2021年6月7日米FDA(食品医薬品局)は、バイオジェンのアデュカヌマブをアルツハイマー病の根本原因に対する初の治療薬として承認しました。私は、アデュカヌマブについては、以前から関心を持っており、個人的意見としては承認されるほどの効果がある薬とは考えていません。
目次
1.FDAの委員が抗議の辞任
そう思っていたのは自分だけではないようで、2021年6月9日米FDAの諮問委員会のうち、承認に否定的見解を示していた委員2人が抗議のため辞任されました。
何しろ、2020年11月の会合では、外部有識者11名で構成する諮問委はアデュカヌマブの有効性を示す根拠が不足しているとして、全会一致承認に反対する意見を可決していたのです。(出典:ロイター通信報道)
2.アデュカヌマブ、臨床試験を中止した薬剤
さかのぼれば、エーザイ株式会社は2019年3月21日の時点で、十分な治療効果を証明できない可能性が強まった「アデュカヌマブ」について、臨床試験(治験)を中止すると発表しました。しかし、その後無理矢理対象を調整し、高用量投与群を増やすことで、当初の解析とは異なる結果を出したのです。具体的には、「解析により、いったん治験を終了させられた早期アルツハイマー病患者さん」に、高用量の投与で効果があったということです。これらの過程には相当無理があります。
3.アミロイドβの蓄積は減らしたが、臨床効果はない
ならばなぜFDAは承認したのでしょうか? FDAのコメントは以下です。
アデュカヌマブの臨床試験ではさまざまな結果が出たが、脳内に蓄積して認知機能を低下させると考えられている有害なタンパク質「アミロイドβ」を減少させることが示され、患者の利益につながる可能性が高い
つまり、臨床試験でははっきりしないが、作用機序から承認したということです。
4.認知症はアミロイドβだけで説明はつかない
臨床をしているものからすると、アミロイドβは正常の高齢者にも存在します。また、認知機能の低下と老人斑の数は一致しないことも分かっています。つまり、アミロイドβだけでは認知症は説明できないのです。今回の、「理論上アミロイドβの沈着を減らせても、臨床効果が出ないこと」は、そのことの証明ともいえるのです。
5.何らかの政治的圧力?
以上の経過を考えると、アデュカヌマブは本来、承認されるべき薬ではありません。しかし、予想される薬価からも相当の利権が絡んでいると思います。FDAには、抗議の辞任をした委員2人の良心に応えてほしいと思います。
6.まとめ
- FDAのアデュカヌマブの承認に、委員2人が反対して辞任されました。
- アデュカヌマブは理論上アミロイドβの沈着を減らしても、臨床症状は改善しませんでした。
- アデュカヌマブの臨床効果がないことは、「認知症の原因はアミロイドβだけでないこと」を証明したのです。