認知症予防について調べると、世の中には実に多くの情報があふれています。
脳トレ、サプリメント、特定の食品、最新の研究成果……。しかし、数多くの研究を俯瞰し、臨床の現場で患者さんを診ていると、最終的に行き着く答えは驚くほどシンプルです。
それは
① 適度な運動
② 良質な睡眠
③ バランスの良い食事
この三本柱です。
目新しさはありませんが、これらを長期にわたって継続できている人ほど、認知機能の低下が緩やかであることは、国内外の多くの研究で一貫して示されています。
目次
1.食事の「質」が注目される理由
この三本柱の中でも、近年特に注目されているのが「食事の質」です。
なぜなら、食事は単に栄養を体に取り入れる行為ではなく、腸内細菌叢を通じて、脳にまで影響を及ぼすことがわかってきたからです。
腸には100兆個以上の細菌が棲みつき、これらが作り出す代謝産物は、免疫、炎症、ホルモン、さらには脳機能にも影響を与えます。
この「腸―脳相関」は、今や神経内科・老年医学の重要な研究テーマの一つです。
2.腸内細菌と神経変性疾患
腸内細菌の関与は、認知症だけに限りません。
パーキンソン病では、便秘などの消化管症状が運動症状より何年も前から出現することが知られており、腸から始まる病態仮説も提唱されています。
実際、海外では便移植(FMT:Fecal Microbiota Transplantation)が、パーキンソン病や自閉症、さらには認知症に対しても治験段階で検討されています。
まだ一般医療として確立されたものではありませんが、「腸内環境を変えることで脳の病気に介入できるかもしれない」という発想自体が、これまでの医学の常識を大きく揺さぶっています。
3.認知症予防における腸内環境の意味
認知症、とりわけアルツハイマー型認知症では、慢性的な炎症が病態に関与していると考えられています。
腸内環境が悪化すると、腸管のバリア機能が低下し、炎症を引き起こす物質が血流に乗って全身、そして脳へ影響を及ぼします。
つまり、腸を整えることは、脳の炎症を抑える可能性があるのです。
4.何を食べればよいのか
ここで重要なのは、特別な食品や高価なサプリメントではありません。
基本はあくまで「日常の食事」です。
特に意識したいのは、以下の二つです。
① 食物繊維
野菜、海藻、きのこ、豆類、全粒穀物などに豊富に含まれる食物繊維は、腸内細菌のエサになります。
善玉菌が増えることで、短鎖脂肪酸と呼ばれる有益な物質が作られ、炎症抑制や腸管機能の改善につながります。
② 発酵食品
味噌、納豆、ヨーグルト、ぬか漬け、キムチなどの発酵食品は、腸内細菌の多様性を保つ助けになります。
「毎日少しずつ、無理なく続ける」ことがポイントです。
5.極端な健康法に注意
注意したいのは、「これさえ食べれば大丈夫」「これをやめれば認知症にならない」といった極端な主張です。
腸内細菌は人それぞれ異なり、万能の食事法は存在しません。
大切なのは、
多様な食材を、偏りなく、継続的に摂ること
そして、運動や睡眠と組み合わせて、生活全体を整えることです。
6.腸を整えることは、老後を整えること
認知症予防は、何か特別なことを始めるよりも、日々の生活の積み重ねです。
腸内細菌の視点は、これまで見過ごされがちだった「食事の質」に、明確な医学的根拠を与えてくれました。
腸を整えることは、脳を守ること。
そしてそれは、健康寿命を延ばし、自分らしい老後を守ることにもつながります。
今日の一食が、10年後、20年後の脳をつくっている。
そう考えると、食事の意味が少し違って見えてくるのではないでしょうか。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。