メリスロンが忘れた記憶を回復?脳神経内科専門医が安易な服用に警鐘

メリスロンが忘れた記憶を回復?脳神経内科専門医が安易な服用に警鐘

先日、凄いニュースが流れました。「忘れた記憶を薬で回復 メニエール病などのめまい治療薬『メリスロン』が記憶力回復に効果がある」とのことです。このインパクトは凄いもので、多くの方から質問を受けました。特に実験対象の年齢が20歳代を中心としていたため、「受験を控えた子供に飲ませられないか?」などの切実なものもありました。マスコミは、こういったニュースを好んで取り上げます。しかし、こういったニュースには注意が必要です。今回の記事では、認知症専門医である長谷川嘉哉が、「記憶を回復させるメリスロン?」について現在わかっている情報と医学界の常識についてご紹介します。

 1.メリスロンとは?

メリスロン(ベタヒスチンメシル酸塩)とは、医師が処方する薬です。薬局等での購入はできません。簡単に言えば、メリスロンは「めまい」を治す薬です。脳や内耳の血管を広げて血液循環をよくします。そのため、メニエール病(メニエル病)をはじめ、めまいの治療に広く使われています。つまり、あくまで我々医師の認識は、「めまいの薬」なのです。

ちなみに、メニエール病(メニエル病)は男性デュオ「タッキー&翼」の今井翼さんがこの病気を再発し、現在治療に専念しています。以下の記事も参考になさってください。

2.メリスロンの作用機序は?

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メニエール病の原因。メリスロンは内耳の血流を改善させる効果があります。

人間の耳の奥には、内耳という部分があります。内耳には聴覚をつかさどる蝸牛(かぎゅう)と、平衡感覚をつかさどる三半規管・前庭(ぜんてい)から構成されています。

メリスロンは内耳の血流改善作用により、内耳障害に基づくめまいの症状や耳の聞こえづらさなどを改善します。

また、めまいは脳循環の悪化によってもおこることもありますが、メリスロンは脳血流の改善作用で脳循環を改善し、めまいを治療します。やはり作用機序的にも、めまいの薬なのです。

3.ニュースに注意!

改めて、今回の記事を検証しましょう。

認知症治療に新たな光。記憶の回復をアシストする薬とは。めまいの治療薬として広く使われている処方薬、「メリスロン」。この薬によって、忘れた記憶を復活させる実験に、東京大学や北海道大学、京都大学などの研究チームが、世界で初めて成功した。実験は、チームは20代を中心とした健康な男女計38人の参加者に128枚の写真を見せて、1週間後にどれだけ記憶できているかをテストする方法で実施。メリスロンを飲んだ場合と飲まなかった場合で、正解率を比較した。すると、メリスロンを飲んだグループでは、脳内の情報伝達にかかわる「ヒスタミン神経」が活性化。忘れていた写真を思い出すケースが増え、正解率が上昇した。

ここからわかることがあります。

3-1.あくまでパイロットスタディ

この記事を読んで、「メリスロンを飲んだら、記憶力が良くなるんだ」とは思わないでください。あくまで、対象は38名とごく少数です。こういう研究をパイロットスタディと言います。パイロットスタディとは、研究の初期段階で行うもので、研究計画が適切かどうかを確かめたり,修正の必要がないかを調べるために,小人数の被験者を対象として行なわれるものなのです。

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研究の初期に、少人数を対象にして行われるのがパイロットスタディです

3-2.誰も、断言していない

あくまでパイロットスタディですから、研究者も決して断言していません。あくまで、「検討している」「期待される」「可能性がある」という言葉しか使っていません。しかし、マスコミで報道されると、皆さん「メリスロンが記憶力回復に効果がある」と思い込んでしまうのです。

正確には以下のようにしか書いていません。

  • 高橋英彦准教授は「様々な病気で記憶が思い出しにくい患者さんはおられますので、そういう方々に臨床応用ができるのか検討している」と話した。
  • 記憶回復メカニズムの解明で、アルツハイマー病など認知症の治療薬の開発が期待される
  • チームの池谷裕二東大教授(薬理学)は「記憶回復のメカニズムが分かったので、今後はより効果の高い薬の開発につなげたい。認知症患者らの生活の質を高められる可能性がある」と話している。

4.安易な服薬に注意

こういった報道がされると、何とかしてメリスロンを手に入れようとする方がいるものです。しかし、以下の点に注意してください。

4-1.虚偽による処方

私が心配しているのは、保護者が偽りのめまいを訴え、メリスロンの処方を受けようとすることです。これは、医師に対する虚偽になりますので、絶対避けてください。

医師の方々には、患者さんがメリスロンの処方を希望した際は、いつも以上に病歴、診察を慎重にしてほしいと思います。

4-2.通常の3〜6倍の量を使用していた。

もう一つ気をつけていただきたいのは、今回の実験で使用されたメリスロンの量は、通常外来で処方する量の3〜6倍の量です。たとえうまく医師から処方してもらっても、通常処方される量では全く効果がないでしょう。

4-3.試験成績が上昇することは実験されていない

あくまで今回の実験は、写真という映像の記憶についてのみの実験です。試験の成績が上がったり、受験に合格しやすくなることを検証したものではありません。

5.副作用に注意

メリスロンは医師が処方する薬ですから、それなりの効果があります。効果があるということは、同様の副作用もあるのです。具体的には、メリスロンはヒスタミン類似作用を有するため、

  • H2受容体を介して胃酸分泌亢進を引きおこす危険性
  • 気管支喘息の患者さんでは、H1受容体を介して気道の収縮を引きおこす危険性
  • 褐色細胞腫の患者さんではアドレナリンの過剰分泌により血圧上昇を引きおこす危険性があります

インターネット等での違法なメリスロン購入は極めて危険ですので、絶対にやめてください。

7.まとめ

  • めまいの薬であるメリスロンに、記憶力を改善する可能性が示唆された。
  • パイロットスタディレベルであり、あくまで可能性のレベルである。
  • メリスロンには副作用もあるため、ネット等での購入は絶対に避けてください。

 

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