60歳を超えてからの筋トレ:高負荷トレーニングの落とし穴と賢い身体づくり

60歳を超えてからの筋トレ:高負荷トレーニングの落とし穴と賢い身体づくり

現代は「人生100年時代」とも言われ、健康寿命を延ばすことがますます重要視されています。その中で「筋トレ」は高齢者にも有効な健康法として広く認知されています。実際に、適切な筋力トレーニングは転倒リスクの軽減や生活の質(QOL)の向上、さらには認知症予防にも効果があるとされています。

しかし、60歳を超えてからの筋トレには“やり方”が非常に重要です。若い頃と同じような「重い負荷をかける」「限界まで追い込む」といったトレーニング方法は、かえって身体を壊す原因になりかねません。特に最大筋力の80%を超えるような高負荷トレーニングは、循環器系や関節、腱、筋膜などの整形外科的観点からも強く注意が必要です。

目次

1.高負荷トレーニングのリスク

60歳以降の身体は、見た目以上に内部の変化が進んでいます。心臓や血管の柔軟性は若年層に比べて低下しており、急激な血圧上昇に耐えられないこともあります。最大筋力の80%を超えるような高負荷を扱うと、瞬間的に血圧が上昇し、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まる危険性があります。

また、筋肉自体はトレーニングによってある程度鍛えられても、関節や腱、靱帯といった結合組織の回復力は加齢とともに低下します。無理な負荷をかけると、関節炎、腱断裂、椎間板ヘルニアなど、整形外科的な問題に繋がることも少なくありません。

2. 「筋肉ムキムキ=健康」は誤解?

最近はSNSやメディアを通じて、高齢でも筋肉隆々な身体を披露する人が増えています。一見、健康的で若々しいように見えるかもしれませんが、外見のインパクトに反して、内面は無理をしていることも多いのが実情です。

「筋肉ムキムキ」が必ずしも「健康」とイコールではないのです。むしろ、過剰な筋肥大を目指すことは健康寿命を縮める可能性すらあります。なぜなら、そのためには高負荷、高頻度、高タンパクな食事、場合によってはサプリや薬剤の多用が必要になるからです。

そして何より、「筋肉ムキムキ」の外見は、一般的な社会生活においては必ずしも「知的」や「賢明」と受け止められるとは限りません。見せかけの筋力よりも、姿勢の良さ、軽やかな動作、痛みのない生活のほうが、はるかに価値のある身体能力と言えるでしょう。

3.「最大筋力の80%を超えるような高負荷でなければ筋肉は増えない」は、半分正解・半分誤解

筋肉を増やす、いわゆる「筋肥大」を狙う場合、たしかに最大筋力の80%以上の負荷(=8回できるかどうか程度の重さ)を扱うトレーニングは、非常に効果的です。これはスポーツ選手やボディビルダーが行う典型的な筋肥大トレーニングの一つの王道です。

ですが、それは若年者の話です。

近年の研究では、最大筋力の30〜60%程度の軽〜中程度の負荷でも、回数を増やし、筋肉を適度に疲労させることで、十分に筋肥大が可能であることが明らかになっています。特に高齢者では、関節や心血管への負担を考慮すれば、こうした中〜低負荷の方法のほうが、安全性も高く、継続にもつながります。

つまり、「80%以上でなければ筋肉が増えない」というのは誤解です。80%以上は“筋肥大のための最短ルート”である一方、“唯一の方法”ではありません。軽い負荷でも、適切なフォームと十分な回数をこなすことで、筋肉は着実に反応します。むしろ高齢者にとっては、ケガを避け、生活に支障なく継続できる範囲で筋肉を刺激することが、健康的な身体づくりには最も重要なのです。


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4. 賢く、安全に身体を鍛えるには?

60歳以降の筋トレで最も大切なのは、「継続できる安全な運動」です。以下のポイントを参考に、無理のないトレーニングを心がけましょう。

4-1. 中〜低負荷で十分な効果

最大筋力の50〜60%程度、つまり「ややきつい」と感じる重さで10〜15回の反復ができるレベルが理想的です。これでも筋力維持・向上効果は十分に得られます。

4-2.筋トレ+有酸素運動の組み合わせ

筋トレばかりに偏らず、ウォーキングや水泳などの有酸素運動も組み合わせることで、心肺機能の維持と体脂肪のコントロールにも効果があります。

4-3.フォームとバランスを重視

筋肉を鍛えるだけでなく、関節の可動域、柔軟性、バランス感覚を高めることも重要です。ヨガやピラティス、ストレッチなども積極的に取り入れましょう。

4-4.無理をしない、疲労を溜めない

「少し物足りないくらい」で終えることが、実は最も賢明なトレーニングです。疲労が溜まったまま続けると、怪我や慢性痛の原因になります。

4-5.医師やトレーナーと相談

特に持病がある方は、医師の指導のもとでトレーニングメニューを作成しましょう。高齢の方向けのアドバイスをしてくれるパーソナルトレーナーの力を借りるのも良い選択です。

5.まとめ:長く使える身体を目指す筋トレを

60歳を過ぎた今こそ、「若返る」ための筋トレではなく、「長く使える身体」を目指す賢い筋トレが求められています。高負荷で筋肉を大きくするのではなく、痛みなく動ける、疲れにくい、生活を楽しめる身体づくりこそが、本当の意味での“健康”ではないでしょうか。筋トレは、無理なく、楽しく、長く続けることが何よりの秘訣です。見た目に惑わされず、自分自身の身体と対話しながら、未来の自分のために今日から少しずつ始めてみましょう。

 

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