服用している薬が認知症を引き起こす!?「薬剤起因認知症」とは

服用している薬が認知症を引き起こす!?「薬剤起因認知症」とは

認知症専門外来の初診で患者さんを診るときに私は「診断は? 進行度は? 治療方法は?」などと考えます。しかし、一定数、日頃内服している薬が原因で認知症の症状が出現している患者さんがいらっしゃいます。この場合、薬を中止するだけで症状は改善することがあるのです。

もちろんこれらの薬を処方したのは、認知症専門外の医師です。残念ながら彼らは自身の処方している薬の危険性に気が付いていません。そのため、薬剤により引き起こされる認知症を予防するには、患者さん自身が自己防衛するしかないのです。今回の記事では認知症専門医の長谷川が経験した薬剤が原因の認知症についてご紹介します。

1.薬剤が原因の認知症とは?

薬剤が原因で過度に鎮静されてしまったり、逆に興奮してしまったりして、認知症のような症状が出現することがあります。私も所属している日本神経学会が2017年に作成した「認知症疾患診療ガイドライン」でも「認知機能障害を呈する患者の中で、薬剤に関連すると思われる割合は2〜12%」もあると推測しています。

私自身の認知症専門外来の印象でも、薬の整理をするだけでかなり症状が改善する患者さんが10%程度いらっしゃいます。

Giving the medicine
日頃漫然と飲んでいる薬が、認知症のような症状を引き起こしていることがあります

2.認知症様を呈する抗不安薬・睡眠薬とは

薬剤が引き起こす認知症症状で最も多いものは抗不安薬や睡眠薬です。

2-1.作用時間が長い睡眠薬に注意

睡眠薬を処方してもらっている患者さんにお願いです。一度、主治医の先生に、「私が服用している睡眠薬の半減期は何時間ですか?」と聞いてみてください。半減期とは、おおまかに言うと薬がだいたいの効果を失うまでの時間のことを言います。その質問に、明確に回答できる医師であれば大丈夫ですが、医師の中には明確に答えられない方が結構いらっしゃいます。睡眠薬は、作用時間によって、超短時間作用型(2〜4時間)、短時間作用型(6〜10時間)、中間作用型(21〜28時間)、長時間作用型(36〜85時間)に分けられます。

中間作用型や長時間作用型は、21時間以上効いているわけですから、高齢者がこのような睡眠薬を服用すると昼間も傾眠になります。結果として、まるで認知症になったように見えることがあるのです。具体的には、

  • 中間作用型:ロヒプノール/サイレース(半減期:24時間)、ユーロジン(半減期:24時間)、ベンザリン(半減期:28時間)
  • 長時間作用型:ドラール(半減期;36時間)、ソメリン(半減期:85時間)

さすがに長時間作用型を一般内科の先生が使用されることはありませんが、中間作用型は結構使われる先生がいらっしゃいます。きっと半減期を知らないから処方できるのだと思います。

2-2.ハルシオンは別格で副作用が多い

中間から長期に作用する睡眠薬は認知症用症状を起こしますが、逆に作用時間が短い超短時間作用型なら安全というわけでもありません。ハルシオンは、作用時間は極めて短いのですが、それ以外の副作用が多く見られます。副作用の中でも、健忘が最も怖い症状です。継続して服用を続けると認知症になる可能性が高いと言われています。高齢者の場合は、絶対に服用をやめてもらいたい薬です。世界的にも処方量が減っていますが、不勉強な日本の医師のため世界総販売額の約6割がいまだに日本で販売されています。

2-3.デパスも1日1回までなら問題ない

デパスはベンゾジアゼピン系に分類される、抗不安薬・睡眠薬になります。筋肉の弛緩作用が強いため、筋肉の緊張が緩み気持ちを落ち着かせます。そのため、睡眠導入薬を初めて服用する患者さんにも使いやすい薬です。私の経験上でも、寝る前に1錠飲む程度では副作用は殆ど見られません。しかし、1日に2回、もしくは3回処方されると、日中も傾眠になり認知症のような副作用が出てしまいます。高齢者の場合は、1日1回寝る前の服用を厳守してください。

Man sleeping with medicines
日中もほとんど寝てばかりで、目が覚めてもうつつのような状態は薬のせいかもしれません

3.糖尿病が過剰にコントロールされていないか?

