先回ご紹介したように、皆が命がけで介護をしているわけではありません。患者さんの認知症の進行、さらに介護力から入所を決断される方も見えます。しかし認知症である奥様が入所をすると、残されたご主人は元気がなくなります。あまりに一生懸命に介護をしてきたため、やることがなくなってしまうのです。せっかく入所したのに、毎日施設を訪ねる方もいます。ところが、そんなに慕われていても、ご主人のことをすっかり忘れてしまう奥様も見えます。なかには、ご主人がいる前で、我々医師に“会いたかった”と言って抱きついてくる方さえいるのです。
その後入所した奥様は、どんどん元気になります。女性は、認知症になっても、施設内でコミュニティを作ります。互いが認知症であって、傍から聞いていると辻褄が合わない会話でも楽しそうです。家にいるときは、ご主人と二人であったため会話も限られていたのかもしれません。会話以外にも、皆で掃除をしたり、洗濯を畳んだり、料理の準備をしたり、何をやっても楽しそうです。一方で男性は、そんな時でも輪の中に入れません。
そのため利用者様を受け入れる施設の側から言うと、男性と女性ではやはり女性の方は介護は容易です。しかし、そんな女性でも、女性だけになると困ったことが起きます。派閥やグループをつくって、いじめが起こるのです。皆が認知症であるのに、その中でも進行している患者さんをいじめるのです。そのくせ一人でも男性がいると、恰好をつけていじめを封印します。どんな状態になっても女性は怖いし、頼もしいものです。