? 以下の方法を、何気なくやっている先生は、「あの先生の注射は痛くない」と言ってもらえるようです。
3-1.そもそも誰が打てるの?
そもそも、注射は誰が打って良いでしょうか? 医師はもちろんですが、診療の補助、医師の指示の下という観点から、看護師や保健師も可能です。今回の新型コロナワクチンにおける歯科医によるワクチン接種はあくまで、医師法上の特例になります。
3-2.皮膚の張力の掛け方
針を刺す際に皮膚に張力をかけると、スムーズに針先が皮膚を通過するため痛みが軽減されます。静脈注射の場合は、あまり張力をかけすぎると血管が見えにくくなるため、そのバランスが大事になります。とても言いにくいのですが、若い患者さんは皮膚に張りがあるため、張力をかけなくてもスムーズに針が刺さります。
3-3.針を刺すスピード
鍼灸の治療を受けた方ならわかると思いますが、鍼の場合、ほとんど痛みはありません。鍼灸では、針の頭を指ではじくことで、瞬時に皮膚にさすためです。したがって、慎重になりすぎて、ゆっくり注射針を刺すと痛みを強く感じるのです。テレビなどの予防接種のニュースなどで、とてもゆっくり注射針を刺している医師をみると、「これは痛い!」と予想されます。
3-4.薬液の入れるスピード
薬液はゆっくり注入しないと痛みを強く感じてしまいます。針は瞬時に刺して、薬液はゆっくり注入してあげることがコツです。
3-5.針の抜き方
針は、刺した時だけでなく抜くときにも痛みを感じます。針を抜くときは、刺した角度と同じ角度でまっすぐ抜くと、より痛みを抑えることができます。
4.患者さん自身の努力で痛みを減らすには?
患者さん自身が、注射の痛みを減らすには以下の方法があります。
4-1.注射部位を冷やす、押さえる
注射部位を前もって、冷やしたり圧迫すると、痛みが減ることはワクチン接種の研究でも示されています。氷嚢で前もって冷やすと効果的ですが、注射する部位を10秒間親指で圧迫するだけでも効果があります。ただし私の経験では、わざわざ冷やしている人は見たことがありません。
4-2.緊張を緩める
緊張して、全身に力が入っているとかえって痛みを強く感じてしまいます。深呼吸をして、副交感神経を優位にしてから望みましょう。
4-3.親指爪刺激法
この方法は、時々されている患者さんがいらっしゃいます。注射をうたれる反対側の親指の爪の付け根を、人差し指の爪先で押さえます。結構の痛みを感じますが、その分、注射の痛みが和らぎます。反対側の痛みは、全身のどこでもよいのですが、やはり爪がお薦めです。
5.まとめ
- 注射の痛みには、針を刺すとき、薬を入れるとき、針を抜くときの痛みがあります。
- ちょっとしたコツを知っている先生がうつと、痛みは結構は少なくなります。
- 患者さん自身でも、緊張を緩めて、うたれる部位を押さえたり、反対側の親指の爪の付け根を刺激すると、痛みが軽減します。