糖尿病の薬にも注意が必要です。この場合、血糖が高すぎても、低すぎても認知症用の症状が出現するために注意が必要です。ただし、頻度的には血糖が下がりすぎて認知症用の症状が出現していることが多い印象です。

最近の糖尿病のコントロールは、75歳以上の高齢者の場合は、若い方と違いコントロール目標を緩める傾向にあります。具体的には、1か月の血糖の平均を示すHbA1cが7.0台であれば問題はないとされています。(若い方はHbA1c 7% 未満をコントロール目標とします。)

4.胃薬が引き起こしている例も

認知症の患者さんは、胃腸症状を執拗に訴えることがあります。「気持ち悪い。胃がもたれる。吐き気がする。」などです。その場合、専門外の先生は、消化器症状を軽減させるために、ナウゼリンやプリンペランという薬を処方します。

若い方も、胃腸風邪で受診するとよく処方される薬です。これらの薬は、短期間であれば副作用は殆どありません。しかし、高齢者の場合は、症状を訴え続けるため、処方が数か月から数年にわたって継続されることがあります。そうなると、これらの薬は「薬剤性パーキンソン症候群」といって、表情が乏しくなり、歩行も不安定になり一見認知症のように見えてしまう副作用が生じてしまうことがあります。単に胃腸薬と思わずに一度確認してみることが大切です。

Handicapped old woman suffering from abdominal pain, health care, gastritis
たかが胃薬と思っても、慢性使用による副作用を生じさせることがあります

5.身近な風邪薬でも

高齢者や認知症患者さんへの風邪薬の処方は注意が必要です。特に軽い風邪症状の際に処方される総合感冒薬は要注意です。総合感冒薬には、眠気を誘発する成分が入っており、高齢者の場合、認知症のような「せん妄症状」を起こすことがあります。また、認知症患者さんでは、大混乱してしまい緊急受診することさえあります。

高齢者は、38度以上の高熱が出ている、食事が摂れないといった症状がない限りは総合感冒薬の服薬は避けるようにしましょう。どうしても服用したい場合は、漢方の葛根湯がお薦めです。葛根湯については以下の記事も参照になさってください。

6.全身掻痒感に対する抗アレルギー剤にも注意

高齢者の場合、全身の掻痒感を訴えることがあります。通常は保湿剤で対応しますが、効果がない場合は、抗アレルギー剤を使用します。

しかしこの抗アレルギー剤で眠気が出て、認知症用の症状が出現することがあります。そのため、服薬後の意識レベルや反応には注意が必要です。もちろん、副作用がなければ継続しても問題はありません。

7.薬剤起因に本当の認知症が隠れていることも

薬剤が原因で引き起こされる認知症は、薬をやめれば完全に回復すると思われがちです。しかし、薬の副作用の裏に認知症が隠れていることがあるので注意が必要です。

薬を中止しても認知症様の症状が残る場合は、もともと認知症があって薬によって症状が強く出現したと考えます。したがって、薬を中止してから抗認知症薬等の治療を開始します。

8.薬剤起因性認知症が引き起こされる大きな理由とは

なぜ、このような薬の副作用によって認知症様の症状が出現する薬を、医師が処方するのでしょうか?

実は、不適切な薬を処方した医師は、副作用が出現したときには関わらないことが一因です。専門外の開業医であれば、自分の処方による副作用が起きていたとしても、知らないうちに患者さんの方で専門医もしくは救急で受診をしているケースが殆どです。そのため、副作用の経験が医師にフィードバックされないのです。その結果、副作用が強い薬が再び処方されてしまうのです。

9.まとめ

  • 認知症専門外来では、薬の副作用による認知症様の患者さんが10%程度います。
  • 副作用を引き起こす薬は、睡眠薬・抗不安薬・糖尿病治療薬・胃薬・風邪薬・抗アレルギー剤と多領域に及びます。
  • ただし、薬剤で引き起こされる認知症様症状の陰に、本当の認知症が隠れていることもあるので注意が必要です。
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