2022年1月19日、「おと呆けキャラ」から「呆けキャラ」になったことを公表した蛭子能収さんと対談する機会を頂きました。自分自身は、著書「ボケ日和―わが家に認知症がやって来た!どうする?どうなる?」のなかで、介護者の立場に立ったエッセイを書かせていただきました。そのため、改めて認知症患者さんの生の声を聴かせていただく良い機会を頂きました。今回の記事では、当日の様子をご紹介します。
目次
1.蛭子さんの認知症は?
2020年の夏、蛭子能収はテレビ番組の企画の中で、認知症の診断を受けられました。現在は74歳です。
1-1.診断時はアルツハイマーとレビーの混合
認知症とは疾患の総称で、そのなかでいくつもの種類があります。最も頻度が多いものがアルツハイマー型認知症、3番目に多いものがレビー小体型認知症です。診断時は、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の混合型と診断されたようです。
1-2.現在の症状の主体はアルツハイマー型認知症
診断当初は、レビー小体型認知症特有の幻覚を認めたようですが、現在は幻覚は全く認めないようです。レビー小体型認知症進行に伴って認められる運動障害も殆ど認められないため、現在の症状の主体はアルツハイマー型認知症と考えてよさそうです。
2.症状の主体は記憶力障害
現在症状の主体は、中核症状としての記憶力障害が主体です。妄想・易怒性などの周辺症状は認めていないようです。ただし、お昼に食事をしたこと自体を忘れていたため記憶力障害は比較的進んでいるようです。
さすがに当日は認知症の進行度を図るMMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)は行いませんでしたが、症状から推察するに、30点満点の16から20点程度であると思われます。
なお認知症の初期に見られる意欲の低下により、あれほど夢中で一億円以上をつぎ込んだ「競艇」には全く興味はなくなったようです。
3.介護認定はされている
デイサービスとショートステイの利用をされているため介護認定はされているようです。介護認定は、運動機能と認知機能の組み合わせで認定されます。運動機能には全く問題がないため、認知機能の低下のみですの介護度は1程度だと予想されます。
仕事の際には、かなり「仕事モード」でしっかりされるようですが、自宅等ではそれなりの介護が必要なレベルです。蛭子さんとはいえ、やはり介護サービスの利用は必須です。
認知症の患者さんの中には、介護サービスの利用をかたくなに拒否される方がいらっしゃいますが、全く苦にならずに利用できているようです。
4.絵を書くときの目力は凄い!
介護サービスを利用するような状態でも月に5-6本の仕事はできているようです。考えてみれば、介護サービスを利用されながら仕事をしている人なんて殆どいらっしゃいません。
しかし長年やっていた仕事については、認知症が相当進行しても可能です。私の患者さんでも、80歳を超えても仕事をしている方がいらっしゃいます。詳しくは以下の記事も参考になさってください。。
ちなみに、対談後に蛭子さんが私の似顔絵を描いてくれました。その時に、自分をみて絵を描くときの目力は凄かったです。まるで別人で、見られている自分が緊張してしまうほどのものでした。
5.人生の目標は死なないこと
対談の中では、「死生観」についてもう伺いました。死ぬことには、かなり恐怖心を持たれているようでした。そのため、「現在の目標は、死なないこと」と言われていました。
しかし、生きて、何がしたい? 何が食べたい?といったことに対する、具体的な希望はあまり持たれていないようでした。
6.周囲の方に気を配る余裕はない?
対談の中では、家族のことも聞いてみました。蛭子さんの本の中で、奥様への感謝の言葉が綴られていましたが、現実には「自分のことに必死で、周囲に気を配る余裕はあまりない」とのことでした。
ただし、介護者の好き嫌いはしっかりと認識されていました。マネージャーさん曰く、優しくちょっとふくよかな女性が好みとのことです。(蛭子さんは佐良直美さんのファンということです)
7.まとめ
- 蛭子能収さんとの対談で、認知所患者さんの生の声をきかせていただきました。
- 仕事を続けることは、脳にとっての最大のリハビリであることが再認識できました。
- 認知症患者さんには、自分のことで必死で周囲に気を配れない事実も認めてあげることが大事なようです。