今回は、視聴者・読者の間でも反響の大きいドラマ 『じゃあ、あんたが作ってみろよ 」を題材に、「料理と認知症予防」について医学的視点から解説します。
物語の主人公・勝男は、序盤でははっきり言って「認知症まっしぐら」の状態でした。家事はすべて婚約者任せ、家の中での役割はなく、毎日をぼんやり過ごす。刺激も責任もない生活は、認知機能にとって最悪の環境です。
そんな勝男が婚約者から、婚約破棄をされる。彼の人生、そして“脳の運命”を大きく変えていきます。
目次
1.勝男は「認知症の入り口」に立っていた
認知症リスクを高める生活習慣には、共通点があります。役割の喪失、刺激不足、社会性の低下、自発性の欠如。勝男はそのすべてを満たしていました。脳は使わなければ、確実に衰えます。ところが、料理をはじめてから、勝男の生活は一変します。
2.料理は“超複合型”の脳トレ
料理は、実は脳を最も忙しくする行動の一つです。段取りを考える前頭葉、火加減や時間管理に必要なワーキングメモリ、包丁や盛り付けで使う指先の精密運動、味付けでの感覚統合、そして「家族に食べさせる」という社会的役割。
これらを同時に使う行為は、単なる脳トレをはるかに超えた“脳のフィットネス”です。勝男の脳は、料理を始めた瞬間から再び動き出したのです。
3.表情が変わる、それは脳が目覚めたサイン
ドラマの中で勝男は、次第に表情が明るくなり、口数が増え、工夫をし始めます。これは前頭葉の活性化による「意欲の回復」の典型例です。料理は結果がすぐに出ます。「おいしい」という一言が成功体験となり、ドーパミンが分泌され、さらにやる気が生まれる。好循環が回り始めるのです。
4.なぜ男性は料理で若返るのか
特に男性は、退職後に役割を失うと認知機能が急速に低下しがちです。しかし料理を始めると、驚くほど若返るケースが少なくありません。
新しいスキル習得、達成感、家庭内での役割復活、家族からの承認。勝男が変わった理由は、この4つが同時に満たされたからです。
5.科学的にも裏付けられた効果
近年の研究では、「料理をする高齢者は認知症リスクが30〜50%低い」「料理経験のある男性は退職後の認知機能低下が遅い」といった報告もあります。
料理は段取り・判断力・注意力・記憶力・創造性・手指運動をすべて刺激する、まさに“究極の認知症リハビリ”なのです。
6.今日からできる、最強の予防策
難しく考える必要はありません。卵焼き一品、味噌汁一杯で十分。「誰かのために作る」ことが何より重要です。失敗しても構いません。脳にとっては、成功より失敗の方が刺激になることもあります。
7.料理で人生は変わる。脳も変わる。
このドラマは、単なる家族劇ではありません。料理を通じて、勝男が再び社会的役割と自信を取り戻す物語です。そしてそれは、認知症外来の現場でも日常的に起きている現実です。
私は断言します。料理は、最強の認知症予防薬である。
勝男の変化は、すべての高齢者とその家族への、力強いメッセージなのです。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。