人間は生きていくために、「食べて出す」ことが必要です。排泄は食べることと同様に重要です。そのため、健常の方でも便秘になるととても気分が悪いものです。ましてや認知症の患者さんが便秘になると、症状を訴えることができないため、不穏になったり、対応に難渋します。便秘を改善するだけでいろいろなことが良化すると言えるのです。
そのため、認知症の患者さんほど、排便のコントロールが重要となります。今回の記事では、月1000名の認知症患者を診察する、専門医長谷川嘉哉が、認知症患者さんへの便秘の対応方法をご紹介します。
目次
1.便秘とは?
便秘とは、大腸内の便の通過が遅くなったり、腸内に便が長時間とどまることで、排便がスムーズに行われない状態を言います。排便のない状態が3日程度続いたら便秘だと思ってよいでしょう。また、1日1回排便があっても、量が少ない、すっきり出た感じがない、便が硬く、なかなか排泄できない、排便の間隔が不規則などの状態があれば、便秘といえます。1日1回、バナナ2本分くらいの排便があるのが理想的です。
2.認知症患者さんの便秘の特徴
認知症の患者さんの便秘には以下の特徴があります。
2-1.食事量が少ない
認知症の患者さんは、バランスよく食事を摂取することが難しくなります。拒食といって、食事自体を認識しなくなると、生命的な危険さえ起こりえます。そのため、「患者さん自身が食べたいものを食べてもらう」ことになります。その結果、栄養バランスが悪くなりがちで、特に植物繊維の摂取量が減ることで、便秘につながるのです。
2-2.便意を訴えられない
認知症が進行すると、便意自体の認識が鈍くなります。また、便意があっても伝えることができず、不穏などの他の症状が出現してしまいます。
※不穏(ふおん、restless)とは、周囲への警戒心が強く、落ち着きがなく興奮している状態
2-3.自分で気張ることができない
便意があって、トイレに行っても、上手に腹圧をかけることができなくなり、便を出し切ることができなくなります。結果として、常に大腸内に便が残ってしまうのです。
2-4.薬の副作用による場合も
認知症になると、他の薬も服薬していることが多くなります。その薬の副作用で便秘になることがあります。特に、認知症患者さんは頻尿の症状により、一日に数十回もトイレに行く方が見えます。そんな時に、排尿の回数を減らすための薬の副作用として便秘が出現してしまいます。頻尿と便秘のどちらを優先するか悩ましいのです。
2-5.便秘による食事量の減少
認知症患者さんが、便秘になると食欲が低下してしまいます。その結果、ますます便秘が進行してしまいます。
3.排便を把握するには
認知症患者さんの便秘に対応するには、排便を把握する必要があります。すでに、オムツを使用している場合は、交換時に排便の有無や、便の状態の把握が可能です。しかし、オムツを使用せずに、患者さん自身がトイレに行く場合は、把握が難しくなります。自己申告はあてにならないため、トイレに行った後に介護者が臭いを確認して把握することも有効な手段です。また、患者さん自身の腹部を見て、膨れていないかの観察も重要です。
4.薬剤での対応方法
便秘が続く場合は、薬物による対応も必要になります。以下の記事も参考になさってください。
4-1.便を柔らかくする
下剤を使用する前に、便を柔らかくする薬を使用します。患者さんによって、この薬だけで排便が良好になる方もたくさんいらっしゃいます。通常は、酸化マグネシウム(製品名:マグミットほか)を使用します。マグネシウムは、腸内で胃酸や膵液と反応することで塩類の濃度を高め、浸透圧を働かせて腸管から腸内へ水分を移動させ、便を軟らかくします。
4-2.下剤
便を柔らかくする酸化マグネシウムだけでは効果がない場合は、大腸を刺激する下剤を使用します。代表的な薬は、センナを代表とする刺激性下剤です。刺激性下剤は、大腸の蠕動運動を促して排便を起こします。なお、最近では、便を柔らかくする作用と、大腸の蠕動運動を刺激する両者の働きをもつ、ビプロストン(製品名:アミティーザ)、エロビキシバット水和物(製品名:グーフィス錠)も使用します。
4-3.ケアプランで定期的な浣腸を行う
認知症患者さんの中には、薬を使っても排便ができない方がいます。そのよう場合は、ケアプランで訪問看護を週に1〜2回、排便コントロール目的で導入します。看護師さんによって、浣腸や摘便を行うことで定期的な排便を維持します。当グループの訪問看護婦さんにも一定数、排便コントロール目的の依頼があります。看護婦さんの献身的な排便コントロールには、頭が下がります。
5.生活習慣
薬剤以外にも、認知症患者さんには生活習慣が重要です。
5-1.水分摂取に努める
認知症患者さんは、体温調節機能が狂います。結果、暑さやのどの渇きに鈍くなります。結果、なかなか水分をとられないため、ますます便秘になってしまいます。介護者が定期的に水分摂取を促す必要があります。
5-2.トイレ誘導
認知症の患者さんは、自らの意思でトイレに行くことができません。介護者は、患者さんの落ち着かないそぶりなどで、適切なトイレ誘導をする必要があります。
5-3.運動
運動は、排便の刺激に有効です。認知症患者さんを散歩などに連れ出して、運動習慣をつけることが、排便習慣には有効です。
6.まとめ
- 認知症の患者さんが便秘になると、症状を訴えることができないため、不穏になったり対応に難渋します。
- 認知症患者さんの便秘のコントロールには、排便の観察が大事です。
- 便秘のコントロールのためには、薬物治療や生活習慣の改善が重要になります。