先週は自宅で看取らせていただいた患者さんのご家族が、偶然同じ日に挨拶に来てくれました。在宅患者さんへの訪問診療は、通常は2週間に1回と定期的に伺います。数年に及ぶ場合は、100回以上伺っているケースもあります。その上、状態が悪化した場合は、毎日訪問することさえあります。
それだけ頻回に伺っても患者さんがお亡くなりになった途端、その家に訪問することはありません。何か不思議な感じがしますが、やむをえません。ですから死後に、ご家族が訪ねてきてくれると懐かしささえ覚えます。
現在在宅での看取り率は10%程度と、多くの条件が揃わなければ実現できないものです。そのため、在宅での看取りをされたご家族は、どこか満足げで誇らしげな様子が伝わってくるものです。自宅での最後では、本当にドラマのような話がいっぱいです。他の訪問診療中に『亡くなった』と電話が入った時に、偶然その家の前を走っており、ご家族が驚かれるほど早く到着できたこともあります。到着した途端に、私の目の前で息を引き取った方は一人二人ではありません。まるで、自分の到着を待っていてくれたようです。以前、地域の基幹病院で主治医であった患者さんに20年ぶりに再会して、自宅で看取らせてもらった不思議な縁もありました。
初めて在宅で看取る時には、ご家族も相当不安なものです。しかし、一度経験すると堂々としたものです。そのため当院では、在宅看取りを経験されたご家族が、再度ご依頼いただけることが多いものです。看取りをされたご家族は、それこそ一族で外来も受診してくれます。そんな患者さんとは、季節の時々には故人の思い出話に花が咲きます。これもとても心地よいものです。
経営者は年を経るに従って、少しずつ現場を離れざるを得ません。しかし、こんな素敵な在宅医療での出会いは、どれだけ年をとっても、どれだけ組織が大きくなっても、体力が続く限り続けていきたいものです。