『ボケ日和』は、患者さんでなく「介護者である私のための本」とは

『ボケ日和』は、患者さんでなく「介護者である私のための本」とは

令和3年4月に発売した、拙書『ボケ日和』は、ありがたいことに、順調に増刷を重ねています。先日も外来で付き添いの奥様に、「世の中の認知症の本は、この人(患者さん)のためのものです。でも今回の先生の本は私のための本です。素晴らしい本をありがとうございました。」と言っていただきました。涙ぐまんばかりの言葉に、著者として、本当に本当に本当に嬉しく感じました。自分自身が、元認知症の家族として、そして専門医として、本当に伝えたいことが伝わったことをとても嬉しく思っています。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が「認知症介護は、患者さんよりも介護者が大切」であることについて解説します。

目次

1.介護保険のない時代の介護

認知症介護には長い歴史があります。

1-1.措置制度

2000年4月の介護保険が施行以前は、介護は措置制度によって提供されていました。措置制度とは、「困った人がいるから、行政が職権で必要性を判断し、サービスの種類・提供機関を決定する仕組み」です。そのため、利用者がサービスの内容やサービス提供者を選ぶこともできませんでした。

1-2.介護サービスの絶対的不足

措置制度下では、介護サービスを提供する事業所も制限されていましたから、サービスは絶対的に不足していました。当時病院で勤務していたころは、脳梗塞で障害を持った患者さんが自宅に帰っても、ヘルパーもデイサービスも訪問入浴も殆どが予約一杯で利用できなかったことを思い出します。

1-3.誰かが犠牲になる介護

そのため、介護保険制度ができる以前の時代は、誰かが(ほとんどは奥さんや、お嫁さん)犠牲になって、介護をしていたのです。1970年代の我が家でも、私の母親が、認知症の祖父の介護に人生を捧げていたことを思い出します。そのおかげで、自分が医師の道を志したわけですが、母親にとっては「今でも思い出したくない時代」と言っています。

2.「本人の意思尊重」に重き置くことの矛盾

そんな誰かが犠牲になる介護を終わらせるために2000年4月に施行されました。しかし、介護保険の基本的な考えは、「自立支援」と「本人の意思尊重」です。もちろん、自立支援の精神はとても評価できるものです。

一方で、本人の意思尊重については、時に介護者の負担を重くさせています。

  • 要介護者さんが、デイサービスやショートステイ利用を頑なに拒むため、介護者の負担増
  • 在宅介護の限界を超えても、要介護者さんが入居を拒むため、お嫁さんが仕事を辞めて介護
  • 結果、介護者さんが体調を崩し、要介護者が望まない入居になる

結局のところ、要介護者さんの意思を尊重しすぎると、介護者さんの負担は変わらないのです。


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3.介護は50年間変わっていない

世間の代えがたい風潮も介護者さんの精神的負担を強います。特に、ドラマや映画で描かれる認知症介護は、50年前の1972年に有吉佐和子さんが描かれた「恍惚の人」の時代と変わっていません。認知症介護で苦労をしても、最後は家族が一丸となる。でも結局は、決まった介護者に介護が集中することにはかわりません。恍惚の人については以下の記事も参考になさってください。

もちろん、「認知症介護が大変になって、施設に入所しました」という話では、ドラマや映画にならないことは分かるのですが・・。50年もたてば、少しは、新しい描き方に挑戦してもらいたいものです。もちろん、私の『呆け日和』を原作にした映画化には、大歓迎します(笑い)。

4.介護者さんファースト

『ボケ日和』の本の中では、とにかく「介護者さんの幸せがなくては、要介護者さんの幸せもないこと」を強調させていただきました。皆さんも想像してほしいものです。自らが認知症になったときに、残された家族に過大な負担をかけたいでしょうか? 私自身は、在宅介護で多くの家族に負担を与えてしまうなら、施設入所もやむを得ないと考えています。幸い、アマゾンのレビューでは本当に多くの方に、暖かい共感をいただいています。一部紹介すると

  • 介護する者にとことん寄り添って書かれた内容。《ほどほどでいい》という最後の言葉に涙が出ました。
  • 何よりも、介護している人を守りたい、介護している人に笑ってほしい、という愛情がたっぷりこもっていて、心安らげる本です。
  • 介護で自分のメンタルが壊れてしまう前に、まずはこれを読んでみるのもよいでしょう。
  • 介護家族のことを第一に考えてくださり、たいへん励まされる思いで、不安な思いを背中から支えていただいている感じです。
  • 長い長いマラソンのような介護では、時には怒っても良いという著者の考えには、大賛成です。介護者の健康(心も、身体も)あっての認知症介護です。
  • 今までこれはやらないといけない、と頑張って来て疲れてきていたが「そうか、手を抜こう」「手を抜いていいんだ」ということを学んだ。

5.介護は、社会で負担

本当に微力ですが、この本がきっかけになって、多くのご家族が『認知症介護は、看られるところまで看る。同時に介護サービスを積極的に利用。最後は、施設入所も検討し、家族にしかできないことをする』。そんなことが、ごく普通になればよいと思います。

6.まとめ

  • 私の拙書『ボケ日和』は、介護者のための本と言われています。
  • 介護者さんの幸せがなくては、要介護者さんの幸せもありません。
  • 認知症介護は、家族として看られるところまで看るが、それ以上は積極的に介護サービスを利用してほしいものです。
ボケ日和(Amazon紹介ページ
長谷川嘉哉監修シリーズ