突然の記憶障害…一過性全健忘(TGA)と診断されても心配ない理由

突然の記憶障害…一過性全健忘(TGA)と診断されても心配ない理由

皆さん、一過性全健忘という病気をご存知でしょうか? 突然、記憶障害が生じるため、家族は急に認知症になったのではないかと相当心配になります。もしかすると、そんなご家族がこの記事を読まれているのかもしれませんね。

この病気は、私が専門とする脳神経内科が担当します。ある日突然、一過性の記憶障害を生じますが、なぜか良性の経過をたどります。つまり「心配ない」ということです。

そして、なぜか原因は未だに不明です。今回の記事では、心配なされているご家族が少しでも安心できるように一過性全健忘の正しい情報についてご紹介します。

目次

1.一過性全健忘とは?

一過性全健忘(Transient Global Amnesia:TGA)とは、一時的に記憶を失う病気です。患者さんは記憶を失っていても、いつもと同じ生活ができていますが、周囲からみると「何か変」です。そして、数時間後(多くは24時間以内)に患者さん自身が、その間の記憶が全くないことに気が付きます。その時点で、患者さん自身が、不安になり病院に救急受診されます。

発作中は「何か変」ですが、それなりに行動できています。意識は清明で、麻痺などのその他の神経症状は見られません。

2.症状と特徴

一過性全健忘には、以下の特徴があります。

2-1.症状

一過性全健忘は、突然発症する24時間以内の著明な前向性健忘(*1)と様々な程度の逆向性健忘(*2)を特徴とします。回復しますが、その間の記憶は戻りません。

仕事から帰ってきて、「私は今日どこかに出かけてきたのか」、「どうやって帰ってきたのか」、「今日は何曜日か」などの訴えをします。本人も家族も相当心配します。

*1 前向性健忘:疾患発症後の新しい出来事を記憶できない

*2 逆向性健忘:疾患発症前に起こった出来事を思い出せない


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自分が何をしていたのか、思い出せないので相当不安になります

2-2.罹患率

罹患率は、10万人に対して3.4~10.4人当院は脳神経内科専門であるため、年に1〜3例は一過性全健忘の患者さんを診察しています。

2-3.男女、年齢

男女差はなく、中高年に多く、51歳から80歳の間にみらます。発作の持続時間は、15分から48時間で、多くは24時間以内で回復します。平均は、7.4時間程度です。

3.診断

一過性全健忘の原因は明らかになっていません。そのため脳血管障害、片頭痛、てんかんなどとの疾患を否定することで、一過性全健忘の診断がつきます。こういった診断方法を除外診断と言います。

*除外診断:診断のつけにくい病気について、他の病気でないことを診断(除外)することで、最終的にその病気であることを診断すること。

3-1.頭部CT

頭部CTで脳出血、脳梗塞、脳腫瘍を否定します。

3-2.頭部MRI&MRA

頭部MRIでは頭部CTでは見つけられないレベルの微小な脳梗塞、脳腫瘍を否定します。さらに頭部MRAにて脳の血管の狭窄や動脈瘤を否定します。

MRA of the brain
MRA検査画像

3-3.脳波

脳波検査を行うことでてんかん発作を否定します。

4.予後

本人としては、一定期間の記憶が全くなく、思い出すことができない。その間に関わった周囲の人間も何か変だと思う。これだけの症状があるにも関わらず、ほとんどが単発で、患者さんの予後を観察した研究では、繰り返し起きる割合は8%と少ないです。再発した8%もやはり予後は良好です。

もちろん、服薬等の治療も不要です。医師としては「人口5万人の都市で、年に1〜3人は起きる病気です。他の重大な病気も否定されていますし、認知症とも関係がないので、安心してお過ごしください」とお伝えしています。

5.まとめ

  • 突然、一定期間の記憶を失う一過性全健忘という病気があります
  • 本人、周囲の方も認知症?と不安になってしまいます。
  • しかし、予後は良好で、再発率も少ないので心配はありません。
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