専門医が警告!「通帳が見当たらない」「再発行したい」は認知症かも

専門医が警告!「通帳が見当たらない」「再発行したい」は認知症かも

認知症の患者さんへの初診の質問では、「金銭管理は出来ていますか?」を必ず伺います。認知症の患者さんは金銭管理ができなくなるからです。例えば「通帳を紛失した」「ATMが使えなくなった」「下ろしたお金を銀行に忘れてきた」などと言います。そのため、金融機関とトラブルになることも多いのです。

この記事では、毎月1,000人の認知症患者さんを診察する認知症専門医長谷川が、金銭管理から分かる認知症の進行度、対応法を中心にご紹介します。

目次

1.認知症患者さんに多い金銭管理にまつわる症状

以下にご紹介する症状は見られた場合は、認知症が強く疑われます。

1-1.通帳の紛失

金銭管理が危うくなった患者さんで、もっとも多くみられる症状です。1回ならまだしも、2回以上紛失する場合は、かなりの頻度で認知症を疑ってください。

ここで多くのご家族が再発行手続きで困ります。通帳が無い場合の再発行の手続きはご本人が行う場合は、「本人確認書類(健康保険証等)」と「お届印」でOKです。代理人の場合は「お届印」と名義人が作成した「委任状」と「代理人の本人確認書類(健康保険証等)」が必要となります。

しかし、これらはいずれも「字が書ける」ことが前提です。認知症が進行して字が書けなくなると、本人であれ代理人であれ再発行はできないのです。

そのため、名義人が文字が書けない、意思表示ができない場合は、「成年後見人」の選任が必要になります。

成年後見人制度について詳しく知りたい方は以下の記事をご一読ください。

1-2.ATMが使えなくなる

「暗証暗号を何度も間違えてキャッシュカードが使えなくなった」、「出金を窓口でするようになった」という症状があれば、認知症専門医を受診しましょう。

逆に、ATMが使えれば認知症の可能性は低いと考えてください。暗証番号を管理し複雑な機械操作を行うためには、認知機能が維持されている必要があるのです。

elderly man inserting credit card to ATM
ATMが問題なく使えている場合には認知症の心配はあまりないといえます

1-3.銀行に下ろしたお金を忘れてきた

これは本当に銀行に置き忘れてきたこともあります。しかし多くのケースは、下ろしてきたお金をどこかに仕舞い込み、見つからなくなるのです。その言い訳として、「銀行に忘れてきた」と言われることが多いようです。銀行にとっては迷惑な話ですが、認知症患者さんは、上手に責任転嫁されるのです。

2.認知症の「段階別」金銭トラブル

認知症の金銭トラブルにもいろいろな段階があります。程度によって認知症の進行もある程度察しが付きます。

2-1.「もともと金銭管理をしていない」人は注意

今の80歳代男性に多いケースで、このような方は発症リスクが増大します。

若いころから金銭管理は奥さん任せ。銀行でお金を下ろしたこともない。家に貯金がいくらあるかもわからない。認知症専門外来に受診される方には、もともと金銭管理をしてこなかった方が多く見られます。どうも金銭管理に無関心であることは、認知症発症のリスクの一つのようです。

2-2.通帳を紛失したと言い出す

通帳を紛失というよりは仕舞いこむことが多いようです。自分自身で、「通帳は大事」という認識は強く、いろいろ場所に隠しているうちに、どこに隠したか分からなくなるようです。このようなケースは、認知症の初期から中期によくみられる行動です。


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2-3.被害妄想が生じる

認知症が進行すると、紛失した通帳を誰かが盗ったと疑うようになります。疑われるのは、不思議と一番お世話をしてる方です。そのため私は被害妄想で疑われるのは、「介護の勲章」と言っています。しかし、やはり疑われることは気持ちの良いことではありません。

周囲の方も、認知症による症状であることをしっかり認識して、早急に専門医を受診しましょう。

3.認知症患者さんの金銭管理どうやって子供に任せるか?

金銭管理が危うくなった患者さんが、たくさんの財産をもっていることは、子供さんにとっては不安です。「誰かに騙されていないだろうか?」「変なものを購入していないだろうか?」。私の患者さんにも、騙されて高額な健康機器を購入された方もいらっしゃいます。気前よく、周囲の方にお金をあげてしまい、家族が気が付いた時には貯金が底をついていたケースもあります。

3-1.家族で説得する

子供さんたちが、そろって患者さんを説得することが大事です。認知症の患者さんは、記憶力は低下しても感情は残ります。子供たちが集まって真剣に説得すると、「今日は何か違う」と認識して、金銭管理を子供さんに任せることを了承してくれるものです。

3-2.忘れたら、医師の書いた証明書も

子供さんたちが必死に説得して、その場で納得しても翌日には忘れてしまうことがあります。そんな時は、自分が医師として診断書を用意することがあります。文面は「○○さんは、●月●日から、通帳の管理を長男さんに任せることに同意しました。」です。忘れてしまった患者さんに、この診断書をみせるとしぶしぶ納得してくれます。これは、ある患者さんのご家族から頼まれて書くようになったのですが、結構効果的です。

3-3.周辺症状出現時はメマリーでコントロールをしてから

子供が説得しても、私が診断書を用意しても、通帳管理を子供さんに任せることを拒まれる患者さんがいらっしゃいます。ときに攻撃的になり、怒りまくることもあります。このような時は、専門医によって穏やかにしてもらいましょう。

処方としては、抗認知症薬のブレーキ系の薬「メマリー」を柱として、漢方の抑肝散や抗精神病薬の少量投与を行います。多くのケースは、これで穏やかになり、家族の説得に耳を貸すようになります。

アルツハイマー薬の効果的な使い分けについては以下の記事でまとめてあります。認知症患者が周囲におられる方はぜひ一度参考になさってください。

4.認知症患者の環境においては都市銀行はお薦めでない理由

第三者による出金、解約、再発行については、金融機関によって対応にかなり差があります。

私が開業する岐阜県土岐市では、地元の信用金庫、農協などは、かなり融通が利きます。出金の際に「お父さん、元気?」と声をかけられほどです。一家全員が顔見知りで小さい頃からの付き合いというようなところもあるのでしょう。若干、安全性に不安は残りますが、家族としては助かります。

一方、都市銀行は、かなり厳格で私の妻が私名義の通帳から出金することえさえ不可能です。金融機関の規模と不正防止を考えると止むを得ないと思います。

ある程度の年齢になれば、都市銀行でなく地域に密着した信用金庫や農協、郵便局を中心に取引をすることをお勧めします。

5.まとめ

  • 「通帳の紛失」、「ATMが使えなくなった」は認知症の初期症状の可能性が高いです。
  • 認知症が疑われたら、あの手この手で管理を子供さんに任せるように説得しましょう
  • 融通が利く点からも、ある程度の年齢になったら地域に密着した信用金庫や農協、郵便局の利用がお薦めです
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