認知症患者さんの「罵声・暴言」その理由と専門医の対処方法は

認知症患者さんの「罵声・暴言」その理由と専門医の対処方法は

先日も患者さんに、「医者は患者さんに説明する必要がある」、「先生は何も説明してくれない」、「こんな先生には二度とかかる必要がない」と罵声・暴言を浴びせられました。ご家族は、とても申し訳なさそうに、平謝りです。しかし、認知症専門医としては、日常茶飯事です。というか、罵声・暴言を浴びせる患者さんは、初診の段階で殆ど予想がついていますので「想定内」です。今回の記事では、認知症専門医の長谷川嘉哉が罵声・暴言を吐く患者さんの病態、そして対応方法について解説します。

1.認知症患者さんの罵声・暴言とは?

認知症専門外来で、我々医師に対する罵声・暴言には以下の特徴があります。

1-1.ある日突然

初診の段階から、患者さんが罵声・暴言を浴びせることはありません。そもそも、それでは受診自体出来ないからです。何回か診療の回数も重ねたある日、医師に向かって暴言・罵声を浴びせるのです。

1-2.何も説明を聞いていない!

罵声・暴言の原因は不思議と似ています。「先生みたいに、何も説明しない医師は見たことがない!」と怒鳴り始めます。自分の認知症専門外来は、他の医師に比べても相当説明は多いです。そのため「ここまで説明をしてもらったことは初めてです」と喜ばれるご家族もいらっしゃいます。しかし、いくら説明しても暴言・罵声を浴びせる患者さんは記憶していないので止むを得ないのです。

1-3.頻度的には少ない

医師に対しての暴言・罵声は、頻度的には低いものです。患者さんも相手を選ぶのか、受付や看護師さんには暴言・罵声を浴びせても、医師の前では低姿勢な方の方が多いものです。そのため、医師に対して暴言・罵声を浴びせる方は、他の場面でも同様な態度をとるため周囲は対応に困ることが多くなります。

2.認知症患者さんはなぜ暴言・罵声を浴びせるのか?

暴言・罵声を浴びせる認知症患者さんには、以下の2つの病態があります。

2-1.早期認知症

一見、認知症には見えず、社会生活も自立しています。側頭葉の機能を評価するMMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)も正常。しかし前頭葉機能が低下している状態で、早期認知症と言います。早期認知症の患者さんは、論理的思考が苦手で、理屈が通りません。その挙句、理性のコントロールができないため、論理的説明をしつこくされると怒り出してしまうのです。

2-2.重度認知症の周辺症状

認知症が進行した状態です。記憶障害を主とする中核症状がさらに進行すると周辺症状が出現します。周辺症状のうちの易怒性、介護抵抗、性格の先鋭化が原因となって暴言・罵声を浴びせるのです。周辺症状については、以下の記事も参考になさってください。

3.暴言・罵声を浴びせる患者さんの特徴

認知症専門医の経験から、初診の段階で、いずれこの人には罵声・暴言を浴びせられることは予想できます。


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  • 男性であり、年齢に比べ活動的で、健康な方
  • もともと攻撃的:性格の先鋭化とは、もともとの性格がより強く出ることです。そのため、若いころから攻撃的である傾向があります。
  • 家族も遠慮がち:周囲の家族もどこか遠慮勝ちで、家庭内では「天下様」のようです。
  • アルコールの多飲歴:若いころか、多量にアルコールを飲酒していた方は、暴言・罵声の頻度は相当高まります。アルコールについては以下の記事も参考になさってください。

4.対処療法

暴言・罵声を浴びせる人には、以下の対応を行います。

4-1.早期認知症なら説得も

早期認知症の患者さんでは、説得すると理解をいただけるケースもあります。「前頭葉機能が低下すると理性のコントロールが難しくなります。怒りたくなったら、深呼吸をしてみてください」とアドバイスをすると素直に対応してくださるケースもあります。

4-2.抗認知症薬メマリーは著効

説得ができないときには、抗認知症薬のメマリーを使用します。メマリーは、認知症の進行を抑える薬ですが、「穏やかにする」という効果は抜群です。暴言・罵声を浴びせる患者さんの大部分は男性ですので、メマリー20㎎を最大限使用します。8割がたの患者さんは、メマリー20㎎で著効します。注意としては、現在保険で認められている抗認知症薬のうちメマリーのみがブレーキ系の薬です。他の3種類(アリセプト、レミニール、リバスタッチ)はいずれもアクセル系の薬です。アクセル系の薬を使用することは、火に油を注ぐことになりますから避けてください。メマリーの効用については、以下の記事も参考になさってください。

4-3.抗精神病薬も追加

メマリー20㎎だけでは効果がない場合は、抗精神病薬を少量投与します。具体的には、リスパダール、セロクエルといった統合失調症に使用する薬剤を少量使用します。この段階まで使用すると、大部分の暴言・罵声はコントロールできます。ただし私の患者さんで易怒性の挙句、刃物を振り回す患者さんがいましたが、このようなケースは精神科に緊急入院となりました。

5.暴言を浴びせられたときの医師のメンタルは

医師である私が暴言・罵声を浴びせられると、ご家族は申し訳なさそうに恐縮されます。しかし、自分自身としては、あまり気になりません。きっと以下の理由だと思われます。

  • 罵声・暴言を浴びせられる患者さんは、おおよそ予想できている。
  • 罵声・暴言も症状として、第三者的に観察している。
  • 罵声・暴言をコントロールすると、ご家族に喜んでもらえる。

ただし患者さんに対しては、相当柔軟に対応できますが、最近増えている理不尽な要求をするご家族には毅然と対応させていただいています。「当方の診療では、ご希望に沿うことができませんので、他の医療機関に代わってください」とお願いすることもあります。このことは、自分だけでなくスタッフはじめとするグループ全体を守るためには必要な時代となっているのです。

6.まとめ

  • 認知症患者さんのなかには、医師に暴言・罵声を浴びせる患者さんがいらっしゃいます。
  • 暴言・罵声を浴びせる病態は、前頭葉異能の低下もしくは周辺症状が原因となります。
  • 暴言・罵声に対しては、抗認知症薬メマリーが著効します。
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