認知症が出たり出なかったりする「まだら認知症」激減している理由を専門医が解説

認知症が出たり出なかったりする「まだら認知症」激減している理由を専門医が解説

ご家族が患者さんの認知症について弁護士さんなどとお話をすると、「患者さんの認知症はまだらですから対応が難しいですね」と言われるケースがあります。その言葉からは、「認知症=まだらにでるもの」と思われるかもしれません。しかし、認知症医療の現場では、「まだら認知症」の頻度はどんどん減っています。今回の記事では、月に1000名の認知症患者さんを診察する長谷川嘉哉が、「まだら認知症」について解説します。

1.まだら認知症とは?

比較的聞きなれたかもしれません。「まだら認知症」とは以下の特徴があります。

1-1.病名ではない

まだら認知症とは、認知症の程度が、「悪いときもあれば、良いときもある」といったように、症状が「斑(まだら)」に現れることを言います。これは、病名ではなく、症状の呼び名なのです。

1-2.血管性認知症の一症状

そもそも認知症という言葉も、病名ではなく「総称」です。認知症の原因疾患は100以上あるといわれています、最も有名なアルツハイマー型認知症の頻度が1位です。頻度的に2番目に多いのが血管性認知症です。この特徴的な症状の一つが、「まだら認知症」なのです。社会福祉士の国家試験では、「アルツハイマー型認知症の症状は、まだらである」という設問に対しては、×が正解です。つまり、まだら認知症という症状は、認知症の中でもあくまでも、血管性認知症の一症状なのです。

1-3.頻度は減っている

現在、認知症の中では、アルツハイマー型認知症が約60%を占めます。そのため、2位であっても血管性認知症は20%前後しかありません。つまり、認知症の患者さんの5人に4人は「まだら認知症」とは関係がないのです。

血管性認知症は、脳梗塞や脳出血の後遺症とといった脳血管障害によって引き起こされます。最近は、生活習慣病の予防が進んでいるため、脳血管障害の発症も減少し、程度も軽くなっています。つまり、「まだら認知症」を引き起こす、血管性認知症の頻度はさらに減っているのです。

CT Scan(Computerized Tomography) show absence of blood flow to left brain. The patient has ischemic stroke or cerebrovascular disease from atherosclerotic stenosis. Neurology investigation concept
脳血管障害が血管性認知症を引き起こします

2.まだらとは?

まだら認知症の、「まだら」には以下の2種類の特徴があります。

2-1.症状のまだら

まだら認知症の場合、すべての機能が低下するのではなく、脳血管障害で損傷を受けた機能のみが低下します。そのため、他の機能は健常者と変わりがないといった、特定の機能のみが低下している状態になります。

2-2.時間的なまだら

まだら認知症の場合、時間のまばらもあります。調子の良い日があれば、悪い日もあります。もっと短時間に、朝は調子が良くても、午後には調子が悪いこともあります。そのため、周囲の人間は、その対応に困惑してしまうのです。

2-3.自覚症状が少ないことも多い

症状の良い時と悪い時があり、日によっても良い時と悪い時があるため、周囲どころか、患者さん自身も自覚症状に乏しい特徴があります。そのため、病院への受診を拒否することもあり、診断が遅れることもあります。

3.まだら認知症の特徴

まだら認知症を引き起こす血管性認知症は、他の認知症とはどのような違いがあるのでしょうか。

3-1.アルツハイマーに比べ発症が若い

アルツハイマー型認知症に比べ、約10歳ほど若い年齢で発症します。アルツハイマー型認知症は80歳前後で発症する方が多いのですが、血管性認知症は70歳前後で発症することが多いです。


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3-2.身体症状も合併

血管性認知症は運動機能障害を伴います。片麻痺で足を引きずっていたり、片麻痺は軽くても全身のバランスが取れない失調症状が見られます。

3-3.嚥下障害を合併する

私は、以前の勤務医していた病院で嚥下造影検査(Videofluoroscopic examination of swallowing)を認知症患者さんで行っていました。その結果、血管性認知症は病変の軽重に関わらず、ほぼ全例で嚥下機能障害を認めました。一方、アルツハイマー型認知症では嚥下機能障害を認めませんでした。

血管性認知症については詳しくは、以下の記事も参考になさってください。

4.認知症=まだらと思い込まないで

ご紹介したように、まだら認知症は、認知症全体の2割程度です。

4-1.8割の認知症はまだらでない

つまり、最も頻度の多いアルツハイマー型認知症の場合は、まだらではありません。従って、契約などの場合も、「契約能力がある」か「契約能力がない」に明確に鑑別が可能です。決して、日によったり、時間によって契約能力に違いがあることは、あまりありません。具体的には認知症の評価スケールであるMMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)で30点満点で20点以上であれば、契約能力はあると考えます。

4-2.2割のまだら認知症を疑う場合

次のような症状がある場合は、2割のまだら認知症を疑いましょう。歩行が不安定であったり、手足を引きずるような運動障害があったり、唾液が絡まったような喋り方をする場合は、血管性認知症の可能性があり、「まだら認知症」が疑われます。このような場合に契約を行う場合は、念のために二人の医師による診断のもとで、「契約能力がある」ことを書面で残しておくことがトラブルを回避します。

5.まだら認知症の予防は

周囲の人も困惑させるまだら認知症にはなりたくないものです。そのためには、以下に注意をしましょう。

5-1.生活習慣病の改善

まだら認知症を引き起こす血管性認知症は、生活習慣病が原因による脳血管障害で引き起こされます。そのため高血圧・高脂血症・糖尿病のコントロールが重要です。

5-2.脱水に注意

まだら認知症を引き起こす血管性認知症の患者さんは、脱水の影響を強く受けます。体調を崩して、水分が取れないと意識レベルが低下するほど悪化します。しかし、点滴で補液をすると、歩いて帰れるほどに改善します。脱水は、夏だけでなく、暖房が効いた冬にも発症するので注意が必要です。

6.まとめ

  • 「認知症=まだら」と誤解している人がたくさんいます。
  • まだら認知症を引き起こす血管性認知症は、全体の20%しかありません。
  • 認知症の多くは、日によったり、時間によって契約能力に違いはありません。
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